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熱2

「君は、この仕事が終わったらどうするんだい」

 休憩の最中、徳田がふとそんなことを聞いてきた。突拍子もない質問だったので少し悩んだが、やがて「とりあえず貯まったお金で旅行にでも行きたいですね」と当たり障りない言葉を呟いた。

「ふうん。場所は?」
「いいえ…なにも…海外とか…国内も楽しそうですね」
「そうだね。…金沢は冬には来ないほうがいいよ。秋だと、紅葉がきれいだよ」
「あはは、ありがとうございます」

 嘘です。司書は自分の唇から紡がれる虚構をにっこり笑いながら聞いていた。ごめんね先生、嘘なんです。海外に行きたいのも国内旅行が楽しそうだというのも、そもそも旅行に行きたいのも嘘なのだ。
 仕事が終わった時のことなんて考えたくない。この仕事が終わるとき…それは、本が完全に解放された時、そして彼ら…徳田先生と共にいられる時間の終わりでもある。いまはまだ考えたくないな、先生。今は、はまだ。

 彼はごく自然に「ぜひ楽しんでね」と笑った。緩んだ目尻と唇がとても優しい。窓辺から差し込んだ明るい陽光に照らされるその表情は、普段から不機嫌そうにしている彼にしては珍しいものだったので、司書は自分の胸が熱くなるのを感じた。

「はい」

 高揚した気持ちは、しかしすぐに解けて涙に変わりそうだったので、司書はすみません、少し、と立ち上がった。




「…一緒に行ってもいいかな…」

 あまりにも残酷な問いかけだろう。窓から差し込む陽光があまりにもうららかで、穏やかで、夢見心地に浸ってしまうほどだった。
 徳田は彼女が淹れてくれた煎茶を喉に流し込んだ。全てを焦がすほどの熱い液が、胸に落ちていく。

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