熱
きっと、自分の進路を定めたあのときの覚悟、それまで自分が選んできたものや感じてきたものの全て、そして私がいた環境の全てが間違っていたのだろう。文学を守るという崇高な使命と、それが可能である唯一の手腕を持ちながら、それら全てを放棄してこの人と共に居続けたいというこの感情。人生が始まってから今に至るまでの経験や選択、思考の先にこの感情を抱くというのなら、私の、ここまでの全てはきっと間違っていたものなのだろう。
けれど。
「…徳田先生は間違ってないと思います」
彼は私の言葉に顔を上げた。
「先生はいつも、最善の選択をしようと努力されています」
「先生はご自分のことをいつも誰かと比べているようですが…」
「私は、先生がいつもぎりぎりまで考えることを諦めない文豪だと認識しています」
淹れた日本茶はまだ温度を失っていないのだろう。萌木色の円にほかほかと湯気が立っている。手でそれを包んで持ち上げると、指先まで熱く、まるで焦げそうだった。この痛みを逃すまいと湯呑を強く包む。
「その文学を守る強い熱意はきっと、あなたが文豪だから抱ける想いなのでしょうね。
徳田先生みたいな人が文豪になって、私の図書館に来てくれて、本当に良かったと思います」
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