ジャンル:ワールドトリガー お題:鈍い愛 必須要素:日本 制限時間:30分 読者:754 人 文字数:1195字 お気に入り:0人

指先1cmの距離【忍田沢村】


もう何度も向こうの世界に“遠征”に行った。
こちらの世界とは違う、重く、張り詰めた、火薬の臭いの立ち込める空気の中で、『平和的に』などという言葉は大概、通用しなかった。
話し合いで解決できるのなら、もしくは何かしらの取引で通じるのなら、確かにそう願っては来るものの、もちろん相手側にそんな余裕はなく、第3勢力として戦いの中に身を投じ、半ば強引にトリガー技術を奪って帰還する。それが常になっていたし、おそらくは誰もが同じことを思って行っているのだと思う。

辟易としていた。

確かに無事に帰ってきても、心が晴れる事など一切なかったし、周りが喜んでいる中で表面だけの笑顔を浮かべて「次もがんばりますよ」なんて乾いた言葉を吐くだけだった。



「おかえりなさい、忍田さん」



肩まで下ろした真っ直ぐな黒い髪の女性が私に声をかける。
無事でよかったです、と微笑ってみせたその細めた目は、

「・・・沢村くんか、どうにか帰ってこれたよ」

まだ張り付いたままの私の薄っぺらな笑みのそれと同じ風に見えた。
「どうにかって、また、一番強い人が何弱気なこと言ってるんですか、そこは『当たり前だろ』とか胸張って言ってくださいよ」
トンっと私の右肩を小突く。
ははっ、とまた苦く笑ってやり過ごすと、彼女の顔がわずかに曇った。
何か言いたげな口元をきゅっと一文字にしばって、
踵を返し、背を向けて言う、

「もう次の遠征計画の草案、出来てるみたいです。」

そうか、というと、どうぞゆっくり休んでくださいね、とそのまま去って行ってしまった。



遠征に行く前に、いつも彼女に言われるととがある。

「また私を連れて行ってはくれないんですね」

確かに彼女は女性なのにその戦闘技術も戦況把握力もずば抜けていて、戦力としては申し分ない。
けれど私は、どうしてもいつもその選考にいれることが出来ずにいた。それを“上”から何度も指摘されたこともある。
この日本で、三門市で、けして平和だとは言えないけれど、この安寧を知ってしまっている人間が、近界の空気を吸うのは余りにも酷過ぎる。自身体験しているものを、何故だか彼女には負わせたくなかったのだ。

何よりも、「おかえりなさい」と言ってくれる人が、こちらにいることが、私にとっては大切なような気がする。
理由は何度考えても分からなかったが。




*******


忍田さんはずるいと思う。
ただ一言、「ただいま」と言って欲しいだけなのに。
いくらでも遠征に付いて行く術はあった。何度もついて行こうとした。
それでも私が行かずに我慢しているのは、

「おかえりなさい」

それだけを貴方に言うために、此処に、残っているのに。
それでなければ、いっそ一緒に向こうの世界での辛さを、私にも分けてほしい。

一緒に、泣いてあげたいのに。





end.


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