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息災にしていたかい?
すべてが終わってほっとしたのか、征十郎は茶川に優しく声を掛けた。幼い頃から、それこそ産まれた時から、中学の頃まで、毎日顔を合わせていた。主人の家の息子を家族のようなというのはおこがましいが、ほとんど自分の息子のように扱っていたような気がする。もしかしたら自分の息子以上に大切にしていたのではないだろうか。
コンビニで買ったんだという、透明なビニール傘を示し、もっと安っぽいものかと思ったら、なかなかしっかりとした作りになっているんだ。しばらく使えそうだよ、と征十郎は柄をぽんと叩いた。
征十郎から指定された喫茶店は、すでにその存在を知っていた。赤司の家から離れて、彼の身辺を調べるのが茶川の仕事の一つだった。主人の征明が何かを言ったわけではないが、それを望んでいるのは分かっていた。身辺を洗いはしたが、よほどのことがない限りは何も報告していなかった。征明が何か質問してくれば、最低限度のことは回答していた。財閥の総帥と言うことで征明は忙しい。征十郎のことを事細かく尋ねてくることはなかった。年に数回、ふっと湧き上がったかのように、征十郎は息災にしているのか、という質問がされていたくらいだ。
かの親子は仲がよいとはいえなかった。仕方のないことではあった。あまりにも強大な資産と歴史をもつ家で、ファミリードラマのような家族仲の家などありえない。
それでも、息災にしていたのかと尋ねる征十郎に、茶川は征明を重ねずにはいられなかった。冷たく、人を駒のように扱う、産まれついての財閥総裁。彼に拾われてからもう40年以上経っていた。今の征十郎は、出会った頃の征明より、優しく、明るい表情をしていた。もう、彼の境遇を哀れむ必要のないのが見て取れた。
幸せなのですね。
そう尋ねると、征十郎は小さく微笑んだ。

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