ジャンル:青の祓魔師 お題:信用のない、と彼は言った 制限時間:1時間 読者:778 人 文字数:2321字 お気に入り:0人

温かい食卓がもたらす幸福


弟は辛辣だ。
昔から頭は良かったし、勉強家だ。自分よりたくさんの言葉を知っている。だから今更気にするようなことではない。
自分を心配するからこそ、周囲が遠慮して言わないような事もきっぱりと言ってのける。
兄弟としての優しさで愛情だと理解もでいる。ただ、頭ごなしに言われ続けると流石に気が滅入ってしまう事もある。

夕食を調理していた手元がふと止まり、燐の口から大きなため息がこぼれ落ちた。

燐と雪男が口喧嘩をする事は日常茶飯事で最早習慣となっている。毎回のことなので、友人たちも気に留めていないが、今回はなぜか拗れて喧嘩が長引いている。大概の喧嘩はその日のうちに解決するのが常であった。雪男は昨晩、任務での祓魔が思うように行かず苛立っていた、燐は雪男の苛立ちに気づいてそれを和らげようとわざとおどけたりふざけて接したが、弟の神経を逆なでしてしまったらしい。
結果として、不機嫌を撒き散らす雪男を更に刺激して燐まで不機嫌が伝染し、うっかり口喧嘩をする羽目になってしまった。
心にもない言葉の数々をお互いにぶつけあい、罵倒した。

「信用できない、かー。面と向かって言われると案外くるもんだよなあ。」

止めていた手を再び動かしながら、燐は上の空で呟く。細かくみじん切りされた椎茸と長ネギをまな板の真ん中へ無造作に寄せる。
献立は豆腐ハンバーグ。昨晩喧嘩をしてお互いに食べることをしなかった夕食の冷奴が冷蔵庫で寂しくラップされていたので、それを活用するためだった。不機嫌を朝も継続させていた雪男は昨晩の夕食に手をつけることなく、燐が弁当を作るよりもずっとはやく家を出ていた。寝起きでぼんやりしながらうっかり二人分作ってしまった弁当はお昼になっても雪男へ渡すことができず、燐は途方に暮れた。見計らったように現れたピンクの犬に化けたメフィストが雪男の弁当を欲しがったので、無駄にすることはなかったが、いつも雪男と食べているお昼が犬メフィストと妙にさみしい昼食となった。
昼食後に膝の上でくつろぐ犬メフィストを妙に柔らかくて心地がいい毛並みを撫で回して少しだけ癒されたが、気分は晴れない。

信用しているとかしていないとか、そういう言葉は難しいから燐はあまり好きではない。
ただ、弟は隣にいるのが当たり前で、どんなに忙しくても一日のどこかで一緒に食事をするのが日常風景。
どれがあんな些細な喧嘩からなくなってしまうのかと思うと、どうしようもなく残念で、なんというか悲しい気がした。

そういえば、昨日は燐もお腹がすいていた。空腹の時にはろくな事がない、というのは亡き父の藤本からの受け売りだった。他にも色々と聞いた気がするが、燐はこの言葉がなんとなく心に響いてぼんやり覚えていた。

もしかしたら雪男もお腹がすいていたのだろうか。だからあんなにくだらない口喧嘩をしてしまったのかもしれない。
今日は一緒に晩ご飯を食べられたら、二人してお腹が満たされて余裕が出来たら、素直に謝ることができる。
そんなささやかだけれども、切実な思いが燐の夕食を作る手は止まれない。気が滅入ってしまいそうだからこそ、手を動かし続ける。

水切りしておいた豆腐と鶏ひき肉を合わせて練る。そこへ先ほどみじん切りしておいた椎茸と長ネギを入れ、卵、料理酒、塩コショウ、おろし生姜を加えて再び練る。均一に混ぜ合わせれた具材を手に取り、食べやすいサイズに形成し中央をほんのりこぼませる。
熱しておいたフライパンへ一つ一つ、並べれば、ジュワっと美味しそうな香りが立ち上り始める。完成に向かってゆく料理を目の前にすれば、沈んできた気分も徐々に浮かれて、しゅんとしていた尻尾もふわりと左右に揺れ動く。

調子はずれの鼻歌を口ずさむ頃には、すっかり豆腐ハンバーグは完成間近だった。あとは蓋をされたフライパンの中で十分に蒸らされるのを待つだけ。

玄関のドアが空く音と同時に、ちょうどいい具合にハンバーグが蒸しあがった。焦がさないうちに手早く皿へと持って、他にも用意していた副菜のおかずや汁もの、白米などをぱぱっと用意して、雪男が食堂に来るのを待ち構える。
燐が顔に浮かべる表情は兄の威厳と余裕を具現化した微笑み。実際には、今日の夕食も完璧なタイミングで出来上がったことに対する満足気な笑みではあるが、それは燐にしかわからない。

「ただいま兄さん。ちょっと、昨日の事で話、」

「雪男ちょい待てストップ!!」

食堂の扉を開けると同時に申し訳なさと緊張とが綯い交ぜの頼りない顔をした弟が先手を切って話し出す。だが燐はそれを許さず、わざと大きな声と強い口調、眉間に皺よ寄せた厳しい表情とオマケに右手をびしっと前に差し出して雪男の言葉を断ち切る。
燐の声の大きさと思わぬ迫力に思わず雪男はびっくりして押し黙った。

「な、なに…?もしかしてまだそんなに怒ってるの?」

「ちがう。」

「じゃあ何、」

「とりあえず、晩御飯食べるぞ。」

燐に促されて、ようやく目の前にきちっと配膳されている夕食に気がついた雪男はチラッとメニューを見て目元をほんのり和らげた。豆腐ハンバーグは消化に優しい。昔から胃腸が弱めの雪男は好物の一つでもあったのを、燐はしっかりと覚えている。

「え?あぁ豆腐ハンバーグ?出来立てだね。」

「そうだぞ、出来たてホヤホヤ。今食べたら絶対美味しい。お腹すいてると良いこと無いんだぞ。ジジイも言ってただろ?」

「うん、そうだね。その通りだと思うよ。」

「だろ?じゃあ食べようぜ!」


いただきます、と声を二人してひびかせ、手を合わせた。

仲直りの秘訣は美味しいご飯。

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:青の祓魔師 お題:最後の馬鹿 制限時間:1時間 読者:729 人 文字数:1241字 お気に入り:0人
目を覚ましたとき、いつも起きている時間はとっくに過ぎていた。 もう昼前になのだけれど、部屋は暗く、うすい膜を被せられたような湿気があるせいで空気が重たい。外で 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ゆーん ジャンル:青の祓魔師 お題:傷だらけの粉雪 制限時間:1時間 読者:719 人 文字数:819字 お気に入り:0人
台湾との時差は、どれくらいだっただろうか。燐は台湾に行ったことも台湾について調べたこともなかったので、よく知らない。すぐ近くにあるんだから時差なんてほとんどな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:せせりは塩がいい ジャンル:青の祓魔師 お題:憧れのフォロワー 制限時間:1時間 読者:730 人 文字数:2451字 お気に入り:0人
「ついったー?何それ。」燐はきょとんとした顔で、さらっと言い返して小首を傾げた。麗らかな休日の午後。燐はメフィストの居る理事長室のソファーにだらっと腰掛けてくつ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:せせりは塩がいい ジャンル:青の祓魔師 お題:ラストは負傷 制限時間:1時間 読者:862 人 文字数:2525字 お気に入り:0人
奥村燐は怒っていた。それはもう、烈火のごとく怒っていた。燐が怒ること自体は珍しくはないが、今回ばかりはどう謝ってきても絶対に許してやるものか固く胸に誓っている。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
(☝ ՞ਊ ՞)☝ ※未完
作者:ゆずき ジャンル:青の祓魔師 お題:女の事故 制限時間:1時間 読者:552 人 文字数:1210字 お気に入り:0人
思いがけず、それは本当に思いがけず起こったことだ。校舎裏、向かい合う一対の男女ときたらそれは愛の告白と相場は決まっていた。名前も知らない彼女は頬を上気させ、潤ん 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:せせりは塩がいい ジャンル:青の祓魔師 お題:どこかの青春 制限時間:1時間 読者:1080 人 文字数:2212字 お気に入り:0人
晴れ渡る青い空。青空には白い雲が緩やかに流れていてとても平和的だ。視線をすこし動かせば、目の前に広がるのは広くて青い海。雄大な波は力強く押し寄せては引いていく。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:せせりは塩がいい ジャンル:青の祓魔師 お題:運命のカラス 制限時間:1時間 読者:781 人 文字数:2608字 お気に入り:0人
奥村燐は基本的に困っている人がいると放っておけない性格をしている。それは幼き頃より藤本神父から言い聞かされた言葉、優しいことのために力を使え、という教えもあるが 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:せせりは塩がいい ジャンル:青の祓魔師 お題:穏やかな秀才 制限時間:1時間 読者:763 人 文字数:2519字 お気に入り:0人
「雪男、なあ雪男ってば。」燐が雪男を呼ぶ。さっきまでちゃんと持っていたシャーペンはすっかり机の上に放り投げられて所在無さげに転がって居るはずだ。それはちゃんと燐 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:せせりは塩がいい ジャンル:青の祓魔師 お題:猫の妻 制限時間:1時間 読者:1345 人 文字数:2693字 お気に入り:0人
メフィストの携帯電話に珍しい相手からの着信が入った。その相手はひどく困った様子で狼狽している。放っておくのが勿体無いくらいに面白そうなので、メフィストは仕事を投 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:青の祓魔師 お題:知らぬ間の関係 制限時間:1時間 読者:1167 人 文字数:890字 お気に入り:0人
ふとした瞬間、人間の手と手が触れ合う事なんてよくあること。家にいて家族であれば尚更手や肌が触れる事なんて良くありすぎて、気にもしなくなるはずだ。けれど、それを気 〈続きを読む〉

荒ぶる方のゆきなの即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:刀剣乱舞 お題:軽い罪 制限時間:15分 読者:22 人 文字数:585字 お気に入り:0人
「あ。これ美味しそうだね。食べ、」「食べたらだめだ。つまみ食いは行儀がわるいぞ、兄者。」最後まで言い終わる前にぴしゃりと釘を刺された。髭切は残念そうに食べたかっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:刀剣乱舞 お題:来年の母性 必須要素:右膝 制限時間:15分 読者:23 人 文字数:651字 お気に入り:0人
髭切はさてどうしたものかと、考えあぐねて思わずポツリと呟いた。「うーん、困ったなあ。」なんやかんやあって、見事に酔いつぶれてふにゃふにゃなった膝丸が己の膝を枕に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:刀剣乱舞 お題:知らぬ間の豪雪 制限時間:15分 読者:26 人 文字数:910字 お気に入り:0人
おかしい、やけに部屋が寒い。膝丸は寒さに身を縮こまらせながら、ぼんやりと目を覚ました。昨日は梅が見頃だと兄者と縁側でお茶をしながら話していた筈だ。なのになぜこん 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
無題 ※未完
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:青の祓魔師 お題:怪しい宿命 制限時間:30分 読者:419 人 文字数:1242字 お気に入り:0人
怪しい、という形容詞においてメフィスト・フェレスの右に出るものはまずいない。むしろ怪しさを通り越して胡散臭いといったほうがよいかもしれない。だからこそ、燐は悩ん 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:青の祓魔師 お題:信用のない、と彼は言った 制限時間:1時間 読者:778 人 文字数:2321字 お気に入り:0人
弟は辛辣だ。昔から頭は良かったし、勉強家だ。自分よりたくさんの言葉を知っている。だから今更気にするようなことではない。自分を心配するからこそ、周囲が遠慮して言わ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:青の祓魔師 お題:やわらかい略奪 制限時間:30分 読者:973 人 文字数:1035字 お気に入り:0人
「…ま、待てメフィスト!やっぱり止めとく!」ハッと我に返った燐が叫ぶ。だが時はすでに遅い。暴れようにも、燐はすでにメフィストの腕の中に捕らわれていた。純粋な力比 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:青の祓魔師 お題:暗い少数派 制限時間:1時間 読者:1691 人 文字数:2086字 お気に入り:0人
もしこの世界が、明日終わるとしても。それはそれで構わない。どうしようもなく気分が落ち込んだ燐は、雨が降っているのに傘も刺さずに公園のベンチに座って俯いていた。じ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:青の祓魔師 お題:頭の中のぬめぬめ 必須要素:ペペロンチーノ 制限時間:1時間 読者:1861 人 文字数:2579字 お気に入り:0人
深く昏く、茂っている暗緑の木々。どんよりと立ち込める濃い霧はきっと自然発生のものではない。恐らくこの森に住まう悪魔たちの仕業だ。これからこの森に住まう悪魔を退治 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:ONE PIECE お題:わたしの嫌いな祝福 制限時間:1時間 読者:1337 人 文字数:2017字 お気に入り:0人
「…and of the Holy Spirit.Amen.」血にまみれたサーベルを手にしたドレークの口から、無意識のうちに言葉がこぼれた。昔の習慣というものは 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:荒ぶる方のゆきな ジャンル:Free! お題:1000の計画 制限時間:1時間 読者:1637 人 文字数:2599字 お気に入り:1人
「真琴先輩。今度、暇が出来たら教えてくれませんか。」部活帰り、めずらしく真琴と怜が2人きりで歩いていると、怜が呟いた。いつもの癖の右手でメガネを押し上げる動作を 〈続きを読む〉