邂逅


きっとこれは解けない運命が紡いだ夢の軌跡。
もしくは何処にもいない神の気紛れ。

散り散りになっていく意識が再び集まって元通りになる頃にはあたしの体はもう存在していなかった。



頭の中が靄が掛ったみたいにうまく考えられない。無意識に首を振るい、額を押えていれば徐々に今までの経緯が甦ってきた。
最後に残っている記憶。希望であるエンポリオを逃がすため時間稼ぎをした徐倫は後方から追ってきた神父に無謀な戦いを挑み――。
「…意識諸共細切れにされたわ」
痛みを感じず事切れたのが不幸中の幸い。だが、想像を絶する激痛だろうが希望を逃がしきれるのなら甘んじて受け入れてやる。そんな些細な事で彼を逃がせられるならどんな痛み苦しみにだってこの体で受止めてやる。

「しっかし…。ここはいったいどこ?」

確かに最後の記憶はプッチを喰いとめるところで終わっている。でも、それは海のど真ん中であって穏やかな街の一角では無いはずだ。
街ゆく人々の顔は誰も彼も不安や焦りに彩られていない。ごくごく普通の、在り来りな平穏がそこに満ちていた。
分けが分からない。戸惑う気持ちが後頭部を掻く行動を招き、徐倫は形振り構わず声を上げる。
「プゥウウウゥウウウチ!!どこだ!?出てこい!!!」
腹の底からの雄叫び。
なのに如何してか。徐倫の直ぐ傍を通り過ぎたご婦人は顔色一つ変えず、歩き去っているではないか。
いよいよ、奇妙なこの現状に拍車が掛る。どれだけ無頓着だろうと肩を叩かれ、声をかけられれば振り向くはないし、意識を向けてくれるに違いない。早速、無視されたご婦人の肩に軽く手を掛けようとしたら、振り下ろす勢いそのままに御婦人の肩を通り抜け背中まで徐倫の手が入っていってしまった。
アナスイのダイバーダウンみたいな見た目に思考が一時フリーズを起し、再起動した瞬間弾け飛ぶようにご婦人から距離をとっていた。
「なんだこれ!?なんだこれ!?一体、何がどうなってんだあ!!」
掌を開け閉め、自分の手である事を穴が空くほど凝視してみたが、おかしな点は見付らなかった。
「いや、違うわ…。この手がおかしいんじゃない――、あたし自身がおかしいんだ」
動揺していた目の色がスッと冷め、全ての謎が解けた途端、肺の中に溜まっていた空気を吐き出した。
「やれやれだわ。これが神父の幽波紋の影響って言うならこの奇妙な体験もそれなりに納得出来る。つまり、あたしの肉体はあの時に無くなって、今ここにいるあたしは精神だけで存在しているってところかしら?」
手を翳し、その先を見ようと思えば容易に見えてしまうくらいどこもかしこも透けている。ある種、幽波紋に近しい存在になってしまった所為なのか定かではないが徐倫が幾ら意識を集中させてもストーンフリーは現れなかった。
透ける腕を振り、これから先の事を考えようとしていれば不意に何かの声が頭の中に響きだした。それは、徐倫を何処かへ誘いたいのか微かな声でずっと囁いている。兎角やることも無ければ宛ても無い。ならば、酔狂な体験の一つや二つ、あえて乗っかるのもいいかもしれない。
誘われるがまま、徐倫の訪れた場所は白亜の壁が目に優しい大きな建物だった。まだ続く声に従い、扉を潜り、他の者には聞えない靴音を響かせ奥へ奥へ進んでいく。気付けば日も暮れ、明かり少ない廊下を薄闇が支配し始めていた。窓から差し込む月明かりと声を頼りに進み、漸く目的の場所に着いたらしく、突如頭の中で囁いていた声が為りを潜めた。
「赤ん坊、しかも…双子の」
目を細め見遣る先で健やかに眠る双子の赤子。一人の肌は黒く、もう一人の肌は白い珍しい双子の赤子。
素直に愛らしいと思える二人を見詰めていると、扉が軋み声を開け微かに開き始め。振り返れば赤子を隠すように胸に抱く女性がのっぴきならない表情を隠さず其処に佇んでいた。
徐倫は始めこの双子の母親なのだろうと思っていた。だが、違っていた。部屋に入り込んだ女性はあろうことか胸に抱いていた子供と寝ていた双子の一人をすり替え、逃げるようにその場から立ち去ってしまった。あまりの出来事に混乱するも直ぐ状況を把握できた。
あの女性が抱いていた赤子の命はとっくに消え、変わりに双子の一人を連れ去ったのだ。
「……子を想う母親の気持ちって時に残酷で虚しいものね」
冷たい体になってしまった赤子の隣で眠る双子の一人。黒い肌には触れられないがそっと撫でる仕草をすれば小さな赤子が身じろいだ。
そして、此れからこの赤子に降り注ぐ事の顛末が稲妻の如き衝撃を伴って徐倫の体を貫いた。
全ての時間が恐ろしいくらい速く過ぎていき、無作為にピックアップされた人達の声が何度も脳内を揺らす。

もし、…子をとりか、…
神…の、みちを…えらば、……
…ぜ、人と人は引かれ、…う…か

自分をかえ…ず、……けてくれた
…るの、ような…い……
も…、心の中にさえ…あ、…は……

俺はお前を絶対に赦さない

胸の中でのた打ち回る激情が吐き気を呼び起こし、徐倫は思わず口を押え背をくの字に曲げた。
頭がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられ、自分では無い記憶と感情が我が物顔で入り込む。
もし、もしも。そんな言葉だけが心と同調して何度も何度も徐倫の薄く開いた口許から漏れていた。
見た。見てしまった。ウェザーとプッチ、そして妹ペルラの哀しい結末を否応なくこの目で見てしまった。
平穏だった街並みがカタツムリによっておぞましい惨状があちらこちらで起きている。咄嗟に肩を抱き、息を潜めてしまうほどの悪夢。
少し前から見覚えのある姿になった二人の行く末に徐倫は目が離せない。
そして、ウェザーのDISCが抜かれ街からカタツムリが消えたところで徐倫の意識が平穏になった街並みから何も無い空虚に放り投げられた。
「あれは一体…、あたしが見たのがウェザー達の過去だって言うの…?」
頭を抱え唸り問い掛けたところで今度こそ意識が散り散りになっていくのを徐倫が止められるはずも無く止められる手段もありやしなかった。

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