ジャンル:忍び、恋うつつ お題:大人の狸 制限時間:2時間 読者:29 人 文字数:2849字 お気に入り:0人
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大人の狸

  かえでは憂鬱なため息をついた。
 級友の女子から、拝みに拝み倒されたお茶会―――という名の、男女交流会への参加が原因だ。
 公にできないとはいえ、恋人のいる身でそんな会に出るなどもっての外だが、今後のこともあり、人数の不均衡は非常に困るとのこと。
 断り切れず、当の恋人に恐る恐る相談を投げかけた。
 九つ上の恋しい人は、包容力のある大人の男性ではあるが、こんな話は不愉快だろう。彼の人の優しい微笑みがわずかでも歪んだなら、かえでははっきりと断ろうと思った。
「……そこまで頼まれてしまったら、君は断れないよね」
 いいも悪いもなく、真田幸影は茶を啜った。かえでは困り果てた。
 結局、断固とした態度を取れなかったかえでは、流されるまま参加することになってしまった。
 それでも、主宰の女子には想う人がいることを伝え、数あわせ以上の役には立てないことは明言した。
「そうだったんだ。なんか歯切れ悪いと思ったら。ごめんね。その人とは付き合ってるの?」
「つ、付き合ってるっていうか……」
 気持ちは通じ合っている。だが、担任教師と生徒という関係やその他の背景から、一般的な恋人関係に比べると余所余所しさがある。
「あー、微妙な感じ?なんかますます悪いこと頼んじゃったみたいだね。もし拗れるようなことがあったら、すぐに言って。私が直接説明するから!」
「う、うん……。ごめんね、当日に」
「こっちが都合を押しつけたみたいものだもん。謝るのは私だよ」
 主宰の女子生徒は茶屋に設けた席を見回し、隅の一角を指さした。
「あんた、あっちに座ってなさいよ。自己紹介だけしてくれたら、あとはそこで大人しくしてて。変なのは行かさないようにするから」
 かえでは言われるがまま、指示された席に腰を落とし、気配の希釈に努めた。
 程なく、相手方の集団も到着し、席は一気に賑わい出す。かえでは自己紹介だけを素っ気なく済ませ、また早々に腰を落とした。
”このまま大人しくしていたらいいかな”
 席は限られているので、かえでの向かいにも誰かしら座る。しかし隣が華やかで目を惹く女子なので、会話は彼女を中心に盛り上がり、かえで自身は時折曖昧な相づちを打つくらいでやり過ごしていた。
 率直に言えば、苦痛だ。
 もしも幸影が今の自分のようなことをしていたら、全く穏やかではいられない。
 相手を信頼しているとは別の話だ。
”真田先生なら、黙ってても女の人の目を惹いちゃうだろうし!”
 女性陣の視線を集める幸影を想像すると、嫌でも気分が重くなる。
”……行くな、って言って欲しかったな……”
 いつもいつも、かえでの意志を尊重しようとする幸影が、子供っぽい嫉妬などするはずがないと分かっている。
 それでも、逆の立場であれば、かえでが相手に一番言いたい言葉を、言って欲しかった。
 かえでは湯飲みを両手で強く握った。運ばれて来たときは火傷しそうに熱かったほうじ茶は、飲み頃の温度になっていた。
「ねえねえ、どうしたの暗い顔して!」
「!」
「おい、不躾だぞ」
 斜め前に座る男が、身を乗り出して声をかけてきた。面を食らっていると、その隣の男は友人を身体を引き、元の場所に座らせた。
「ごめんね、行儀悪くて。びっくりしたでしょ」
「い、いいえ!えっと、お茶温くなってませんか?お代わりお願いしましょうか」
 かえでは相手の返事を待たず、席を立ち、新しい茶を注文した。ついでに、席の合間に落ちてる塵を拾い、開いた食器も下げて貰うように手配した。
 じっと座っているより、細々と動いている方が気が紛れる。
”やっぱり、私がはっきり断らないのが良くなかったよね。真田先生みたいな人にとっては気にならないのかもしれないけど”
 ごく僅かでも身体を動かしたせいか、思考が健全に動き出す。
 折見て一足先に退席させて貰おうと決心した矢先、丁度良く、会がお開きの流れになった。
 人の流れに乗って店の外に出て、かえではほっと息を吐いた。
 寮の自室に戻る前に、修練院と菩提寺に寄って、幸影を探そうと思った。謝りたい。それよりも顔が見たい。
「ねえ」
 頭の上から声が降る。気配を感じなかったことに驚きながら振り向くと、かえでの目の前に座っていた男が笑顔で立っていた。
「もし良かったら、一緒に帰ろうか?」
 席では禄に言葉も交わさなかった相手からの不躾な申し出に、かえではそっと身構えた。
「いいえ。寄るところがありますから」
「付き合うよ」
「部外者は入れない場所なんです」
 決然と言う。
 眼前の人間に悪印象はない。それでも、例え嫌われることになっても良いと思った。
 他の人間はちりぢりに立ち去っており、夕暮れの町の通りには、帰宅を急ぐ足取りばかりだ。
 それらを横目に、隙をついて穏行の術を使い、身を隠そうかとかえでは考えた。
「大丈夫だよ。さ、行こう」
 伸ばされる手。何故か避けられない。かえでは声を上ずらせた。
「わ、私、好きな人がいるんです!だから、貴方とは行けませんっ」
 ふた呼吸ほど沈黙が続いた。
 というより、かえでが相手の男の顔をやっと観察できるようになるまで、それだけの時間が必要だった。
”……―――!私、初対面の人になんて……あれ、初対、面?”
 ふと緩む眼差し。夕暮れの色を吸い込んだ双眸はべっこう飴のように甘い。
 髪も顔も、身のこなしも声も、まるで違う。しかし自分を甘やかす目は、彼の人でしかない。
「さ、な」
 喉が一気に乾いた。
「驚かせちゃったね。ごめんね」
 もう声の、いつもの優しい質になっていた。
「な、なんで」
「だって俺は君の保護者でもあるんだよ。どんな輩が集まるか分からない場にひとりでなんて行かせられないでしょ」
 なにが『でしょ』なのか、かえでにはさっぱりわからない。
 だったら『行くな』と言ってくれれば良いではないか。
「じゃ、帰ろうか」
 まだ立ち直りきっていないかえでの手を、ごく自然に取って、幸影は歩き出す。
「誰かに見られたら!」
「この姿なら大丈夫だよ」
 妙に楽しげな様子に、かえでは抗議を引っ込めた。
”……つまり、今日はずっと真田先生に見られていたってこと?そんな人の悪いことするなんて……”
 幸影に連れられ歩きながら、かえでの腹の虫がふつふつと元気になってくる。
”というか、私、『好きな人』って……!”
 ついでに羞恥も沸き上がる。
 顔を上げていられなくなり、俯こうとすると、繋いだ手が目に入った。
 こんな風に手を繋いで歩くなど、いつもなら決してできない行為だ。
 暖かく、大きく、固い手の感触に、かえでは腹の虫が鎮撫されていくのを感じた。
「ずるいなあ」
「え?なんのこと」
 幸影は立ち止まり、振り向いた。
 そこは丁度、瀬戸物屋の前で、看板代わりの大きな狸の置物が、惚けた表情で空を見つめていた。
 かえでは堪らなくなり、吹き出してしまった。

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