無題(完成詐欺)
御手杵が審神者の「魔法」を見たのは、顕現したばかりの当時、初の出陣で受けた傷を手入れ部屋で癒していたときだった。
襖の間から様子を窺うように瞳を覗かせる彼女に御手杵が気付くと、数秒間ほどしばらくこちらをじっと見つめて、恐る恐る近づいてきた。そして唇に弧を描いて、両方の握り拳を御手杵に見せた。起き上がることもそれはなんだと問うこともできなかった。前者は体調的な、後者は精神的なものからだった。審神者は御手杵のそうした様子をちらちら窺いながら、それでも笑っていた。
「見ててね」
突然現れて用も言わずに一体なにが始まるのか、御手杵はどこか遠い気持ちでそれを見ていた。審神者の白く小さな手のひらが力強く己の指を丸めている。そして、それが突然勢いよく開かれたかと思うと、一輪の花があった。
「あ」
御手杵は思わず声を漏らした。その花は、先ほどまで固く握られていた拳の中にあったとは思えないほど美しくその手のひらにあるからだ。花弁は柔らかく、茎も草もみずみずしく生きていた。その素直に驚いた様子の槍に、審神者は安心したように微笑んだ。そして、
「誉」
「え」
ただそれだけ告げて、その一輪を御手杵の頭に乗せた。