ジャンル:あんさんぶるスターズ! お題:打算的な関係 制限時間:1時間 読者:25 人 文字数:3069字 お気に入り:0人
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愛と光の食卓

 爽やかな朝日が部屋に差し込んで、窓を開けたくなった。まだ春の早い日だったが、九時なのに太陽がちゃんと出ている。雲は少ない。北海道は今日も雪が降ったようだったが、東京ではそんな知らせ、どこ吹く風か。花粉症でなくて助かっている。昨晩も終電で帰宅した。仕事を大方片づけてしまった日の終電帰りは充実感に満ちていて、そして今日は会社に行かなくてもいい。解放感で肩や身体が軽く感じられて、寝起きのパジャマのままの手足を思うまま伸ばし、風に晒した。身体に光が満ちていくような感覚がある。窓の大きい部屋でよかったし、ベランダのついた、高層マンションでよかった。こんなところ、今の自分の給料ではとても家賃を払えない。
 ケトルのけたたましい笛も、今朝ばかりは清々しい気分をまるで邪魔しない。世界のあらゆるものが清々しく爽やかに感じられるような錯覚で、俺はるんるんとガス台に歩み寄って焼き物の汁椀にお湯を注いだ。会社で食べられるようにともらっている作り置きの味噌玉を、昨日は食べなかったから。それから、冷蔵庫にはもう三日目の作り置きおかずが残っている。茄子とニンジンと玉ねぎのゴマ味噌そぼろ。温めて、どんぶり飯の上に乗せて卵を落とし、それからちょっと七味を振る。我ながら会心の出来。まあ、作り置きのおかずはもちろん、味噌玉すら同居人の作だ、自分は玉子焼きですら焦がしてしまう腕前で何を偉そうに。どんぶりと汁椀を運んで、箸を出す。湯呑に貰い物のティーバッグと、先ほど余った湯を注いで食卓に並べた。ちょっとした朝食。テレビからは天気予報、その他のニュース。あの仕事(アイドル)を辞めてからこの仕事(同じ事務所のマネージメント見習い、つまりは雑用)に就いて、本当にテレビを消せなくなってしまった。しらすと大葉の溶けだしたみそ汁をすすりながら、スポーツ選手の結婚の知らせを眺めている。記事に太く赤い枠を付けられたスポーツ新聞は紙面の構成が独特で、最近落ちてきた視力でもすぐに分かった。玉子を崩して、いよいよどんぶりに手を付ける。芸能ニュースが次のコーナーに移り、陽気なジングルで浮ついた声が朗らかなコーナー名を読み上げた。
「なーにがワタルズキッチンだよ」
 思わず毒づく。一般の視聴者からの投稿(ときどき仕込みも混ざっているが)を、コーナーを担当しているアイドルが読み上げる。この前のゴマ味噌そぼろ、とてもおいしかったです!このメニューで栄養をつけて、インフルエンザには気を付けていたんですがとうとう二人ともダウン。体調が悪いときにも食べられるメニューがあったら紹介してほしいです!という、「いや体調が悪いなら無理に作ろうとしないで買って休む時間に充てたほうが回復が早いんじゃなのか」と思ってしまいそうな仕込みスレスレの投稿のあと、この時期はまだ寒暖差が激しいですからと当たり障りのないコメントで繋いで「では、あなたの日々樹渉がご紹介します」といつもの流れで続けた。これもまた、来月に刊行されるレシピ本に収録されるんだろうなあ、と考える。日々樹渉は、働いている事務所の所属アイドルだった。だからオフでもこうやって番組を観ているのか、結局仕事か。画面の中の日々樹の目元は、隠してはいるがやはり隈がうっすら見えるような気がする。ライティングのせいだろうか。
「豚バラのお鍋、おいしいですよねえ」
「おはよ」
「はい、おはようございます」
「これうまかった?作り方教えてよ」
「はは、ご冗談を。あなた玉子焼きだって焦がす人でしょう」
 食卓についている俺の隣に、テレビの中でエプロンを付けて包丁を握っているまさにその男が椅子を引いて腰かける。この番組は先日都内某所のクッキングスタジオで収録を終えたばかりだった。先の数回分も同時に収録しているのでしばらくこの仕事は入っていなかったはずだ。これからまた少しの間、「日々樹顔色悪くない?」というSNSでの投稿に気を配らなくてはいけない。
「これくらいだったら大丈夫じゃない?」
「指を怪我しちゃうかも」
「けっこう書類で指切ってるから、俺からしたら包丁より紙のほうが凶器だよ」
 おお、それは怖い!やけに芝居がかった口調も、日々樹渉の独特のキャラクターだった。今は、こんな爽やかな朝にはやめてほしい。肩に、日々樹の頭がごつんと乗せられる。思ったより小さくて、思ったより硬い頭。
「何食べてるんです?わたしパン食べたいんですけど」
「残ってたそぼろ食べてるから」
「自分の料理って飽きるんですよねえ」
「俺にはうまいよ、めちゃくちゃおいしい」
「それはよかった」
「おいアイドル、俺の色艶なんかよくしたって仕方ないだろ」
 昨日の酒が残っているらしい香りが、寄ってきた日々樹からふんわりと漂った。肩に頬がこすりつけられて、伸びかけの髭もこすれる。
「ええっ、いつもお世話になってるマネージャーの肌艶くらい、よくしたって罰は当たらないでしょう」
 大好きな恋人の肌ですからね。日々樹の指先が頬や、箸や食器を握る手に触れて、そして重なった。レシピ紹介のあとに、決まり文句で締める。料理は愛情。俺は愛情を食べている。
 「人間、結局は死ぬまで生きるし、死ぬまで食べるんだよ」
 同じユニットのリーダーがそう頷く。ロケバスの中の小さなモニターで映像を確認しているときにふっと漏らした言葉がきっかけだった。町の注目スポットを特集する企画で、都内のファッションビル内のカフェに行く、という内容だ。ちょうどそこに同じユニットの桃李がプロデュースしたファッショングッズのポップアップストアが出店している。その宣伝も兼ねて。いまや高校生に大人気のファッション番組のリポーターとして活躍する桃李が、とうとう。この仕事の一番最初のオンエアで非常に緊張して表情も硬かったのが嘘のようだ。食らいつくように努力した、その成果が実ったのだ。では、翻って自分は?何もない。いや、袖から赤い花を出したりは出来る。そういうことではない何かだ、ここで生き残っていくための特技が必要だった。
「英智、あなたが言うと重みが違いますねえ」
「そうかな?まあ、好きなものを好きなように食べることは健康にいいと思うよ」
 器一つで気分も変わるだろう?英智の投げかけに、そのときはあやふやに頷いた。あとで思い返して、浮かんだのはただ一人。そうだ、特技と言いながら本当は、彼にしてやれることを探していただけだ。最近アイドルを辞めてマネジメント業に移った恋人のことだった。真白友也と言えば、まだファンたちには傷の深い名前だ。慣れない仕事に、艶のよかった肌はくすみ、ストレスで色の抜けた髪を見つけたこともある。何かをしてやりたかった。ファンの代わりに?労わってやりたい。本当に最初はその気持ちだけだったのだ、信じてほしい。しかし、日々樹渉という男は外では謙虚なふりをして、こうやって内では恋人の肌をシーツのように整えて、それに抱かれることの何が悪いんだなどとぬけぬけと考えているんですよ。本当はわたしだってこういう男なんですよ。そういうドロドロしたところあるんですよ。
 「俺の肌すべすべにしてどーすんだよ、現役アイドルがさあ」と真白友也がびっくりするほどやさしく微笑んで、手触りのいい肌をわたしに与える。肌に頬を寄せる。愛を感じる、彼の愛を。わたしの与えたものが、こうやって確かに、血のように巡ってわたしに帰ってきていた。確かにそうだ。世界はこうやって出来ているに違いない。

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