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誰そ ※未完


 黄昏時。
 由来は影の落ちた顔に「誰そ、彼は」と問うことにあるらしい。
 
 暮れた空に鴉の鳴き声が響く。少し物悲しくなるその声に屋敷へ戻る足が早まる。

「清正」

 少し後ろから掛けられた声に振り返る。落ちかけた日に照らされた憎き宿敵の顔。奴はじっとこちらを見つめている。

「何じゃ! 急いでおるのだ、早くしろっ」
「そんなに急かさなくとも良いじゃろ? 幼子でもあるまいし」

 まるで門限を過ぎる寸前の子のようだと、奴はくっくと笑いながら言う。その声すら煩わしく、突き放すように答えた。

「最悪じゃ、こんな時間をお主と過ごすなど」
「はぁ、つまらん。なんだその態度は? 折角の暮れどきだぞ?」
「だからこそ! 儂は早く帰りたいんじゃ!」

 早み足は駆け足となった。己達の落とす影が濃く、伸びていく。その様子にぞわぞわと悪寒を感じながら先をめざして歩んでいく。
 奴の能天気には呆れたものだ、この時期の黄昏時ほど恐ろしいものは無い。嫌という程伸ばされた後、とぷんと水に沈むようにあっという間に影に包まれる。
 その感覚がまるで、命を無理に引き上げられたあの時のようで。居心地の悪くなるそれが、全く好ましくなかったのであった。

「清正、おい、清正」

 闇に包まれる景色に、焦り出す。
 奴の問いかけに構っている暇などなかった。ばしゃり、と水たまりを踏みつけた。袴の裾が冷えた。

「いいのか」

 視界が悪くなる。この道の先にはあの屋敷の門がある。そう思った瞬間

 ひたりと歩みを止めた。
 振り返る前に、ひとつ、問う。

「……誰だ? お主は」

 再び含み笑いが聞こえた。それは地に這うように、低い声だった。
 

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