あるいは、スラム街―ワルの世界―
桐山和雄(男子6番)は、絶対的な王だった。
それは桐山に心酔する沼井充(男子17番)のみならず、桐山ファミリーのメンバーなら――――否、一度でも桐山和雄というカリスマに触れたことがある者なら、誰もが抱く感想だった。
では――彼を帝王と称するのなら。
はたして彼の支配する帝国は、どれほどの規模となるのか。
城岩中学校?
いいや、そんな狭い井戸の中で終わる男じゃあない。
では、城岩町か?
そうかもしれない。
少なくとも、城岩町は既に桐山和雄の支配下にあると言えよう。
ワルの世界では彼自身の戦闘力で、そして表の世界では桐山家の権力によって。
しかし――もっとデカい帝国を統べる力すら有しているのではないか。
そんなことを、ふかした煙草の煙を眺め、充は思う。
きっと、桐山和雄という男は、もっともっとデカイ世界の王になれる。
城岩町という小帝国から始まって、最後は諸外国を支配し世界を統べる王にでもなれる。
そう思わせる程のカリスマが、桐山和雄にはあった(勿論、充自身に学がないため、簡単に世界統一だの侵略だのが出来ると思い込んでいるというのもあるが)
「なあ、ボス」
丁度(と言っていいのかはわからない。少なくとも、このタイミングが丁度と表現するのは、この場において充だけだろう)桐山が沼井達がタバコを吹かす屋上の扉をあけた。
たまに桐山は興味を惹かれた“何か”をするため別行動し、そして飽きた頃こうして合流するのだ。
飽きたといっても負け犬のように辞めたわけじゃない。
いつもそれを極めきって――戦争漫画や映画に影響されつつある今の充に言わせれば『侵略』して、誇らしい戦果と共に帰ってくるのだ。
その戦果を決して誇示することはないが、戦果を上げたことを疑う余地などない。
それほどの男なのだ、桐山は。
「ボスは、どこを目指してるんだい?」
桐山ほどの男なら、望んだ何者にでもなれるだろう。
それこそ、ワルの世界以外でも居場所は山ほどある。
充の口から、ついついそんな言葉が漏れた。
「別に、どこも」
返されるのは、淡々とした言葉。
別に気分を害したというわけではないだろう。
元々こういう淡々としたやりとりばかりだ。
「どこに行きたいとか、ないんですかい。あんなに普段、目についたことに手を出しては制覇してるのに」
貴方なら、どこにだって行けるだろうに。
目的がないなら、なんでそんなどこまでも突っ走れるんですかい。
そんなニュアンスを混ぜて、もう一度聞き返す。
「気が向いたときに、試しに足を動かしているだけだ」
ああ、なるほど。
この人は、突っ走ってるつもりですらないのだ。
ただ気の向くまま足を動かしているだけで、凡人をぶっちぎり、行きたいところまで駆け抜けているように見えるだけなのだ。
「……やっぱりさすがだよ、ボスは」
だから付いて行きたくなるのだろう。
『ただ純粋に、だらだらと歩く』
ワルっぽくないのに、そんなある種ワルのお手本のような人が、最後にたどり着くその先を共に見たくて。
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