ジャンル:デュラララ‼ イザシズ お題:ラストは小雨 制限時間:2時間 読者:806 人 文字数:1881字 お気に入り:0人

結局二人 / イザシズ

 最初に空を飛んだのはシズちゃんだった。笑ってしまったからよく覚えている。俺がパルクールを身に付けかけている時だ。
 薄い春の青空に溶けそうな裾の色と広がる薄い黄色の髪に、馬鹿だなと見ほれた覚えがある。 躊躇いもなくビルをポーンと、その脚力で跳びやがった。命綱を付けてさえ、人間は屋上の淵を歩くのが難しいって言うのに。ああ、化け物だなぁと感心してしまった覚えがある。
 化け物は躊躇いがない。こんなちっぽけなものに命を懸けてしまえるのかと、思っいながらも散漫に逃げていたら殴られた。ブラックアウトはしなかったが、僅かにたたらを踏む足にシズちゃんが何か言っているけれど脳が揺れて唇さえ読めない。これでも、体反らしてなるべく威力を殺したって言うのに、なんて力だ。まるでスパナででも殴られたみたいになる。
 それでも、あの単細胞の事だから、これに懲りたらとか言ってるのだろうか?そう思いながら、更に振り上げられる拳を見たが、チェックメイトだ。先生達がタイミングよく入ってきてシズちゃんをなだめる。
 俺は女性教諭と体育教師に脇を支えられ保健室へ誘導され、彼は取り残される。女性教諭が気遣わしげに俺を心配しながら撫でまわす様な視線で見るのに微笑んでやると、年の割に初心なのか恥じらう様な顔で抱え直す様に身を寄せた。
 それから、放課後まで保健室で悠々と寝て、勧められて病院へ行き一応異常なしと言われて帰った。

 パルクールを曲りなりに、それなりに習得してから、俺もビルからビルへ跳んだ。自分なりに飛距離と風を計算して跳べると確信した上で躊躇いなく。それでも、俺の脚はあの怪物ほどの出力はない、それを体捌きで補ってなるべく遠く。
 ふっと、地面から足が離れてしまう事がこんなに不安定だったかと思う。浮き上がりすぐに落下を始める体と、それを叩く風。死ねる高さ。下を剥く事はしなかったので、高さは想像上でしかないが、それでも俺に備わる想像力は路地裏に叩き付けられる自分を見せて、まるで成功した自分と失敗した自分の二人がこの場に居る様だった。 鉄柵にぶつかる様にして飛んで必死にそれを掴んだ。恐怖はないけど、死にたくないのだ。これで少し、あの化け物に近づいただろうか、人の力でと汗を拭った。人である俺が、アイツに近づき、出し抜く事に意味があるとぼんやりと思っていた。
 ビルからビルへ、そのまま叫びだしたい様な気分で一人駆けた。命のやりとりだ。体制を崩せば、疲れれば、強風が吹いたら死ぬかもしれない様な遊び。ざまぁみろ!って言ってやりたかった。俺だって跳べるって。
 次の日、俺はシズちゃんとビルからビルへ追いかけっこをした。あわよくば落ちてくれないかと、一応自作の音響照明弾(マグネシウムと、まぁその他練りこんだ爆竹みたいな物だよ)を用意して二人で。何時もなら、雑踏を駆ける俺達は人間をかき分けていくんだけど、屋上には誰もいなくてそれは二人の世界だった。
 跳んだ俺に何の称賛も驚きもなく、普通に飛んでくる。俺の様に踏切の足や角度を意識する事も、空中の姿勢も無造作に。
 この日は結局、俺が音響照明弾を飛ぶ瞬間に放ってシズちゃんに蹈鞴を踏ませて落とし、撒く事に成功した。着地して後ろを向いたとき、シズちゃんはまだ落っこちていく最中だった。投げ出されながら確かに目があった。俺達はそのまま目線を絡ませながら落ち切ってしまうまでお互いを見ていた。この時に何を考えていたのかはよく覚えていないけれど、シズちゃんが死ぬかも知れないとかそんな事は微塵も考えていなかった。背中から落ちたシズちゃんは、しばらく身動きが取れないようだった。それに、笑ってやりながら大きく息をつく。
 ドキドキと、運動性の鼓動の速さや体の熱さが煩わしくて、その屋上の給水塔の近くへ登って日陰に寝転んだ。すぐに地面を通してガンガンとシズちゃんが怒りにまかせて階段を上る音が聞こえる。えー、もう動けるのか。でもきっと俺は他へ飛び去ったと思うだろうから無視をする。
 近づいてきて、ドアが捥げたかも知れない位に大きな音がした。少し辺りを見回して、シズちゃんは大きく舌打ちをした。そんなに大声で名前を連呼しないでよ、恥ずかしい。
 その内、シズちゃんは扉を閉めて行ってしまった。俺はそのまま目を閉じる。こんな遊びはあいつとしか出来ないだろうなと思いながら、それでもそれが楽しいとは思えずに携帯を開く。人間達が今日も動いてる。
 やっぱりこっちの方がいいなと思いながらメールを開く。今日のお相手は誰にしようかと。


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