ジャンル:デュラララ‼ イザシズ お題:誰かは小説修行 制限時間:2時間 読者:1520 人 文字数:2795字 お気に入り:0人

ハルシオンデイズ※死ネタ

 海の見える崖に別荘を建てた。都心近郊にあるそこは定期的に人に掃除をさせているものの過ごしやすいとは言い難い。断崖絶壁の近くに家を建てた酔狂が、家を建てた翌日に死んだと聞いて買い取った。買い取って数える程度にしか此処を訪れていないが、それも今日で最後だろう。埃っぽいリビングにある貴族の家にあるような長い机で紅茶を飲む。お互いに誕生日席を取ったせいで少し距離はあるものの、迷いなく紅茶を飲んでいる姿は分かるのでひと安心だ。仇敵から恋人へ、恋人から仇敵へ、どうにも形容し難い関係だがそれも今日で終わり。俺達は、死にに来たのだ。
 お互いがお互いの天敵で、嫌悪しあっている事は池袋で有名だ。それが、その関係が重荷になっていたのはいつからだろう。それを終わらせる形として、俺は仇敵とは正反対の関係を築く事を選んだ。信頼できる友になるのは無理だから、単に都合の良い愛を押し付け合う関係。しかしそれでもいけなかった。仇敵と恋人になって、世界が急速に褪めていくのを感じた。思春期の女子高生よろしく生きる意味だとか意義だとか、そういうものを見失ってしまったのだ。俺は死ぬのが怖い。だから生きてきた。だけど退屈な世界はもっと怖い。だから死ぬ。至極単純な理由であった。紅茶の中には睡眠薬が入っている。恋人には多すぎる程の、俺は適量より少し少なめの。それは、眠るように死にたいと恋人が言ったからだ。一応恋人同士一通りの事はしたし、愛着も湧いたから、出来る事をしてやった。それだけだ。何で道連れに同意したのかは、教えてくれなかったが。
 さあブレイクタイムは終了だ。睡眠薬が効き始める前に飛び込まなくてはならない。断崖絶壁があるならそこから海へと飛び込んだ方が、手間がかからず楽だろう。ここへ来た時恋人が、ブラックジャックかよと言ったが、それは、まあ、確かにそうだと思う。先生も自分の家によく似た場所で死者が出るとは思わないだろう。神の手を持つ医者だから、俺達が飛び降りても助けるだろうか。それはなんて、傲慢だろう。
 潮風に当てられて少し寒い。夏はまだまだ先で、きっと海水は冷たいに違いない。それでも俺は飛び込みを選んだ。恋人の手を引いて走り出す。こういうの、結構憧れだったんだよね。甘酸っぱい青春ラブストーリーみたいで、死ぬ程滑稽だ。まあ、今から死ぬんだけど。
 二人で思いっきり飛び込んだら、結構深くまで沈んでいった。浮き上がりそうなのを堪えるために息を吐き出して、ついでとばかりにキスをする。海水が冷たくて息だって苦しくて、死ぬのってやっぱりしんどいんだと思いながら、不思議と辛くはなかった。沈む、沈む、深くまで沈む。水中でどれだけ長くキスしてられるか競う競技があったような気がしたけど、あれ、何処の国だっけ。調べられないのが残念だけど、俺は今、静かに興奮している。肺が水で満たされて、海の中で二人きりというシチュエーションに胸が一杯だ。俺が生涯求めていた充足感はこれだったのか。死ぬ前に経験できて良かった。意識が朦朧としてきたので、キスは止めて体を抱き締める。俺に最期まで付き合ってくれてありがとう。伝えられないのが残念だけど、それでいいのかもしれない――さよなら。
 暗い暗い海底を見詰めながら、硬い体を抱き締めて、眠りに落ちた。


 波の音がする。体が酷く冷たくて、重い――波の音? 重い? 死んでるのにそれはおかしいだろ。途端に息苦しくなって咳き込むと、吐き気を催してそのまま吐いた。頭がくらくらする。強い潮風、冷たい空気が肺に入ってくる。夜の浜辺だった。つまり、死んでいない……?
 砂浜を見渡すと、俺の傍に足跡があった。海から上がってきて、また海へと向かう足跡が。サラリーマンがスーツ姿でこんな浜辺に来る事はない。故にこの足跡は、明らかに。
「――――……シズちゃん……!!!!」
生まれたての赤ん坊よりもけたたましい叫び声、堰を切ったように溢れ出る涙やら吐瀉物やらにまみれながら、慟哭した。
 そこからの記憶は所々が抜け落ちている。再び海へと向かった俺を誰かが止めて、振り払った筈だったが気絶したらしく、次に意識を取り戻したのはベッドの中でだった。錯乱したり発狂したりと余りに酷い有り様だったので一時期精神病棟で世話になる羽目になったが、何とか社会復帰(元々まともな社会人とも言い難いが)出来たのは、飛び降りてから二年が経ってからだった。今では思い出して発狂までには至らないが、それでも相当に支障を来す事があるので度々安定剤を飲む日々だ。二年経って最初に心配したのは情報屋稼業だが、何とあの波江がある程度持たせていたらしい。突然行方不明になって二年後にひょっこり帰ってきたのが気に入らなかったらしく、暫くはかなり酷い扱いを受けたが、彼女がそれなりに心配していた事は分かったので誠心誠意(当然嫌味なく、だ)謝り続けて何とか許しを得る事が出来た。あとは新羅やらに挨拶回りをしてから、変わらない歪んだ池袋の街を眺める。怒号の響かない街に、誰も違和感を覚えないのか、もうその違和感は無くなってしまったのか。恐らく後者だろう。自動喧嘩人形とその宿敵が同時に行方不明になったから、てっきり警察が動いているものとばかり思っていたが、どうやら匙を投げたらしかった。関わり合いになりたくないのだろう。その特別措置がおかしくて、笑った。
 情報屋を再開して元通りになるまでに丸々一年が掛かった。全てを元通りにするのと同時平行で、俺は調べものをしていた。出ていないのだ、平和島静雄の死体が。それどころか明らかに皆の記憶から平和島静雄に関する情報が薄れている。弟である平和島幽や、田中トム、新羅、首無し、ドタチンなんかは未だに行方不明の彼の事を訊いてきたが、他には誰も平和島静雄に関しての話題を挙げなかった。自動喧嘩人形の存在はしっかりと覚えているのに、だ。別荘の近くで死体が揚がっていないか、手がかりはないかと片っ端から可能性を当たってみたが、全て手応えがなかった。これはいくらなんでも異常だ。
 幻のような生活だった。俺は幻を信じ切る為に身を投げた。それなのに君は、君自身の存在を幻にするつもりか。
 形見になるようなものは何もない。死体すら出てきていない。ただ別荘に残る紅茶のカップだけが、何もかも幻ではなかったという証明なのだ。ならば全て、二人だけの秘密にしよう。
 身を投げた日と同じ日に、別荘に火を放つ。断崖絶壁の近くに家を建てた酔狂は、元々死ぬつもりだったのかもしれないなんて、くだらない事を考えながら。ごうごうと音を立てて燃え盛る炎。熱いなあ、あの日とは正反対だ。君が初めて俺を騙した日、俺は君との夢を見ていたんだよ。伝えられないのが残念だけど、それでいいのかもしれない――今度こそ、さよならだ。

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