よぶこえ

あのちっぽけな小僧を仕留め損ねた私は終わりも底も見えない常闇の中を漂っていた。



落ちているのか、昇っているのか。左右上下、何処に手を伸ばそうが何の感触も無い。足を突っ撥ねる。やはり何も無かった。
目蓋を開けた。閉じている時となんら変わらない闇にプッチの心が凍える。
「私は…、死んだのか?」
雪のように音を吸う闇。呟いた独り言はやがて耳が痛くなるくらいの静けさを連れてきた。
甲高い耳鳴り。無音を解消するべく声を上げたところで何も返っては来ない。
頭を抱え背を丸める。何処で偉大で崇高なる計画が狂ってしまったのか。何がいけなくて何が悪かった?

「誰だ?誰か呼んでいるのか?」

不愉快な思いをさせていた耳鳴りがピタリと止み。プッチは闇しか広がらない空間をぐるり見渡した。
また呼ばれた気がして振り向くが、同じ風景にしか見えない。
けれど、五感ではない感覚が確かに誰かが呼んでいると訴えてくる。物音一つすら聞えない闇の中。プッチは懸命に自分を呼ぶ方へ足を動かした。ゆるやかに。決して走らず。されど一歩一歩確実に、自分を呼んでいる正体不明の何かに近付く為に。
「近い、とても近いぞ。まるですぐ傍にいるようだ」
手探りで周囲に誰かいないか探してみれば何か暖かなものが指先を掠めた。
「ッ誰かそこにいるのか?」
焦る気持ちを落ち着かせる為、いつもの癖を口の中で呟く。素数を数え、掠めた場所に向って指を手を腕を伸ばす。
ここまでして向こうから攻撃されないのをみると如何やら敵では無いらしい。若干、短絡めいた考えが頭に浮かぶ。
そして、プッチの前向きな予測通り此方の手を取るやわらかな手が現れた。
感触からして女性だろうか。しなやかで細く、男ではない優しさや強い意志を感じさせる手であった。恐る恐る握ってくる手をやんわり握り返し、両手で包み込んだ。戸惑っている感覚が鮮明に伝わる。
「私は貴女に危害を加えるつもりは無い。ただ、少しばかりこの暗闇に参ってしまってね…。もし、よければ明かりのあるところまで一緒に連れて行って欲しい」
あくまで真摯に。物腰柔らかく。相手に警戒させないように落ち着いた声色で話す。
掌から伝わる僅かな振動が収まった時、何故か相手の手がプッチの掌を広げさせ――、そこに文字を書き始めた。
口頭でも全然構わないのにあえて掌に書くところを見ると如何やら相手は口が聞けない相手なのかもしれない。静かに謝罪の言葉を述べている間にもプッチの掌に女性の指先が文字を綴っていく。
こそばゆいような感覚に微笑んでいた顔が一瞬で強張った。



『あんた話せないの?耳、聞えない?目も、見えていないの?』



同情めいた指先に言葉を失う。
もしや何も聞えていないと思っていたのは、何も見えないと思っていたのは、――声までもが、……まさか、まさか、まさか、まさか。
ある種の絶望がプッチに襲い掛かった。信じ難い現実を受けとめたくなくて半ば半狂乱に自分の手を取っていてくれた手を振り解き額を押えた。声が出ていれば呻き声の一つや二つ出ていただろう。でも、今はそれすらも出てきてくれない。
「如何してだ…!如何してこんな目に遭う?私は人々が幸福な人生を歩める世界を創造しただけじゃないか!!」
当たり散らすプッチの指先に何かが絡まる。細く絡み付く感触が一気に不愉快な残像を目蓋裏に描いた。
忌々しい。忌々しい映像が脳裏を巡る。血が滲むまで唇を噛締め、憤りに身を打ち震わせていれば不意に石鹸の香りが鼻を掠めた。
「……?」
暫し自分に何が起こったのか理解出来なかったプッチだが、次第に頭が冷めるに連れ置かれている現状を理解し始めた。
右頬が痛い。両二の腕を抱締める指の強さ。正気を失った人に渇を入れ、元気付ける仕草。無意識にプッチの視線がいるであろう人物を見るように俯いていく。
プッチが落ち着いたのを確認した手がまたプッチの手を攫い文字を綴る。



『また暴れたりしたら、もう一回頬を叩く。酷い場合その場に置いていく。分かった?』



聞えない言葉を添え、小さく頷いた。
そして、引いてくれる相手の後をプッチが歩き始める。
「(主よ…。私に更なる試練をお与えなさるつもりか……)」
与えられる困難は試練であり、試練は自分を強くするものであり、試練を乗り越えればまた一つ大きく成長できる。
緩慢な動きで目蓋を閉じ、一呼吸置いて闇しか見えない眼で自分の指に絡み付く糸、そして相手を見据えた。
「(薄々感じてはいた…。此方が相手を感覚的に認識できるように、…相手も私を感覚的に認識できる)」
細くしなやか。強く引っ張れば容易に切れる糸を指の腹で擦る。糸、糸、糸、糸。糸を出せる幽波紋など自分が知っている限りでは一人しかいない。
「(これが越えなければならない試練であれば私は――)」
指先から掌、手首まで絡み付いている糸を振り解く事も出来た。だが、そう気持ちが浮かばすプッチはただただ糸に導かれるまま暗い道を歩み続けていた。

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