その目が好き ※未完

臆病な目

「あのう、大丈夫ですか」

 勇気を出して声をかけたのは昼休みだった。空は青く澄んで、白い雲がぷかぷか浮かんでいた。なんてことのない昼下がり、太陽が眩しくて爽やかな風が吹いて、なんてことのないどころかそれ以上の気候だった。

 そんな青天井の下、彼は自動販売機の横にあるベンチに座り、まるで日光に自らの頭を差し出すように頭を垂れていた。赤髪にエメラルドグリーンのメッシュが入った不思議な色彩が日光に照らされて艶めいている。

 具合が悪そうだと思ったから声をかけた。彼は頭を重そうに上げて私を見た。目尻の辺りに半月型の黒い染みがこびりついるのを一瞬だけ怖いと思ったけれど、ああ、寝てないんだなと分かると恐怖よりも同情が勝って、その自販機からコーヒーを購入して彼に差し出した。

「頑張ってくださいね」

 彼は戸惑いながら一言、ありがとうございますと話した。その声があまりに暗く沈んでいるものだから、私は心の底から大変そうだなあと思ったのだ。
 



 臆病な目で自分を見上げる彼女に、自分でもぞっとするほど興奮した。あのときコーヒーを差し出した彼女に、今度は自分がコーヒーを差し出している。

「返事を聞かせてくれませんか」

 俺は彼女の返事を急かした。彼女は喉の奥からひっ、と声にならない声で呻く。そんなに怯えることもないだろうに。彼女の帰宅時間や終業時間、会社に来る時間や家で何を食べているか、風呂は何時か、趣味はなにかをちょっと方に触れるか触れないかのやり方で把握しただけだ。

 これは彼女が好きだから、しょうがないことだったのだ。どうしようもなかった。そうしたかったのだ。その方法があるから実践しただけだ。

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