ジャンル:アイドルマスターsideM お題:明日のしきたり 制限時間:30分 読者:606 人 文字数:1113字 お気に入り:0人

独身貴族のたしなみ【やまはざやま】

独身貴族のたしなみ 【sideM やまはざやま】


 ライブが終わった後は、硲さんが五割、俺が三割、類が二割の勘定で飲みに行くことが多い。
 特に話し合ったりしたわけじゃないけど、いつの間にかそうなっていた。

「割り勘にすらなってないですよ」

 そう苦笑しながら言ったところで、年長者の私が多めに出すのは当然のことだろう、と軽く流されて終わる。
 教師時代から、普段は同じ立場で扱ってくれているのに、なぜか金が絡むと年下扱いされる。
 確かに、金にやたら拘って生きてきたし、硲さんにも折に触れてそういう話をしてきた。
 だからと言って、こうも世話になりっぱなしだと、どうも居心地が悪い。

「硲さん、相談があります」
「なんだ、改まって」

 事務所の会議室、教師時代から愛用している湯呑を片手に、朝刊を読んでいる硲さんに声をかけた。
 ネクタイの歪みを間隔で直し、咳払いをして改めて硲さんの顔を見た。
 性格があんな感じなので表立って騒がれることはなかったが、これだけ整った顔立ちとスタイルだから、一部の生徒には密かに人気があった。
 その切れ長の目が、俺をじっと見ている。
 背筋が思わずピンと伸びた。

「あの、飲みの相談なんですけど」
「どうしたんだ、飲みたい酒でもあるのか?」
「いや、飲むものではなくて……」
「では食べ物か? 君の食生活は乱れ気味だ、まずはきちんと三食食べることを心がけるべきだ」
「……話題を逸らさないでください」
「では、率直に言えばいい。まずは話を聞こう」

 言いづらそうだと察して、わざと変な話を振ったのだろうか。
 この人は扱いづらさの向こうに深い優しさが見える。

「やっぱり、俺にももう少し、金出させてください」
「またその話か。……そう気を使わなくてもいい。独身貴族のたしなみだ」

 そこでふっと笑って見せるとか、何このクソカッコイイ三十二歳。
 だが、ここで負けてはいけない。
 首を振って、気持ちを立て直した。

「俺だって独身です。金はないけど。三十路も越えたし……あんまり、硲さんに頼り切りもよくないって思って」
「そう思ってくれただけで進歩だ」

 湯呑をコトリとテーブルに置いて、彼は立ち上がった。
 猫背の俺と、同じ目線にきれいな顔。
 つい、見とれた。

「そうだな、君と私で同額を出そうか」

 これで君とは対等だろう、と続けられた。
 ああ、ようやく。
 彼と同じ場所に立つことを認められた気がした。

「ただ、君は先日の競馬で負けていただろう? 大丈夫か?」
「う……」

 くつくつと笑う彼の目元は、これまで見たどの顔よりもやさしい形をしていた。

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