ジャンル:刀剣乱舞 お題:純白の復讐 制限時間:30分 読者:16 人 文字数:4646字 お気に入り:0人

電子の海折り返し9 ※未完







電子の海折り返し8 ※未完



電子の海折り返し7 ※未完











電子の海折り返し5

「今日はあったかいし、小春日和だね」
「主、それは冬の季語です」
「そうなの?ふふ、平野は物知りだね」
「平野、主は分かっててやってる」

そうだろう?と彼、平野を挟んで左側に立つ鶯丸が視線で投げかけてくる。
せっかく人が他人を褒めたものを。
ああ、そうだとも。温かい春っぽいなんとか日和なら小春日和しかないじゃないか。語呂がいいし。それでいいじゃないか。

「そうなのですか?主」
「なんで、バレたんだろ」
「今は梅の景趣だからな」

舌を出して誤魔化す。そうすると鶯丸は梅の景趣を見やってそう言った。つられて皆そちらを見る。紅白の梅が山の斜面一面に広がる光景は美しく、それらの堂々とした立ち振る舞いが確かな春の始まりの訪れを告げていた。ぽかぽか日差しが眩しくあたたかいのだ。ほんとにまぶしい。眩しさに負けて目を細めていたら平野が生真面目に質問をし始めた。

「鶯丸様は梅の景趣ですと勘が優れるようになるのですか?」
「平野、そいつテキトー言ってるだけだよ」

意趣返しと言わんばかりに鶯丸が何か言う前に言葉を挟む。こいつはいつもテキトーばかりだ。何が命は大事にしろだ。刀のくせに。よくわかんない愚痴が頭の中を駆け巡る、不満だ。不満しかない。なんで私と平野の会話に入ってくるのだ。あほばかたこ。

「バレたか」
「大変だね、平野。テキトーな人たちに囲まれて」
「いえ、僕が未熟なだけです。それにお二人は尊敬する主と鶯丸様です」

案の定の回答に態とらしいくらいの呆れ顔を私はしているのに、平野は変わらず真面目な顔をしてそんなことを言ってのける。それがなんだか面白くて、ふと彼はどんな顔をしているだろうと視線を投げると、鶯丸は鶯丸で変わらずこちらを見ることはなく、今も梅を見る目元は髪で直接は見えず、口元は微笑をたたえていた。
だから眩しいんだって。私は気づかないふりで平野の頭をぐしゃりと撫でた。平野は自分の至らなさを照れるように笑った。

どこぞで猫がにゃーんと鳴く。間抜けなやり取りをする私たち、いや、私を馬鹿にするような馬鹿みたいな間抜け声で。





そんな声ももうしない。

動物も寝静まる深い宵闇。今は昼間の太陽の代わりに、月が梅を照らしている。満月でもなんでもない、九夜くらいの半端な月。

今日の昼間にこの場所で起きた

温かい季節が生む温かい風の中の温かな景色

を思い出していた。
それらは、実際に触ることができるってだけのただの"張りぼて"に過ぎない。

「よっ、と」

梅の景趣の欄干に座る。足は空をかき、手を離せばこのまま"すとん"と落ちて行けそうだ。足から落ちていく様を思い浮かべて、とんと滑稽で笑いが漏れた。こういうときは頭からが基本だろう。サスペンスで犯人に落とされる被害者の映像が頭をよぎる。落とすのは被害者への情欲か、怨みか、恋か。


本丸の主が望めば暦に関わらずここの景色は春にも冬にもなる。2205年のこの世界、どこまでも電子世界であった。戦場も、生活も、風景も、何もかも。手を伸ばした先は闇。何も掴むことなく虚空が広がるのみ。そこはどこでもない、理の存在しない海。座標軸が定まらなければ漂流はただの地獄。
私たちの戦場はその中の座標の一つに過ぎない。なので多重世界が混在し、数多もの審神者と歴史修正主義者とのいたちごっことなっているのである。まあ、わかりやすく言えば、バグだ。敵は誰にとっても正しい"この世界軸においての"バグを起こそうとしている。

「この世は地獄です、ね。まあ電子の海に張りぼての景色なんだから間違ってないな」
「なんの話しだ?」
「!」

驚いて声の方を振り向く。そこにはジャージ姿の鶯丸が立っていた。気配なく私の後ろに立つのはやめて欲しい。撃ち抜くぞ。

「びっくりさせないでよ、って、うわあ!」

欄干についていた手を滑らせ、重力に従い頭が先に落ちようと、腰を中心に円を描いて下に引っ張られる。あーあ、下に何かクッションになる木とかあったかなあとぼんやり考えつつ、ふわりとした感覚に包まれる。
私を落とすのはただの不注意で、私を落とした相手はウグイスだった。どんなサスペンスよりも間抜けだ。

「!?」

肩越しに見る鶯丸の顔は目をまんまるに見開いた表情で口を叫びそうなほどに開けていて手をこちらに伸ばしかけている。
こんな状況なのに彼の初めて見る顔に満足する自分がいて嫌気がさした。



手が頭に置いていかれてその場に残るように、ふわりと自然と空に伸びた。


今日も月は綺麗だ。





いつ着地が来るのか、浮遊感と衝撃に備えて目を瞑っていても、不思議とそれらがやってこなくて頭にクエスチョンマークが浮かび始めたころ、代わりに何かに抱えられた感触とどすんと音がした。
永遠とも感じられる時間の後に声がする。

「大丈夫か、主!?」

今まで聞いたことのない焦りの混じった声が耳元で響く。嘘だろ、やめてくれ。

「え、あ、うん。鶯丸のあんな顔初めて見た」

テンパって本音が漏れた。

どうやら鶯丸は私の伸ばされた手を腕ごと引っ張り上げて、その勢いの反動で私を抱え込んで床に仰向けに倒れたようだった。
顔を上げると至近距離で顔が覗けた。いつもは髪で隠れてる右目ものぞく。半端な月明かりの薄暗さに薄めた緑がうっすら光る。ああ、やだやだ。

「馬鹿なことを言ってないで、命を大事にしろ」

やめてくれ。心音がバカみたいにばくばくいっているんだ。



気づきたくないこと。
それはその音が私のものだけじゃないこと。



やめて。



それじゃあ私を心配しているみたいじゃないか。私を抱きかかえる腕の震えなんて気づいてはいけない。いつもは隠れている心配に揺れる瞳に気づくな。通常を装った声の震えなんて。そもそも声が近い。焦った吐息が聞こえるんだよちくしょう。ちくしょう!刀のくせに。刀のくせに。テキトー言うな。

「っていうか鶯丸そんなに速く動けるんだね!まあ刀振るってる訳だしこれくらい当たり前か!いやあービックリした!妄想が現実になるかと思った」

そう言いつつ距離を取ろうとしてもびくともしなかった。ただ一言。

「落ちるから離れては駄目だ」
「いやもう落ちないって。バカじゃあるまいし」
「主は馬鹿だ」
「いやそんなストレートに言うもんじゃ」

ないよと言おうとした。そしたらぎゅっと抱きしめ直される。これじゃ顔が見えない。大人しく目を瞑って静かになっていく波打つ心音を聞くことにした。とくん。

「一瞬でも思ったのだろう?ここから落ちゆく自分を。そして無様に死んでいく自分自身を」

踏み出した階段を踏み抜いたみたいな一瞬。暴かれた真実。

ーーバレた。バレている。

「そんなこと」

いや、無理だ。その続きは言えない。負けている。圧倒的に負けていた。顔を上げると向こうはいつの間にか真っ直ぐにこちらの目を見ることが出来ているのだから。

「私は、わたし、」

私の心臓がまた跳ねている。

私は張りぼてでいいんだ。触れられなくたって。張りぼてがいいんだ。この電子の海を囲うくらいのちゃっちい、中の人形が満足できるくらいの張りぼて。そしたら何か不備があっても張りぼてだからって納得出来るでしょう?
この地獄をただひたすら揺蕩うことになっても、私はその手を取る勇気がない。

「鶯丸は、なんで分かったの?」
「もう忘れたのか、主。やっぱり馬鹿なのかもしれないな。忘れっぽさが大包平並だ」
「むう。そんな馬鹿正直じゃないぞ」

鶯丸は目を開き驚いた表情をしている。なんだなんだ。何がそんなに驚きなんだ。というかそろそろ姿勢を変えないか。私は貴方に乗りっぱなんだけど。

「主は……いや今はいいか」
「なんだってばよー」
「そう、今は梅の景趣だろう?紅梅に鶯だ。つまりこの景趣のときの俺に分からないことはない。昼にも伝えたはずだが?」
「それ本気だったんだ。でも、その景趣はいつでも変えられるただの張りぼてだよ?」
「主が気にしてたのはそこか」

そこで鶯丸は一呼吸置いて息を吸う。不思議に思っていると、主も深呼吸しろと言われた。素直に従ってみるが、その、こんなこと言うのはとてつもなく恥ずかしいがこの距離で嗅ぐとだな、その、鶯丸の匂いがするんだけど……。たぶん彼自身は無臭なんだけど、柔らかい優しい香りがする。そんなことを考えている人の気も知らず、彼は目を閉じて進める。そういう人だ。それぐらいは知っている。ああ、私の願望は……。

「梅の香りがするだろう?朝がくれば夜明けとともにウグイスが鳴き始める。俺はその声で目が覚めて縁側で茶を飲む。そうすれば三日月が茶をもらえるか?と隣に来る。大包平は朝から五月蝿い奴だから鍛錬を行なっているだろう。それを三日月と眺めるのが日課だ。そのうち朝餉の当番が支度を始める。主は寝起きが悪いからな。朝餉が出来てから不機嫌な顔で起きてくる」

悪かったな、寝起きが悪くてと思いつつ続きを待つ。そこで鶯丸は一旦言葉を切った。

「つまり、俺にとってはそれらが全てだ。そこに主が恐れるようなものなどはない」
「私は、それら全てがこわい」
「主は考えすぎるのが悪い癖だ」
「そうだね。はぁー、」

死んでしまいたい。その願いを目の前の男にぶつけたらどんな顔をするのだろうか。悲しい顔?怒った顔?どちらにせよ、それは褒められた行為じゃないだろう。不忠の主だ。私はどれだけ頑張っても貴方達にはそぐわない。そんなことは初めから分かっている。

「張りぼてにも香りはある、か」
「ああ。張りぼても悪いものではないだろう」
「私は張りぼてはそもそも嫌いじゃない」
「そうか」

そこでやっと鶯丸は起き上がった。私も坐り直す。今度は欄干の上ではなく、床の上に。

「寝ようか」
「そうだな。たまには送り届けよう」

二人してなんだか神妙に歩く。静まり返った本丸で二人で歩く足音は新鮮だった。振り返ればそこに鶯丸がいるのか……。そうこうしているうちに自室に着く。なんだか不思議な夜だった。

「命は大事にしろ、主」
「明日には景趣を変えておくよ」

去り際に彼はこんな台詞を置き土産に残すものだから、


「(顔を埋めてしまいたい。こわいこわいと縋り付きたい。その腕を取ってしまいたい。)」



「せっかくの美しい顔が変な顔しているぞ」
「鶯丸なのに世辞だけが上手くなっていく」
「俺にそんな器用なことが出来ていたとは初耳だ」
「あほ!ばか!景趣なんて明日になったら変えてやる!!」
「楽しみだな。次は桜か」


「いや、張りぼてにも匂いはあるものだ、と」



「大包平様、主様はあれで表に出してないつもりなのですよ」
「どこかの鶴丸じゃないが、驚きだな。主の想いが通じだからこそあいつもあそこまで軟弱化したというのにな」
「ええ。鶯丸様の表情は本当に柔らかくなりました。もちろん主様も。鶯丸をちらと見て微笑むお顔は本当に柔らかく春がほころぶようなんです」
「平野。そこは花がほころぶ、じゃないのか?」
「ふふ、大包平様。これで良いのです。主様ならこうおっしゃいますから

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