面影
赤司に良く似ている
幼い頃から父の知り合いに育てられていたので、そう言われ続けていた。そして僕が人生の主役になった頃、彼らはそう言わなくなっていた。そして彼らが人生の晩期に入った頃、再びその言葉が言われ始めた。昔のように頻繁に会うことがなくなったからだろう。
その日、僕は12歳になった娘の征美とともに真太郎さんの家に向かっていた。娘はピアノを弾いた。赤子の頃から母親の弾いている隣でポロンポロンと弾き始め、僕が弾いていると傍で聞いていた。真太郎さんの家にはベヒシュタインのアップライトがあるため、それを弾かせてもらうために征美は着いてくる。緑間さんも、僕たちが来るのを楽しみにしてくれていた。僕たちが来ると、いつもお気に入りのお汁粉を出してくれた。
春先の、昨日よりずっと暖かい日だった。征美も春のコートにする、と薄手のコートを着ていた。真太郎さんの家の桃の木の蕾も膨らんできたかもしれない。庭を回って、縁側から入ろう、と僕は露地門の方を回った。真太郎さんの家には大きな庭があって、それはかなり父の趣味が反映されていた。庭は縁側に面して広がっており、玄関から左手にある露地門からすぐ庭へ入ることができた。
露地門を開けると、縁側に面した部屋のソファで、緑間さんが転寝をしていた。こんなよい日には眠くなって当然だ。起こすのも忍びないので、征美と二人、しばらく静かにしていよう、と頷き合った。僕も娘も、縁側から庭を眺めるのも好きだった。
真太郎さんが起きる気配がしたので、そちらを向くと、彼は何度も瞬きをした。
おはようございます
僕が挨拶をすると、真太郎さんは顔を歪めた。
どうしました?
すまない
彼は俯いた。