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幸せな死 太中

『家族』なんて言葉ほど、自分に無関係な言葉はない。
要らない。必要ない。その存在だっていらない。
だから、同僚が祖母のところへ帰るのだと嬉しそうに話したとき、首をかしげてしまった。
一緒に上京してきて、そのまま置いてきてしまったのだという。こんな大きな都会に一人っきりで暮らすなんて寂しいだろうから時々帰っているのだと、もう何十人もの人を殺めた手で荷造りをして、数えきれないほどの偽りを吐いた唇に無垢な笑顔を浮かべた。
そんな彼は、俺とは違う世界の、違う人種の者のようで。妙に違和感を感じた。感じたまま彼が旅立っていくのを見たから、その3日後に彼の生首を見ても、何も思わなかった。
彼は、老婆を守るように抱き締めて撃ち殺されていたのだという。それが彼の言っていた祖母だろう。血をわけあった家族と抱き合って、その人生を終える……
「羨ましい人生だね」
太宰は、そう言った。
「大切な人の温もりを感じながら死ぬことができるなんて、そんなに幸せなことはないだろうね」
「……手前が言うことか?」
「誰にも迷惑をかけない、清く美しい自殺。それが私の信念だからね。羨ましいとは思うけど、私とは無縁な話だよ」
そう言って、自分で持ち込んだ鶏肉で作った焼き鳥を食べ、それを肴に酒を呑んた。
いつの間に、俺の家の台所の使い方を覚えたのだろうか。
「でも」
ことり、と酒を置く。焼き鳥はなくなった。
「中也が寂しいなら、私の胸を貸すけれど」
目を瞬かせる。何を言っているんだ?寂しい?
太宰は、机の上の布巾で手を拭い、くすくすと笑った。
「いや、中也があんまり妬ましそうに語るものだから。少し羨ましかったんでしょ、温もりを感じながら死んでいった同僚くんのこと」
否定しようと口を開いたが、その前に太宰が大きく腕を広げて胸を差し出した。
「おいで、中也」
……寂しい、という感覚はわからない。家族の温もりもわからない。
でも、こいつの温もりは知っている。温もり、と言うほどのものではないが。あまり柔らかい肉がついていなくて、体温が低くて、酒と包帯の薬物的な匂いがする。
よく知っていた。何度も抱かれた胸だ。よく知っている。
その胸に顔を埋めて、ぽんぽん、とあやされるままに身体を預けた。
「家族……ねえ」
確かに私達とは無縁だよねえ、と、頭上で呟いた。悲観的でもなんでもない、いつものふざけた口調。
こいつにとって、家族とか恋人とかって何なのだろう。命をかけても守りたい者というのは、いるのだろうか。
「命、ねえ……」
命をかけて、なんて容易く言える言葉ではない。お互い、明日生きているかもわからない身だ。将来の約束なんてただの1つもできない。
それでも、太宰は言った。
「いるよ。きっと、守らせてもくれないだろうけど」
ていうか、私の手に負えるような人じゃないし、と、俺をぎゅっと更に強く抱き締めた。
相変わらず体温が低い。
俺は死ぬとき、何を感じているだろうか。一人で死ぬのか、はたまた誰かと折り重なって死ぬのか。
もしそうなったら、体温を感じているのは誰だろう。動かない身体は、誰に触れているのだろう。

低い体温と細い身体と酒と薬の匂い。これを、感じているだろうか。
そうなら、いいけど。叶うわけないけど。
でもきっと、彼の祖母は幸せだっただろう。広い都会であぶない仕事をしている孫の身を案じながら、日々を幸せに過ごしていただろう。
なら、俺は幸せだ。家族なんていなくても、この時間があるのなら。こいつがいるのなら。
きっと、こういうことだ。
「ん、中也眠い?」
「……ぅん……」
さらさらと髪を撫でられる。うとうと、瞼と頭が落ちてくる。
「寝ていいよ、中也」
「……ふぁ」
「おやすみ」
俺は、あらがわずに目を閉じた。
ずっと握っていた手の温度は、ぬるかった。

これがあるから、人は生きていけるのだろう。これのために、人は生きていくのだろう。
それじゃ、俺はこのために生きてみるか。
こいつのために、
大事な人のために、
命とかいろんなものを、賭けて。

おやすみ、太宰。

とりあえずは、幸せな夢でもみよう。
中也は、愛する人の胸の中で微笑んで目を閉じた。
太宰は、そんな中也の額に口づけを落として、おやすみ、と呟いた。

幸せな、夜の話。

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