ジャンル:アイドルマスターsideM お題:幼い消しゴム 制限時間:30分 読者:661 人 文字数:1268字 お気に入り:0人

鉛筆と消しゴムと君と私(はざやま)

 ボロッと消しゴムの一部が欠けるのを見て、山下次郎は苦笑した。

「力入れすぎですよ、はざまさん」

 山下はコロコロと、自分の座っているところまで転がってきた消しゴムの破片をつまみ、そのままごみ箱に入れた。
 消しゴムを割ってしまった当人――硲道夫は、眉間に深い皺を寄せ、机上の紙を睨んでいた。

「違う、この消しゴムが脆いだけだ」
「なーに、モノにあたってるんですか。そんなに難しいこと考えてるんですかぁ?」

 そういって山下は手にしていた競馬新聞を畳み、椅子から腰を浮かせた。
 硲の手元にある紙には、几帳面な文字と数字と図形が並んでいる。
 それが何を意味しているのか、山下には全く理解できないが、おそらく硲にとっては重要な理論を組み立てるものなのだろう。

「山下くん」

 硲は手にしていたシャープペンシルを置き、顔を上げた。
 眼鏡の奥の鋭い眼光が山下を捕らえた。
 山下はこの目線に弱い。
 ウソ偽りを打ち砕き、真実のみを捕らえようとする瞳。
 嫌いではない、むしろゾクゾクするほど好きだった。

「はぁい?」

 山下のわざと間延びした声に、硲の視線がフッと緩む。
 山下は何より、この瞬間が大好きだった。
 硲が気を許したと感じられる瞬間だ。

「消しゴムはなぜ、鉛筆の線を消すことができるのだろうな」
「ああ、消しゴムの表面は多孔質な素材で出来ていて、鉛筆のような細かい粉状の……」
「そういうことではない」

 ガタリと音を立てて硲も椅子から立ち上がった。
 同時に、机越しに山下の顎を取り、その鼻頭に唇で触れた。

「なっ!」

 慌てて山下が硲の腕を押し返そうとすると、逆にその山下の腕を硲が掴んだ。

「なに考えてるんですか、ここ事務所……」
「知っている。今は電話番の女性事務員しかいないことも確認している。だから今、君に触れたくなった」
「もう……反則ですって……」

 そのまま硲は山下の腕を体に引き寄せ、自分の胸に触れさせた。

「こんなに脈が速い」
「ベスト越しじゃ、わかんないですよ……」
「ならば、直接触れてみるか?」

 山下の顔がカッと赤くなった。
 かわいいな、と口の中でつぶやいて、硲は今度は山下の額にキスをした。

「先ほどの答えだが」
「……鉛筆の線に嫉妬してるんでしょ、消しゴムが」
「ほう? 面白いな……理由を聞こうか」
「紙と仲良しの鉛筆に嫉妬して、消しゴムが鉛筆の線を持って行っちゃうんでしょ」
「なるほど、それも面白い解だな」

 胸を触らせていた手を徐々に上に誘い、硲は自らの頬を、唇を触らせた。
 山下の顔は真っ赤になり、まるで沸騰しているかのようだった。

「私はこう思った。鉛筆だけが紙に書くことができるわけではない。消しゴムだけが紙に書かれたものを消せるわけではない。偶然、その組み合わせが最適だった」

 まるで私たちのように。
 硲の囁きに合わせて、山下はそっと目を閉じた。
 唇が触れ合う感触。
 まるで幼子が交わすような、甘い、やさしい口づけだった。

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
作者:たな ジャンル:アイドルマスターsideM お題:捨てられたパイロット 制限時間:30分 読者:41 人 文字数:773字 お気に入り:0人
漂流してから52時間が経過しようとしていた。否、正確には、通信機の不調で母艦の座標が特定できなくなり、訓練生時代に座学で習った漂流時マニュアルを思い出して内蔵ラ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:たな ジャンル:アイドルマスターsideM お題:小説家たちのサーカス 制限時間:30分 読者:50 人 文字数:688字 お気に入り:0人
冬馬の家には恋人の伊集院北斗が暮らしているが、翔太の家にも、御手洗家の次女の婚約者として北斗が暮らしている。二重生活ではない。それぞれの家の伊集院北斗は、それぞ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:たな ジャンル:アイドルマスターsideM お題:かゆくなる夕飯 制限時間:30分 読者:44 人 文字数:891字 お気に入り:0人
天ヶ瀬冬馬の得意料理はカレーだが、いつもそれしか作らないわけではもちろんない。「……おなかすいたなぁ……」夜中に二公演、仮眠を挟んで明け方からアンコールをもう一 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:たな ジャンル:アイドルマスターsideM お題:見憶えのある怒り 制限時間:30分 読者:51 人 文字数:895字 お気に入り:0人
グラスの中で、氷が溶けていくのを見詰めている。何がきっかけでそうなるのか、氷は均一に溶けていくのではなく、氷の山のてっぺんに窪みを作って液体となってそこに貯まり 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:たな ジャンル:アイドルマスターsideM お題:ゆるふわ愛されダンジョン 制限時間:30分 読者:52 人 文字数:1131字 お気に入り:0人
ゆるふわ愛されダンジョンと、ピンクのふわふわした看板が掲げられた迷路の入り口で、冬馬は途方に暮れていた。「早く入ろうよ。冬馬」なんとなく。すごくなんとなく、北斗 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:七市 ジャンル:アイドルマスターsideM お題:生かされたヒロイン 制限時間:30分 読者:141 人 文字数:867字 お気に入り:0人
カットの声がかかって、地に倒れ伏した俺は目を開いた。飴で湿ったコンクリートの上。頬に小石が喰いこんで落ち着かない。スタッフの「OKです」という言葉に、身体を起こ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:七市 ジャンル:アイドルマスターsideM お題:箱の中の恋 制限時間:30分 読者:129 人 文字数:1237字 お気に入り:0人
仕事が終わって、報告の為に事務所に向かう。任された仕事は無事こなしたと、忙しそうにデスクに向かう番長さんにそう告げるために。そんなこと電話の一本入れてしまえばそ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:七市 ジャンル:アイドルマスターsideM お題:純白の職業 制限時間:30分 読者:166 人 文字数:433字 お気に入り:0人
くるくると巡る毎日の中、衣装を変え、表情を変え、視線を変える。進む先はいつだって自分の正面。真っ直ぐに前へ、前へ。胸を張って顔を上げて、時に人を魅了する笑顔を浮 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:みりんPはレジェという深海に沈む ジャンル:アイドルマスターsideM お題:走る失敗 制限時間:30分 読者:353 人 文字数:536字 お気に入り:0人
【雨クリ】満天の星々を見上げながら葛之葉は小さく息を吐く。溜息と呼ぶには軽く、呼吸と呼ぶには重い息が一瞬視界の端を白く染めて消えた。何か起きたら星を見上げるのは 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:アイドルマスターsideM お題:空前絶後の小説 制限時間:30分 読者:344 人 文字数:1623字 お気に入り:0人
先生はいつも本を読んでいる。読 んでいない時もないことはないが、基本的には本を読んでいる。 先生は熱心な読書家だ。いつだって本を手放さない。手放さ過ぎて、たまに 〈続きを読む〉

青葉 和の即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:青葉 和 ジャンル:アイドルマスターsideM お題:幼い消しゴム 制限時間:30分 読者:661 人 文字数:1268字 お気に入り:0人
ボロッと消しゴムの一部が欠けるのを見て、山下次郎は苦笑した。「力入れすぎですよ、はざまさん」 山下はコロコロと、自分の座っているところまで転がってきた消しゴム 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:青葉 和 ジャンル:アイドルマスターsideM お題:緑の宇宙 制限時間:30分 読者:571 人 文字数:1013字 お気に入り:0人
【sideM やまはざやま】 教育バラエティの一環で、俺たちS.E.Mはちょっと遠出のロケに出ていた。 どちらかというとフィールドワークの要素が多く、三人の中で 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:青葉 和 ジャンル:アイドルマスターsideM お題:明日のしきたり 制限時間:30分 読者:605 人 文字数:1113字 お気に入り:0人
独身貴族のたしなみ 【sideM やまはざやま】 ライブが終わった後は、硲さんが五割、俺が三割、類が二割の勘定で飲みに行くことが多い。 特に話し合ったりしたわけ 〈続きを読む〉