ジャンル:スラムダンク お題:右の想い 制限時間:4時間 読者:651 人 文字数:2142字 お気に入り:0人

【黛青・腐向け】交信術

 黛は人を待たせるような男ではない。青田も待ち合わせの十分前には到着するように心掛けている。ただこの日は冬の悪天候に見舞われ、きっちりと決められたダイヤはいっそ可哀想なぐらい、不思議なくらいに混乱していた。回復するのはいつ頃になるか分からない。降り続く雪はたくさんの人々の靴底に溶かされて水となり、灰や黒の足跡となってよどんでいる。
 かなり早めに着いた青田は人がごった返す街中で、のんびりと考え事をしていた。軽い買い物を目的にした為に混乱に巻き込まれずに済んだし、同時に短かった品選びはたっぷりとした暇をもたらして、ちらちらと白いものが落ちてくる街並みに響くがやがやとした声を聞きながら、パイナップルの輪のようなベンチに掛けて待っている。
 黛はどんなにやきもきとした気持ちを抱いて掲示板に向かっているだろう。二人が今すぐにでも通じ合える術が欲しいと、どんなに願っているだろう。彼は人を待たせると不安になってしまうから、本当だったら青田に電話の一本でも寄越して適当な喫茶店で待っていろと告げるはずだ。
 だが生憎二人とも自宅にいる朝に軽い言葉を交わしただけで、他のことについては何も語らなかった。突然の雪。黛は普段これを憎からず思っているだろうが、今この時はなんと感じて見詰めているだろう。
 青田は彼のことが分かっているから、珍しく自動販売機で買った温かいコーヒーなどを飲みながら、急いでいる恋人の横顔を思い描いていた。左手には小さなビニール袋を抱え、右手には缶を持ち、どうかあの妙なところで繊細な男の苛立ちが治まるようにと、灰色の天に向けて祈った。



 いつかの時と同じ。しかし今度は驚くばかりの冬景色。神奈川にもこんなに雪が降るのだと思いながら、青田は黛から受け取ったメールに返信していた。しばらくはどこにも行けそうにないから、もし待っててくれるなら例の喫茶店に行ってほしい。大体そんなことが書いてある文面に、そちらが動けるようになるまでだいぶかかるのは承知した、慌てなくてもいいから、落ち着くまでどこかの店に入ってほしいと頼んだ。こうして二人は相手がいないままで喫茶店の椅子に掛けることになった。
 青田はバッグから折り畳み式の携帯電話を取り出し、カップの横に置いた。紅茶の水色と無地のカップ、白い携帯電話は時代の進みを思わせた。いつかの時は黙って待っているしかなかったが、今はこうして連絡が取れる。マフラーを取って畳んだコートの上に添えることも出来るし、相手がどんな気持ちでいるかも知ることが出来る。
 歴史は恋人達の為にも変わるのだ。目まぐるしく変化して、その中から一粒の結晶が落ちてくる。黛は先にそれを掴み、青田に教えた。正直好まない面もあったが、最低限のものだけ覚えればいいと割り切って、メールや電話やアラーム、カレンダーやメモ、そういった部分を取り上げて現在に至る。
 青田は人に向けられる中傷が大嫌いだ。週刊誌にも偏った報道にも触れないし、性や金を目的とした迷惑メールも嫌悪している。だからメールアドレスは大切な人、信用出来る人間にしか教えない。
 紅茶から匂いを手繰っていると、まさにその大切な人から新たなメールが届いた。カップをソーサーに戻し、小さくなった携帯電話をぱちんと開く。



 冬に待ち合わせると、たまにはこんな日もあるものだ。喫茶店の窓の縁には雪が溜まっていた。いくらかの時が経てば溶けるだろうが、この瞬間は一歩も動きたくないような冷気に満ちている。まずは温まる為に茶の一杯でも飲もうということになって入った店に、二人はどのくらいの長居をするのだろう。
 青田の正面に掛けている黛はコーヒーを満たしたカップの前に両手を組み、同じく窓の外を眺めていた。店の扉に取り付けられたベルは頻繁に鳴り、店内は多くの客で溢れている。黛が体をずらした時、彼が背もたれに掛けているチェックのマフラーが見えた。コートの厚さも分かった。彼にはこういうものがよく似合う。それは何年、何十年経とうとも変わらないし、これからもそうであるに違いない。
 黛は軽く顔を寄せるなり、感慨深げに言った。
「しかし世の中は便利になったな。外にいる相手と電話が出来るようになって、長いメールも打てるようになって、地図まで出せるようになって……こんなふうになるとは思わなかった」
「オレには分からないことも多いがな。ポケベルがマシになったぐらいで良かった」
「またそんな嘘を言うな、面白いことだって多いんだぞ」
「分かってる。分かってるがな、年かもしれん」
 青田はふと苦笑して、すっかり成熟した恋人を見遣った。
「オレは好きだったぜ。連絡が取れないお前が、駅でどんなふうに困ってるか想像するのが」
「それも嘘だな」
「本当だ。お前も困っているのかと思ったら、変な気分にならないんだ。イライラしない」
「それはどんなふうに受け取ったらいいんだ?」
「さあな。口では上手く言えないからな」
 二人はカップを傾けた。新しい客が隣を通って、ふわりとした冷たい空気を残していく。すぐに溶け去ったそれに導かれるように、青田は凍り付いたような窓を一瞥した。深々と舞い降りる雪に、世界は白かった。

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