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午前3時、キッチンにて。



少し飲みすぎた、と思った。自分ではまだしっかりしてるんだと立ち上がったものの、ぐらり、と足元がよろついて、思わず手をかけたキッチンラックと一緒に体ごと床に倒れた。

ガシャン。

冷たい無機質な崩壊の音。

と同時に、あぁとうとうやってしまった、と思った。
手元に転がるインスタントコーヒーの重い瓶、100均の安いトレー、キッチンペーパーのロールに何本かのカラトリー。
そして淡い黄色の陶器の欠片。
クラクラ回る頭の一部だけ妙に冷静になって、取手だったもの、をつまみ上げた。



「おまえさ、結局使われないままだったな」



『そうだね』



バラバラに砕けたその欠片は答える。

棚の奥に仕舞われるわけでもなく、その人が来ればすぐに出せるよういつも手の届くところに置いておいた、コーヒーカップは、何とも情けない終わり方をしてしまった。

形や色が気に入って買ったわけでもない、ただ2客で1セットのそのカップがたまたま目に止まって、ちょうどいいと思ったから買った、それだけのものだったんだけれど。
あれからその人がウチに来ることはなかったし、だから一度も使われることもなかった。



「ごめんな」



あの日その人が自分に言ったのと同じ声色で、欠片に言う、
もう返事は返って来ないけれど。






ごめんな、








「ごめんな、慶」










シンクの上の洗い物かごから、使い込まれて渋色の付いたカップがこちらを見ている。
それは何とも悔しそうな顔をしていた。



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