ジャンル:繰繰れ!コックリさん お題:そ、それは・・・コンサルタント 制限時間:1時間 読者:615 人 文字数:1713字 お気に入り:0人

【天こひ】アプローチ

「ちょっとお嬢ちゃん天狗攫い体験してみない?」
初っ端から荒い息使いの天狗が現れた。仮面越しでも分かる上気した頬。興奮の度合いに比例して葉の翼がパタパタしている。
「遠慮します」
突如現れた変態チックな相手にも動じないこひなはバッサリ申し入れを断った。
「大丈夫。ちょっと、ほんのちょこっとだけだから」
親指と人差し指で繋がらない輪を作り≪ちょこっとだけ≫アピール。何が如何ちょこっとだけなのか分かり兼ねるが、首を傾げたこひなはそのまま黒髪を左右に揺らした。
「天狗さんが大きくなっても市松は動じません。丁重にお断りします。お帰りはあちらです」
「お嬢ちゃんとわしの仲じゃろ?いいじゃん、いいじゃんちょこっとだけじゃから~」
(今日の天狗さんはしつこいのです…)
腰を屈め、膝に両肘付いての頬杖。小首を傾げてこひなを見上げおねだりポーズ。いい年こいた妖怪にあるまじき行為。
正直なにが嬉しくて楽しいのか理解出来ない。したくない。
「なあ、良いじゃろ~?」
「うっとうしいのです」
挙句、黒髪を玩び始めた天狗の手をぴしゃり叩き落す。無論こひなが天狗の手を叩いたところで痛くも痒くも無い。
だが、わざとらしく叩かれた箇所を撫で「痛いのう」と戯言を言うものだから、こひなが唾を吐き捨てるのも致し方ないと云えば致し方ない。
そもそも唐突過ぎる展開に警察へ通報しなかっただけでも破格の対応である。こひなは自分の懐の広さに一人頷いたと見せ掛け、何処から取り出したのか定かではない年季の入った黒電話の受話器を耳に当てた。
「もしも――?」
途中まで聞えていた音がぷっつり切れた。振り返ると、そこには電話線をひっこ抜き其れをクルクル回す衆道天狗が腹立たしい佇まいで立っていた。
「おいたは駄目じゃて」
元から興味薄だった電話線を投げ捨て再びこひなへ近付き視線を合わせた。
にやにや。ニタニタ。ぶりっこポーズにも近い態勢でこひなの次なる反応を愉しんでいる。既に取り上げられてしまった保護者召喚アイテム(※防犯ブザー)がお手玉の如く天狗の掌で跳ねているのも輪を掛け、こひなはさて如何しようかと口許に軽く握った拳を添えた。
「考える姿も愛いのう」
「ぬーん」
「渋い顔もそそるのう」
(駄目だこの天狗どうにかしないと)
熱い吐息交じりの語尾にいい加減うんざりしてくる。
天狗の思惑としてこひなが根負けしてからの要求を飲み込む展開を御所望なのは丸まる見え見えであった。
(仕方ありません。奥の手を使いませう)
許可なくこひなの手をやんわり両手で包み込み握り締める天狗に向って抑揚のない声が飛ぶ。

「天狗さん。市松は今朝、鯖を食べました」

古今東西。天狗の苦手なものは鯖であるのをコックリさんから教えてもらったこひなは早速言ってみた。実際に今朝食べたおかずは鯖ではなくて鯵の開きである。
やわやわ握っていた手の動きがピタリと止まり、あれだけ舞上がっていたテンションが一気に下降していくのを目の当たりにした。
「お嬢ちゃん、今、なんと…?」
天狗の肩が震え出したのを見たこひなが心の中でガッツポーズをとる。
「鯖を食べました」
「鯖、とな…?」
「然り」
頷いての肯定。
さて、天狗と云えば信じ難い嘘なら嘘と言ってよと言い出しそうな眼差しでこひなを見詰めている。王手と言っても過言ではない。冒頭の何だか分からない展開自体無かったことになるだろう。
こひなはそう思っていた。しかし、現実とは予想通りに行かないもので厄介なものであった。
「お嬢ちゃんならセフセフ」
「もはや意味が分りませぬ」
何がセフセフかこの天狗。こやつ種族の規則すら塗り替える勢いなのか。
諦め通り越し呆れ返るこひなを腕に抱く天狗は頗る上機嫌で、

「言い方諸々アウトなんじゃボケーッ!!」

猪突猛進の勢いで天狗の後頭部を蹴り飛ばすコックリさんの働きもあり、辛うじてこひなの身は守られたのであった。
















「お嬢ちゃんがわしを攫っても良いぞ?」
「しません」
「わしを攫ってあーんな事やそーんな事をしてくれてもええぞ?そう…、えr」
「言わせねぇよ!?」

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