ジャンル:ハイキュー!! 黒大 お題:昨日食べた神様 制限時間:2時間 読者:525 人 文字数:3664字 お気に入り:0人

俺たちの運命力


 俺はベータだ。
 アルファとかベータとかオメガとか、そういう「区分」が出来たのは今からたった20年前らしい。前々からアルファ (というよりはオメガ)の特性を持った人間がちらほらと出てきては居たけど、明確にその割合が増えた時期があった。混乱を避けるためひた隠しにしてたけど、隠しきれないと分かった偉い科学者や政治家が人類は3種類に区分できると発表した。その3種類がアルファ・ベータ・オメガ。ざっくり言うと、アルファが優秀かつ支配力のある種、ベータがごく普通の種、オメガが性別問わず孕むことのできる種、である。何でアルファ、ベータと来て急にオメガになるんだろうと思っていたが、「自他共に性別問わず孕むことのできる淫乱な種なんて“終わってる”」という意味で「オメガ」だと聞いた。それってつまり、性別と同じく選ぶことのできない「区分」なのに最初から「差別」されることが確定してるってことだ。区分なんて言葉、差別する人間こそ使うんだろうに。
 そんな区分があると知った世界は勿論大騒ぎ。常識がひっくり返ったせいで色々改正しなきゃならないものが出てきた。それは法律であったり条例であったり社会のルールであったり、とにかく沢山だ。科学者たちもアルファ・ベータ・オメガが検出できるか調べに調べて、ようやく整ったのが15年前。5年で調べてルール改正って結構凄いと思うんだけど、それが馴染むかどうかは別問題だ。ていうかはっきり言ってアルファやオメガなんて滅多に出会えるもんじゃない。アルファ・オメガ人口はこれから徐々に増えていく傾向にあるらしいが、その特性は遺伝しない突発的なものだ。更に「運命」というものがあるなんて話もある。アルファとオメガの間には特定の人間と強く惹かれあう特殊な関係があって、俗に「運命」と呼ばれている。運命の相手は本能的に分かるそうだ。そんな運命とは関係なく、アルファがオメガのうなじに噛み付けば「番」になって、一蓮托生みたいな関係になる。でもこれはアルファからの一方通行で、実際オメガは所有物みたいな感じになるそうだ。ああ、あとオメガには発情周期があって……話し始めるとキリがない。とりあえず、アルファとオメガが特別な人間で、しかも少女漫画みたいな「運命の相手」っていうのが世界の何処かに居て、でもそれとは関係なく「番」になれるってことを分かっていれば、大体何とかなる。だって、世界のほとんどはベータなんだから。
 発表されてからの10年はかなり酷いものだと教わった。アルファよりオメガが標的とされ、新人類は駆逐すべしだなんていう過激派も現れて事件だらけ。暴動も起きて結構な死者が出た。俺もおぼろげながら覚えてる。幼いながらに疑問に思った、3つに区分できるようになっただけでどうしてこれだけ人が死ぬんだろうって。大人が真剣な顔して事件起こす理由が分かったのは成長してからだった。
 「性別も区分も選べない。ならば我々はそれを受け入れ、幸福になれる道を模索すべきだ」。世界の主権を握る国のトップが、そういったのもちょうど10年前。その言葉が効いたのか、大分騒ぎも落ち着いて、世間も受け入れようという風潮に変わった。オメガのための人権団体が出来て、法律も整備された。アルファ・オメガ間の同性婚が認められたのもこの時期だ。数々の著名人が実はオメガだと知れ渡り、世間の抵抗が徐々に薄れてきて今に至る。
 テレビで見る芸能人には結構アルファやオメガが多いけど、やっぱりそれでも2種類の人口は少ない。俺が今まで出会ったことのあるアルファは影山と及川で、オメガはまだ居ない。アルファにはオメガが分かる。そういうフェロモンが出てるらしい。影山にオメガが分かるのか訊いてみたら、何となく分かるけど薬で抑えられててはっきりとは分からないと答えられた。この質問は軽率すぎたと後で反省した。
 高校を卒業して東京に進学しても、オメガには出会えていない。オメガに対する差別意識は根強く、誰もがオープンにしてる訳じゃないから、出会ってるけど知らない可能性は高い。大学が同じでかつての宿敵だった及川はこう言った、「オメガは分かるよ。発情期にニオイがするから。でも『運命の相手』は分からない。そんな一人を捜すなんて、砂の中から砂鉄を探し出すのとおんなじだ」。
 俺はベータだ。及川はアルファ。人を惹きつけるのはともかく、人の性格や癖を見抜く観察眼やチームメイトの力を100%引き出せる能力は確かに優秀な人間っぽい。以前飲みにいった時それを言ったら本気でキレられたのでもう言わないけど。
 大学は違えどよくつるむのは、及川と同じく宿敵だった黒尾。黒尾もベータだ。黒尾は知り合いに運命の相手を見つけあったペアを4組知ってるらしい。アルファやオメガがそんなにいるのも驚きだけど、運命の相手まで見つけるなんて奇跡としか言いようがない。東京は人間が多いからなのだろうか? 言えば黒尾は及川の意見と真反対のことを言った、「結構夢みたいな話だけどサ、どいつもこいつも、運命からは逃れられない」。
 アルファやオメガには運命がある。でも普通の人間、つまり俺たちベータには運命なんてない。どうして同性婚を認めてこなかった日本で認められたかというと、運命という仕組みのおかげだ。というより、運命の相手や番じゃないと同性婚は出来ない。つまり、ベータの同性婚は認められていないということだ。法律自体がまぁ仕方ないかって感じで出来たらしいから、ベータを認めていないのは当然っちゃ当然。でもそれが俺にはしんどい。俺が、黒尾を好きになったからだ。
 俺が黒尾を好きで、多分黒尾も俺が好きで、互いに好意があることを知っている。知っていても踏み出せないのは運命がないからだ。俺達は運命を持たないベータ同士、結婚は望めない。しかもアルファ・オメガの同性婚が認められた反動か、同性愛に対する風当たりが随分と強くなっている。「人類を滅ぼす最低の欲だ」って著名人が言って大バッシング喰らってたけど、世間が言いたいことをまるっとそのまま言った感じだった。運命を持たず、風当たりも強い中で、愛を貫いていけるかと言われれば自信がない。そもそも、黒尾を好きになったことでさえ、未だに疑っている。勘違いだと割り切るには誤魔化しきれない感情が渦巻くようになったから、一応好きだとは言えるけども。
 黒尾の家で二人、やることもなくぼんやりとニュース眺めていた。昨日のオメガに対する迫害運動や、一昨日のベータ同性婚法成立に向けてのデモ、どんなニュース番組でも必ずといっていいほどアルファやベータ、オメガの話が出てくる。
 ああ、いやになるな。
「澤村サンてさ、運命信じてる?」
「……アルファオメガの?」
「うん」
「お前から聞いた話だと、あるように思えるな」
「まあ、俺は信じてますけどね」
「信じてるのかよ」
「ていうか、アルファオメガ関係なく運命って考え方は前からあったし。俺はそっちの方もわりと信じてる」
「……信じてるのか」
「おや、顔色が変わりましたネ?」
 にやにやと見つめてくる黒尾が鬱陶しい。アルファオメガの運命以外にも、運命があるのは知ってる。運命を知ってるっていうか、考え方を知ってるだけだが。それをわりと信じてるって言える黒尾が羨ましいような、そうでもないような。髪型どころか結構イタいところあるしなあ。
「今失礼なこと考えたな?」
「運命がなんだって?」
「……運命ってのには力があって、アルファとオメガじゃお互い引き寄せる力が大きいんじゃねえかな。4つのカップル……番を知ってるから、なんつーか……相手を選んで引き寄せて自分のものにするだけの『運命力』っての? そういうのがあると思う」
「『運命力』、ね」
「で、さ。そこまで行かなくても誰でも持ってると思う訳よ。そういう『運命力』」
「……へえ?」
「宮城と東京と、因縁あるからってそう出会えるはずないだろ? でも俺たちは俺たちの代で試合をした。引き合わせたんだ」
「……」
「俺たちの『運命力』はそこまで強くなくて、宮城と東京の高校生をドンピシャで引き合わせたところで力尽きたんだと思えば、これからは自力で頑張るしかないって思えませんカネ」
 『運命力』か。確かに俺たちは普通なら出会えなかった距離で、出会って、切磋琢磨して、成長して、まだここでこうして一緒に居られている。これは十分に、大きな、力じゃないだろうか。
 そう考えると何だか頑張れそうな気がしてこないか?
「……黒尾」
「ハイ」
「……好きだ」
「……俺もデスヨ」
 一昨日のデモの様子がテレビに映っている。こんな分かりやすい風当たりなんかより、見えない力で引っ張り合って出会った縁の方が、もっとずっと大切に決まってる。だったら俺が大切にするのはこの縁……運命力、だ。
 前途多難が分かりやすく見えているけれど、黒尾とこの運命力となら頑張っていけそうな気がした。

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