ジャンル:刀剣乱舞 お題:猫の虫 制限時間:15分 読者:45 人 文字数:2375字 お気に入り:0人

電子の海に揺蕩う折り返し1 ※未完




「電子の海に揺蕩う」


「今日はあったかいし、小春日和だね」
「主、それは冬の季語です」
「そうなの?ふふ、平野は物知りだね」
「平野、主は分かっててやってる」

そうだろう?と彼、平野を挟んで左側に立つ鶯丸が視線で投げかけてくる。
せっかく人が他人を褒めたものを。
ああ、そうだとも。温かい春っぽいなんとか日和なら小春日和しかないじゃないか。語呂がいいし。それでいいじゃないか。

「そうなのですか?主」
「なんで、バレたんだろ」
「今は梅の景趣だからな」

舌を出して誤魔化す。そうすると鶯丸は梅の景趣を見やってそう言った。つられて皆そちらを見る。紅白の梅が山の斜面一面に広がる光景は美しく、それらの堂々とした立ち振る舞いが確かな春の始まりの訪れを告げていた。ぽかぽか日差しが眩しくあたたかいのだ。

「鶯丸様は梅の景趣ですと勘が優れるようになるのですか?」
「平野、そいつテキトー言ってるだけだよ」

意趣返しと言わんばかりに言葉を挟む。こいつはいつもテキトーばかりだ。何が命は大事にしろだ。刀のくせに。よくわかんない愚痴が頭の中を駆け巡る、不満だ。不満しかない。なんで私と平野の会話に入ってくるのだ。あほばかたこ。

「バレたか」
「大変だね、平野。テキトーな人たちに囲まれて」
「いえ、僕が未熟なだけです。それにお二人は尊敬する主と鶯丸様です」

案の定の回答に態とらしいくらいの呆れ顔をする。あほなわたし
そう、自分の至らなさを照れるように笑った。



そんな温かい季節が生む温かい風の中の温かな景色はただの"張りぼて"に過ぎない。


今日の昼間にこの場所で起きたことを思い出していた。

「よっ、と」

梅の景趣の欄干に座る。足は空をかき、このまま落ちて行けそうだ。


本丸の主が望めば暦に関わらずここの景色は春にも冬にもなる。一寸先は闇。虚空が広がるのみ。そこはどこでもない、理の存在しない海。座標軸が定まらないただの現代の地獄。

「この世は地獄です、ね。まあ間違ってないな」
「なんの話しだ?」
「!」

驚いて声の方を振り向く。そこにはジャージ姿の鶯丸が立っていた。気配なく私の後ろに立つのはやめて欲しい。撃ち抜くぞ。

「びっくりさせないでよ、って、うわあ!」
「!?」

欄干についていた手を滑らせさっきの妄想がげん


「!?」

妄想が現実になる!!

そうぎゅっと目を瞑っていても不思議と浮遊感がやってくることはなかった。

「大丈夫か、主!?」

今まで聞いたことのない焦りの混じった声色。嘘だろ、やめてくれ。

「え、あ、うん。鶯丸のそんな顔初めて見た」

テンパって本音が漏れた。

「馬鹿なことを言ってないで、命を大事にしろ」

やめてくれ。それじゃあ私を心配しているみたいじゃないか。私を抱きかかえる腕の震えなんて気づいてはいけない。通常を装った声の震えなんて。そもそも声が近い。焦った吐息が聞こえるんだよちくしょう。ちくしょう!

「っていうか鶯丸そんなに速く動けるんだね!まあ刀振るってる訳だしこれくらい当たり前か!いやあービックリした!妄想が現実になるかと思った」

そう言いつつ距離を取ろうとしてもびくともしなかった。ただ一言。

「落ちるから離れては駄目だ」
「いやもう落ちないって。バカじゃあるまいし」
「主は馬鹿だ」
「いやそんなストレートに言うもんじゃ」

ないよと言おうとした。そしたら抱きかかえられたまま内側に座り直され、目を直視してきやがる。

「一瞬でも思ったのだろう?ここから落ちゆく自分を。そして無様に死んでいく自分自身を」

ーーバレた。バレている。いつも通りにそんなことないよと笑って茶化せばいい。いつも?いつも通りに?いつも、どんな顔をしていただろう?ちゃんと笑えていただろうか。

「そんなこと」

無理だ。負けている。圧倒的に負けていた。向こうはこちらを真っ直ぐにこちらの目を見ることが出来ているのだから。




その眼差しは心配とともに確かな怒りを孕んでいた。

「鶯丸……怒ってる?」
「怒ってはいない」
「え、怒ってるよね?」
「怒ってはいないが……そうだ、命は大事にしろ」

取ってつけたようにいつもの台詞を言う。

「なんで分かったのかなー」
「もう忘れたのか、主。やっぱり馬鹿なのかもしれないな。忘れっぽさが大包平並だ」
「むう。そんな馬鹿正直じゃないぞ」

鶯丸は目を開き驚いた表情をしている。なんだなんだ。何がそんなに驚きなんだ。

「主は……いや今はいいか」
「なんだってばよー」
「そう、今は、今は梅の景趣だろう?紅梅に鶯だ。つまりこの景趣のときの俺に分からないことはない。昼にも伝えたはずだが?」

何が伝えた、だ。馬鹿なやり取りに忘れられたのか腕の震えはなくなった。

「(こっちの気持ちなんて何にも知らないくせにどの口が)ってか近い!」
「また主が落ちては困るからな」
「いやまだ落ちてないし」
「せっかくの美しい顔が変な顔しているぞ」
「鶯丸なのに世辞だけが上手くなっていく」
「俺にそんな器用なことが出来ていたとは初耳だ」
「あほ!ばか!景趣なんて明日になったら変えてやる!!」
「楽しみだな。次は桜か」



「大包平様、主様はあれで表に出してないつもりなのですよ」
「どこかの鶴丸じゃないが、驚きだな。主の想いが通じだからこそあいつもあそこまで軟弱化したというのにな」
「ええ。鶯丸様の表情は本当に柔らかくなりました。もちろん主様も。鶯丸をちらと見て微笑むお顔は本当に柔らかく春がほころぶようなんです」
「平野。そこは花がほころぶ、じゃないのか?」
「ふふ、大包平様。これで良いのです。主様ならこうおっしゃいますから」

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