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鮫ソチ



そこにいたのは、彼女一人のはずだった。
その道を知っているのは彼女一人のはずだったし、それまでその道で魔物に出会うこともなかった。
しかし、今彼女の目の前には、出会ったこともないくらい巨大な黄色いニセパンダがいた。
彼女は仮にも勇者学校の生徒である。
レベルの低いスライム程度であればなんとかではあるが退けることもできたかもしれない。

「こいつはやべえな」

しっかり目があってしまったニセパンダから視線をそらすことなく、彼女は後ずさった。
こんなときまで強がる必要はないのだけれど、彼女の心にはある男の顔が浮かぶのだ。
足は震えるし、心臓は爆発音をたてているのではないかと思うほどうるさくて仕方ない。
今にも足が縺れて転びそうだった。
無意識で、彼女の手はその身に纏う学ランをつかんだ。
彼女の心に暖かいなにかが灯り、それが全身に勇気となって駆け巡る。
倒せるとは思えなかったが逃げることくらいなら出来る気がしてきた。
恐怖から目をつぶりたくなるのを耐え、彼女の手はより強く学ランを握った。
足に力を込める。
震えは止まらないがなんとか走れそうだ。
機会を見計らう。
ニセパンダの前足が小さく動く。
そのタイミングで、走り出そうとして、足がもつれた。
転んだ。
そう思った。思わず目をつぶり、真っ暗なまぶたの向こうに真っ赤な髪のあの男を思い出した。

衝撃は、彼女を襲わなかった、
目蓋を上げて差し込む光の向こうにまぶたの裏に見た姿が重なった。

「怪我、無いな」

その声に彼女は目を輝かせた。

「大丈夫です」

本当は学ランをきていれば大丈夫のはずだった。
でもひとりぼっちで、怖くて仕方なかった彼女は心から安堵した。

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