ジャンル:モブサイコ100 お題:猫の雑踏 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:2822字 お気に入り:0人
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猫の雑踏


 その依頼を聞いたとき、不意に思いだしたのはアイツ、モブの弟の言葉だった。
 相変わらず彼と俺の間には共通の話題が「モブ」しか存在しない。いつだったか彼、……律が言ったのだ。
「兄さんは猫を探すのが得意なんです。……どうやってるのか、聞いても教えてくれなかったけど。近所の人とか、クラスメイトの飼い猫がいなくなったりしたとき、兄さんに相談するとなぜか猫が戻って来るんだ」
 さもありなん、と俺は思った。モブは何かにつけ、「万能の力じゃないし、モテない」と沈んだ表情で言うのだが、限りなく万能じゃないかと俺は思っている。使い方次第だ。ここらはエクボと意見が一致している。俺たちがモブの思いつかないような悪知恵を吹き込んだところで、モブは実行しないだろうが。
 話を戻そう。つまり迷い猫探しの依頼が舞い込んで来たのだ。ペットの捜索依頼というのは、この「霊とか」相談所にもごく稀に持ち込まれる相談であって、一般市民にして見れば、霊能力者も超能力者もソロモン王の指輪も全部一緒くたというわけだ。実際のところ俺はペットどころか霊とも会話できないのだが、そんなことを白状する必要などない。
 ともかく俺は「うーむ……この町だけでも何百と飼い猫がいますから、動物たちの嘆きの声はひっきりなしに耳に入っておりまして、おたくの猫ちゃんの声がどれなのか、私は存じ上げないものですから……。……ええ。承知しております。やれるだけのことはやろうといらしてくださったんですよね。もちろん! お引き受けいたしましょう! しかし何分動物というのはアレでして……精神のつくりが人間とは違っていてどうも……ああいやいやいや! 手は尽くしますがしかし……ええわかっていただけますか! ええはい! もちろん、万策をもって大事な猫ちゃんを捜索いたします! 料金コースはこちらで――」…………というような口上を述べて仕事を請けたのだった。
 いつもなら一人で行う類の仕事だったのだが、何の成果もないまま一日が過ぎ、二日が過ぎ、相談所に顔を出しに来たモブに、俺はついつい愚痴を漏らしてしまった。
「そうですか」
 モブは、頼んでもいないのにもう頼まれてやる気まんまんの顔で、俺のほうへ寄ってきた。
「写真とか、首輪とか、預かってますか?」
「ああうん……これ」
 依頼人に預かった写真を渡すと、モブは顔をほころばせた。
「かわいい」
 写真に写っているのは綺麗な長毛種の白猫だ。瞳はなんと、グレーがかった青色をしている。かなりかわいい。
「名前は大理石ちゃん」
「だ……?」
「大理石ちゃんだよ。ほら、石の、白いの」
「はあ。猫の名前ってそういうもんですよね。昔うにちゃんとあわびちゃんていうのがいて、飼い主さんが好きなんだろうなって思ったことがありました」
「どれも高級な名前だな。……首輪もいるのか? それは預かってない」
「首輪というより、毛ですね。毛が絡まってるだろうと思って。でもないなら仕方がないです。じゃ、師匠は待ってて」
 モブが写真を持ったまま、ふうっと事務所を出て行こうとするので、好奇心に駆られた俺は呼び止めた。
「待て、それでどうやって探すつもりだ?」
「どうやって……まあ、聞いて回ったり」
「へえ。コツを知りたいな。ついてってもいいよな?」
 モブは嫌そうな顔をした。残念ながら、それで察して引き下がってきたのであろう律くんとは違い、俺はますますワクワクしている。
「いいですけど……僕の言うこと聞けますか?」
「おっ、師匠に向かって威勢がいいな」
「師匠……」
「冗談だよモブ。現場でお前の言うこと聞かなかったことがあるか?」
「ないですけど、師匠は僕がしないでって言ったこと以外の、思ってもないことするから……でも、いいですよ。そんなに遠くに行くわけじゃないので」
 モブは片手に写真を握りしめたまま、事務所の外へ出て、ぶらぶらと歩き始めた。植え込みの中や車の下なんかを覗き込み、見た目は普通の猫探しだ。大声で猫の名前を叫ばないのがちょっと違うか。
「あっ」
 てくてく歩いていく虎猫を見つけたモブは、「師匠!」と振り向きもせずに手を差し出した。……握れってこと?
 モブのしっとりした、若い皮膚の手を握った瞬間、世界の色がぐるりと変化した。景色の彩度が下がり、まるで古い写真の中だ。
「手を離さないで。喋っちゃダメです」
 若い弟子は囁くなり、先ほど見かけた猫を追って走り出した。猫は壁も障害物もまるで意に介していないかのように三次元に好きなように移動する。モブも普段の運動音痴が嘘のように、羽のように身軽に猫を追いかけ、なぜか俺も同等の動きでついて行くことができた。
 初めに見つけた虎猫以外にも、いつの間にか猫が傍を並走していて、どうやら同じ方向に向かって一心不乱に進んでいるようだ。しばらくして、角を曲がった先で目に飛び込んできたのは、涼しげな噴水だ。……こんなとこ、調味市にあったか?
「水飲み場なんです」
 モブは短く言い、しゃがんで手近の猫に写真を見せた。猫は欠伸をして、丸まっただけだったが、モブにはそれで十分らしかった。
 そちらこちらに猫がいて、しかも好きなように動き回る。下手をすると踏んでしまいそうだ。モブはすいすい猫の間をすり抜けて、まるで知り合いを見つけたかのように「あ、大理石ちゃん。君だね。もう向こうでは一週間経ってるよ。おうちの人が心配してるから、帰ろう」
 そっと腕に抱いたのは確かに写真に写っていた美猫、大理石ちゃんである。俺はその事実と、ここまでの道程に心底驚いて、「確かにその子だよ! すごいなお前、一体どうやって――」
 のどかな空気が一変していた。寝ていた猫、遊んでいた猫、水を飲んでいた猫、すべてがこっちに首を向け、微動だにしない。
「……師匠」
「……すまん」
 モブはパッと手を離し、俺は見捨てられるのかと正直恐怖したのだが、モブは再び手をガッチリと握り直した。
「走って! この広場から出ればいいから!」
 重力は戻っていた。さっきまでの身軽さは嘘のように、アラサーの足の重さに逆戻りだ。
 モブはなんだか余裕そうにはあはあ息を吐いて、俺より一歩早くさっき指定した地点へ飛び出し、遅れた俺の手を強く引いた。片腕には白猫を抱いたままだ。
 そして次の瞬間、俺たちは、最初にモブと手をつないだ道路に立っていた。
 モブは静かに大理石ちゃんを地面に下ろす。
「寄り道しないでね」
 囁く声が優しい。おい何してんだ掴まえないと……という言葉が一瞬頭をよぎったが、ついに何も言えなかった。
「……モブ、今の」
「人間は入っちゃダメって、昔決めたところだから。だからどうしても入るなら、こっそりやらないとダメなんですよ」
 その説明は、何の説明にもなっていなかったが、俺は子供のように頷くことしかできなかった。

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