ジャンル:アイドルマスターsideM お題:憧れの階段 制限時間:30分 読者:472 人 文字数:1261字 お気に入り:0人

幕張にそんな場所があったような×あくつづ

「ここ、ここなんだよ」
 もう自分が生まれる前のバブル期に建てられ、年月を重ねて白茶けてきた『近代的なビル』に囲まれた、これまた白茶けた石張りの広場。遊歩道に上がるための一面が、広く大きな階段になってる。
「映画でオールスター大戦とかになると、この階段に歴代ヒーローがズラって並ぶんだ。それがすごいかっこよくって、ワクワクして……」
 思わず夢中でまくしたててしまった。おずおずと振り返れば、圭さんはいつも通りのニコニコ笑顔だ。
「……圭さん知らないよね、スーパーヒーローとか」
「うん、知らない」
 だよなぁ。握野にとっては子供の頃から慣れ親しんだ特撮番組だが、圭さんはそんなもの見たこともないだろう。
 自分がテレビのヒーローに憧れておもちゃのベルトを腰に巻いてはしゃいでた頃、きっとこの人は見たこともない遠い国でピアノの練習をしていたのだ。
「あ、でもね。知らないけど知ってるよ」
「……どういうこと?」
「あのね、僕の曲でミュージカルやってくれた子が、出演決まったって連絡来れたんだよ。見てくださいって言われたけど、いつやってるのかよく分からなくて……まだあの子、出てるのかな?」
「何年前の話?」
「四年くらい前かな」
「出てないと思う」
「そうか、悪いことしちゃったなぁ……英雄さんの出るお話はちゃんと見ないとね」
「……別にいいよ、悪役だし」
 きょとん、と小首を傾げる。
「よくないよ。出れて嬉しいんでしょ?」
「そりゃ……ずっと見てた番組だし」
「じゃあ、見なきゃ」
 圭さんはそう言って、階段を一段二段上がる。
「英雄さんも映画に出るの?」
「出ないよ、多分。言っただろ、俺悪役だから……」
「でもね、あの子が言ってたよ。悪役からヒーローになる役もあるって。そうなるといいね」
「ならないって。こう言う番組ってさ、ちゃんと役のスケジュールが決まってて、おもちゃの発売とかに合わせて……」
「絶対なれるよ。英雄さん、かっこいいもの。きっと、もっとかっこいい役をやってくださいって言われるよ」
 圭さんにそんな理屈は通じないのだ。何せサンタクロースの実在を信じている人だ。世のお父さんが年末商戦でどんな苦労をするのかなど、この人が知るわけがない。
「……そうだな」
「英雄さんがヒーローになったらすごくかっこいいね。僕に何かあっても変身して助けに来てくれるね」
「いや、だからそれはぁ……」
 だから、そんな理屈は通用しない人だ。
 本当にただ純粋に、そう言ってるだけで。
「……変身なんかしないよ」
「なんで? 変身したかったんじゃないの?」
「そんなことしなくても、圭さんは俺が守るよ」
 階段をひとつふたつ。ただでさえ頭半分大きい計算を、一段下から見上げる。跪くかのように。
「俺がヒーローになれなくても……悪役でも、この階段に並んだヒーロー全部敵に回しても、俺は圭さんを守るよ」
「……それでいいの?」
「うん、いいんだ。そうなっちゃったらその時だから」
 うふふ。圭さんはそう、嬉しそうに笑った。

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