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たからもの 太中

とんとんとんとん……
 リズミカルな、食材を包丁で切る音で目を覚ました。
 ふわあ、と1つ欠伸をして、部屋を見渡す。
 最近、私の部屋には2つのものが増えてきた。2つの枕、2つの皿、2つの歯ブラシ……
なんだか嬉しくて、口元に笑みを浮かべた。これらの物の片方は、さっきからのこの包丁の音の演奏者、どこで覚えたのか皆目検討もつかない料理という技を披露している人のものだ。
 布団から出て、その人のところへ行った。
 彼は、思わず吹き出してしまいそうなくらい真剣な表情で人参を切ってきた。
 ばれないようにそーっと彼の背後に近づいて、驚かせようとしたが……
「よく寝てたな」
 てへ、ばれちゃったか。
「ばれちゃったじゃねえよ、ったく」
「いやぁ、今驚かしたら手元が狂って包丁が胸にグサリ、とかなんないかなあって」
「なるか、莫迦。ほら、もうすぐできるからあっち行ってろって」
 しっし、と手で払われたので、含み笑いをしながら戻った。

「頂きます」
「……ん」
 野菜と肉の煮物だ。味が濃くて美味しかった。
 さっき切っていた人参を拾ってみる。
 家事はなんとなく中也の担当になっていた。何故か料理というものができる彼は、こうやって度々料理を振る舞っては私を驚かせている。作る度作る度技術というのは上がるようで、この人参も切り込みを入れた花形だった。思わず笑ってしまう。母親が子供を楽しませようとしてやる細工じゃないか。
 私を台所から追い出したあと、神妙な顔で小さな人参を凝視して丁寧に切り込んでいる中也を想像する。いつも荒々しく人を手にかけるくせに、1つ1つのことはやけに丁寧だったりするのだ。
 いぶかしげな顔をしている彼を綺麗な花形だね、と誉めてから、含み笑いで言った。
「中也って意外と母性強いよね」
「は?」
「お嫁さんっていうよりは、お母さんみたい」
「ふざけんな」
「じゃあ、お嫁さんがいいの?」
 彼はぶすっとした顔を少し赤らめて、黙ったまま里芋を口に放り込んだ。
 そんな彼の顔をおかずに食べるご飯は、たまらなく美味しかった。

 お母さんみたい、と言えども、夜になると途端に彼は可愛らしくなる。
 一糸も纏わない身体に触れる度、ぴくっと身体を震わせ、私の名前を呼ぶ。
 それに答えながら首もとに顔を埋め、少しずつ少しずつ彼の身体を開いていく。
「中也……平気?」
「……ん」
 こく、と彼が頷いたのを確認してから、深く沈み込んだ。
 彼の足がはねあがり、たまらなそうに枕に顔を埋める。だけどそうはさせないと顎を摘まみ、口づけをする。口を離すと、彼はとろんとした濡れた瞳で私をみつめるのだ。
 それを見るとぞくっと脊髄を何かが駆け抜け、わずかな理性を断ち切っていく。
 そうなると止めるものは何もなくて、彼は激しく揺さぶられながら何度も私の名を呼び、私も激しく揺さぶりながらそれに答えるだけになる。
 そして、日付が変わる頃になってようやくぐったりした彼を離し、抱き締めて眠りにつくのだ。

 目が覚めた。
 少しの間ぼんやりと天井をみつめて、そろそろ電球を替えないとなあ、と考えた。
 そして、胸の中の温もりをみつめる。
 私の胸に頬をつけ、すやすやと眠っている。警戒心のないあどけない寝顔は、彼の本性なのだろうか。まあ、こんな無防備な敵を前にして何もしない私を見れば、彼を殺す気などさらさらないのはわかるだろう。
 職業柄、少しでも衝撃を与えてしまえば彼はすぐに目を覚まし、意識がはっきりする前に拳を打ち込んでくる。どうしようとないことなのかもしれないが、愛らしい恋人の寝顔を前に何もしないというのは苦痛だ。
 だけど、この苦痛も幸せだ。幸せすぎる、と感じてしまう。人の幸せを奪い続けていた私が、こんなに幸せになっていいのだろうか。いいわけがない。きっとその内、天罰が下るだろう。
 彼がいるから、死が嫌になってしまった。怖くはない、覚悟はあるから。だけど、嫌だ。この温もりと離れるなんて。
 だから、もう少しこの日々が欲しい。何が起こるわけでもない、彼と過ごす、幸せな日々。これが、長く続けばいいなと、願うだけ。
 彼が起きる気配はない。起こすのも可哀想だから、私ももう一眠りしてしまおう。
 もう一度彼の寝顔を見てから、目を閉じた。
 きっと、次は彼の怒鳴り声で目を覚ますだろう。一番最初に見るのは彼の呆れ顔。彼は、「もう昼だぜ、いい加減起きろよ」と言う。本当は私の方が先に起きていたんだけどね、と言い訳をしながら布団から出て、無意識に布団を畳んでしまっている彼を、やっぱりお母さんみたい、と笑う。彼は、どんな顔をするだろうか。
 口元に笑みが浮かぶ。すごく、楽しみだ。
 おやすみ、中也。
 小さく呟いて、気持ち良さそうな恋人の寝息を子守唄に、眠った。

 どうか、末永くよろしく。

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