ジャンル:進撃の巨人 お題:苦い復讐 制限時間:4時間 読者:36 人 文字数:3546字 お気に入り:0人
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苦い声

 アニメ56話を基にしました。クルーガーとクサヴァーが、ヒィズルの為に働く諜
報員のような存在だったら・・・という妄想と捏造甚だしい拙作でございます。アニ
メ56話に登場していたのがクサヴァーであるらしい事から着想し、創作しました。
 時間軸は、ジークが両親は復権派だとクサヴァーに告白する数週間前という設定で
す。




「どうしても、ジークを継承者にしなければいけませんか?」
 その質問は無駄な抵抗であると、クルーガーに訊いたクサヴァー自身がよく理解し
ていた。
 名誉マーレ人の赤い腕章を付ける事を許された『マーレの戦士』には、戦士隊本部
の兵舎に狭いながらも個室が与えられる。クサヴァーの自室では、書棚に入りきらな
い生物学や医学の書籍があちらこちらに積み上がっている。窓外は空だけでなく空気
までも深い藤色に染められ、太陽は本部の外に並ぶ集合住宅の屋根の向こう側のいず
こかで、今まさに沈み込もうとしていた。
 部屋の灯りは机上のランプだけであった。窓ガラスを通り抜けた外の夕闇が、イン
クを零したように室内に刻々と広がっていく。クサヴァーと向い合う格好で足を組ん
でソファに座っているクルーガーの制服は、任務を装って来室した時よりも暗い青色
であった。
「本国の決定事項だぞ。俺に頼んでも無駄だ」
 クルーガーの声は、情を排したどこまでも冷静なものであった。クサヴァーの双眸
(ソウボウ)が伊達眼鏡の奥で苦し気に歪んだ。
「分かっています。貴方は、ヒィズル・・・本国からの命令を私に伝えるだけだ」
「分かっているなら、無駄な質問をするな。お前もイェーガー一家の血液サンプルを
確認している以上、ジークやグリシャの血が如何に貴重かは理解しているだろ」
「純血エルディア人の血が貴重である事は理解しています。ジークにはフリッツ家の
血も流れている。ですが、ジークはまだ七歳の子供です。親の情愛に恵まれない可哀
想な子です。普通の家の真っ当な両親から生まれる事さえ許されなかったのに、その
上、あの子から未来まで奪うのは―――」
「お前の息子ではない」
 怜悧な制止であった。クルーガーのその声は、クサヴァーから喉元を抑えた。
「ジークは、お前の息子ではない」クルーガーが繰り返した。「グリシャ・イェーガー
とダイナ・イェーガーの実子だ。お前の息子は、お前が収容区に入る前に死んだ。ジ
ークは本国が決定した継承者の第一候補である事を忘れるな。余計な情を持つな」
 薄暗い部屋の中、クサヴァーは俯いた。両膝に両腕を乗せ、祈るように両手を組ん
だ。
「違います」クサヴァーは俯いたまま、呻くように否定した。
「何が違う?」クルーガーの声が、一段低くなった。
「息子は、死んだのではありません。殺されたのです。私の・・・妻に」
「細君に自殺された件については、同情する」
「当時のことをご存知ですか?」
 両手を組んだまま顔を上げたクサヴァーを、クルーガーは感情を露わにしない常と
変わらぬ表情で見返し、「報告された範囲でだが」と答えた。
「年上の妻とは恋愛結婚でした。私の立場は貴方と同じ潜入諜報員でしたが、妻に嘘
をつく生活は苦ではなく、寧ろ幸福でした。妻には、愛と同時に恩も感じていました。
彼女のお陰で、私は一人の人間として社会に認められたのです。だから本国に協力す
る事に罪の意識は微塵も感じなかった。妻が三歳になったばかりの息子を道連れにし
て自殺したのは、私が医者としてやっと独り立ちした二十五の頃でした。台所のテー
ブルにあった遺書の冒頭を読んで自殺の理由を知った私は、自分への恨みつらみが綴
られているかと思うと、怖くて最後まで読めずに遺書を燃やしました。遺書が燃える
間、妻と息子から目を離せなかった。私は妻を憎みました。愛しながら、憎みました。
ほんの数時間前は私に微笑みかけてくれたのに、何故息子を殺したのかと。君まで、
私を拒否するのかと。そして私は悟りました。生まれた時から自分には自由など無く、
どこにいてもエルディア人の血から逃れられないのだと。その後、本国に頼んで、戦
士隊に入隊する事と収容区内の情報を貴方に流す事を条件に、収容区に戻して貰った
のです」
「ジークに、息子の面影を重ねているのか?」
「えぇ、そうです。ジークには申し訳ないが、あの子とキャッチボールをしていると、
夢の続きを見ているような気分になります」
「分からなくは無い」
「え・・・?」
 クサヴァーには、ジークの反応が予想外であった。向かいのソファで足を組むクル
ーガーを凝視したが、薄暗くなってゆく室内では、彼の表情からはいつも以上に感情
を読み取れなかった。
「幼少期だが、養父母に両親の面影を重ねていた時期があった。フクロウの名を与え
てくれた養父は俺を実子同然に養育してくれたが、養父母の家で幸福だと感じる度、
実母が死の間際に発した俺を呼ぶ声が耳元で蘇った。結局、養父母には最後まで心の
内の全てを明かせなかった」
「そうだったのですか・・・」
 クサヴァーは目を伏せた。
「ジークを構ってやるのは良いが、情を掛け過ぎるな。任務に支障が出る」
「はい・・・」
 納得した末に出した返答ではなかったが、それはクサヴァー本人だけでなくクルー
ガーも承知しているようであった。
「最初に話した通り、ジークに『七つの巨人』いずれかを継承させる事は、本国の決
定事項だ。次の継承迄は十年から十一年あるが、継承候補から外れた訓練兵は戦地で最
前線に配置される。ここでフリッツ家の血を引くジークを死なせるわけにはいかん。
接する機会があるなら、お前がジークを発奮させろ。マーレ軍幹部の協力者がいても、
成績最下位の訓練兵を継承候補にさせるのは無理がある」
「了解・・・しました」
 抵抗の術は無かく、クサヴァーは俯いたまま答えた。クルーガーはソファに置いて
あった制帽を被り、ソファから立ち上がった。続いて立ち上がったクサヴァーの視線
の先で、クルーガーは積み上げられた書籍が林立する中を慣れた動作で進むと、ドア
ノブに手をかけた。ふと動作を止めたクルーガーを、クサヴァーは怪訝そうな様子で
見た。
「養父の受け売りだが」と前置きしてから、クルーガーが続けた。「己がどちらにいる
べきか迷っている時は、迷いを捨てて為すべき仕事に専念しろ。俺達のような仕事は、
迷いが命を危険に晒す。危機に瀕するのが自分の命だけとは限らない。寧ろ他者の命
を犠牲にする可能性が高い」
 何と答えるべきだろうかと、クサヴァーは暫く逡巡していた。彼の背後にある窓は
紺色に染まり、薄暗い中に一人立つクルーガーの表情は窺い知れなかった。
「分かりました」
 そう答えるしかなかった。クサヴァーに分かっている事は自分に任されている仕事
であり、自分がしたい事はまだ見えていなかった。
 クルーガーがドアノブを回しかけた時、クサヴァーが「フクロウ」と呼びかけた。
今しか訊く機会は無いとクサヴァーは直感していたが、何故そう感じたのかは、彼自
身もよく分かっていなかった。
「何だ?」
 クルーガーはドアノブを握ったままクサヴァーに身体を向けた。
「妻はマーレ人でした。妻は・・・いえ、妻も私を憎んだのでしょうか。妻が自殺し
たのは私がエルディア人であり、息子にその血が流れていた事を知ったからです。妻
は、自殺によって嘘を吐き続けていた私に復讐しようとしたのでしょうか?」
 宵の影に覆われたクルーガーは、暫く無言でクサヴァーを見ていた。
「済まないが、俺には分からん」
 クルーガーはそれ以上何も言わず、クサヴァーの自室から出て行った。扉の閉まる
小さな音が、クサヴァーの耳元に届いた。
 クサヴァーは、泣き出したいのを堪えるように両目をゆっくり閉じた。目を開けれ
ば室内は薄暗いままで、机上のランプの灯りは、壁際に置かれた蓄音機のホーンの端
に微かな輝きを与えていた。その蓄音機は、かつて収容区に移る際、妻と暮らした家
から持ってきたものであった。『マーレの戦士』となり自室を与えられた時も、収容区
の自宅から持ちこんだ。
―――ねぇ、次はこれにしましょうよ。
 不意に、耳元で亡き妻の声が蘇った。妻はレコードを聴くのを日々の楽しみにして
いた。子供が成長したら、また二人でコンサートに行こうと話していた。幸福だった
日々が、今のクサヴァーには酷く苦いものであった。


                                    終
拙作にお付き合い頂き有難うございました。'19,6,13

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