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春が遠ざかる(髭膝)





おかしい、やけに部屋が寒い。
膝丸は寒さに身を縮こまらせながら、ぼんやりと目を覚ました。

昨日は梅が見頃だと兄者と縁側でお茶をしながら話していた筈だ。なのになぜこんなにも寒いのか、鼻の先がツンと冷たいので、手で覆って暖めながら、膝丸は被った布団ごともぞりと起き上がる。

外はぼんやりと明るい。まだ夜が明けてそんなにたっていないのだろう、日が上るのも大分早くなったものだ。それにしてもこの寒さは異常だ、膝丸は嫌な予感を振り払うように頭を緩く横に振って眠気を飛ばしながら、意を決して立ち上がり、そして部屋の戸をそっと開けてみた。

やはり、というか季節外れにもほどがあるというか。はあ、と知らず知らずについたため息が白くなって空中へと消えてゆく。

なぜだか辺り一面が銀世界になっている。どんよりとした空からふわりふわりと、やわらかい雪が降り続けていた。

なぜ、3月になってまで雪が降るのか。本丸内の気候が狂っている。いやきっと、これは主の仕業だろう、どうせまだまた下らない理由と気まぐれで天候を操作したに違いない。

主が気まぐれに天候を操るのに特に異論はないが、せめて事前に一言ほしかった。寒い、寒すぎる。もう暖かくなるとばかり思っていたのに朝からこの寒さでは風邪を引きかねない。やはり一言文句を言わねば気が済まない。
膝丸がそう心に決めた瞬間、背後からくしゅん、と小さなくしゃみが聞こえた。

「おとうと、寒いよ・・・。」

そういえば部屋の中に兄者がいるのを忘れていた。眼前に広がる銀世界に呆然としたまま部屋のとを開け放っていたので、部屋の空気が大分冷えてしまったのだろう、髭切が布団の奥に引き込もってくぐもった声でいたってシンプルな文句を言っていた。慌てて戸をしめて、冷たい空気を遮断し、膝丸はわたわたと押し入れをあけて七輪を探す。

「すまない兄者、いま部屋を暖めるので少し間ってほしい!」

「んー、それもいいけど。寒すぎて待てないなあ。」

すっかり起き上がった髭切が、布団を背にかけたまま両手を広げて膝丸へとおいでおいでと手をひらひら振っている。

「おまえが抱き締めて暖めておくれよ。」

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