ジャンル:テニスの王子様 お題:過去の衝撃 制限時間:1時間 読者:651 人 文字数:1338字 お気に入り:0人

袖触れ合うリョ幸

夜、駅のロータリーで、タクシーを待っていた。
久しぶりに帰国した日、ちょっと用事があったから、空港から直接向かってその帰り。人気のない小さな駅に駐屯のタクシーはいなくて、電話で呼ぼうかどうか、迷っている時だった。
自分からは10歩ほど離れた階段のところに、人がいた。いや、気づいてはいた。同じくタクシーを待っているのか、ずっと立っている男がいるのは最初から知っていた。ふいに男が、手に持った端末の画面をつけたので、その光につられて何となしに視線をやる。

その時だ、激しい既視感のような、引っ掛かりを覚えたのは。

何か、デジャブのような、知っているような知らないような、まるで一度体験したことがあるみたいな、そんな感覚だった。知ってる男か?と観察しても、思い出せない。液晶の青白い光に照らされたその顔がこちらに向く。視線が合った。

視線があったまま、数秒。外れない。自分はもちろん、相手もそれを逸らさないので、この隙間に強烈なスマッシュでも打ち込まれない限りは、永遠に続くのではないのかと考えるほどだった。
やがて、交わった線はそのままに、男の足が革靴を鳴らして、握手ができる距離まで互いの位置が近づいた。

「こんなところで君に会うとはね」
見覚えのある気がする男がそう言った。男の言い方的に、どうやら知人であるらしい。目を細めて笑う感じなどは、どう考えても思い出せない。
アンタ誰、と聞くのは簡単だったけれど、なんとなくそれは、とても悔しい気がして、「覚えてるんだ?」肩にかけたラケットバッグを持ち直して言った。
「覚えてたね。俺結構、人の顔覚えてるよ。目で覚えるから」
目、と、男の言ったことを頭の中で反芻して、歯ごたえのある既視感を口の中で転がした。
「俺のことわからない?」
「…」
「あはは、いいよ、いいよ」
答えずにいると、男は手の平を振って、自然な流れで隣に立ち並ぶ。視線はようやく外れた。

「ちょうどよかった。俺ね、君にもし会うような機会があったら、伝えたいことがあったんだ。聞いてくれるかな」
ちらりと横目で伺えば、男はまっすぐ、何も無いロータリーの方を見ていた。全然知らないのに、覚えているみたいな口元が動く。
「君のことをね、好きだったんだよ。中学の時出会ってから、ずっとね」

は、と声が出て、相当とぼけた顔をしていたと思う。男はそれで、またあははと笑って続ける。
「大丈夫だよ、何も変なことしようとか、無いから。時々テレビで君の試合を見たりすると、なんだか不思議な気持ちになるだけ。俺が勝手にね、懐かしいなあってなるだけ」
ほとんど一回しか会ってないのにね、と男は言った。
「でもね、ホントに、好きだったよ」
伏せられた瞼も、思い出せない。
思い出せないし、知らない。でも、知っている。
唐突に、知らないということを思い出した。

完璧に微笑んだ男が、自然な流れで手を挙げて、まるでタイミングを合わせたみたいにタクシーが滑り込んできて、止まる。だからつい、慌てたように聞いてしまった。
「アンタ今、テニスやってないの」

タクシーに半分乗り込んだ姿勢で、こちらを見上げた男が笑った。
「今更、気づいたのかい?変なところで鈍いんだなあ、君って」

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