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リストカッテ・リストカッタ(前篇?)


 俺が母方の祖父に会ったのは高校1年の夏だった。
 初めて訪れた母の故郷・長野。立派な日本家屋の離れに祖父の部屋はあった。そこだけが江戸時代に取り残されたかのような、例えば釜戸であったり風呂であったり土間だったり、祖父は作務衣を着ているし、ここだけ21世紀迎えてないんじゃないかと錯覚してしまうような空間だった。
 俺が祖父に会ったのは偶然だった。家人が全員何かしらの用事出払っていて、留守番を言いつけられ暇潰しに徘徊してたら離れを見つけたのだ。それくらい、離れは母屋と隔絶していた。離れだけがこの家の中で不自然な空気を纏っていて、寧ろその空気があったからこそ俺は離れを見つけることが出来たのかもしれない。
 そっと、息を殺して足音を立てずするりするりと離れに近づいた。誰かいるのだろうかと。誰もいないことを願いながら、その願いが叶わないことを予感しつつそっと引き戸を開いてみれば、やはりそこには人がいた。丸めた背中をこちらに向けて、祖父の紹介がされていないことを思い出しこの人が祖父なんだろうと思った。それがきっと自然だろうと。
「こん、にちは」
 思ってた以上に上ずった声が出て恥ずかしかったものの、ひとまず挨拶を。勝手に覗きみたことを叱責されるだろうかと身構えていたら老父は俺に一瞥をくれて、また背を向けた。そんなに熱心に何を見ているんだろうと思って、お伺いを立てて無言は肯定と見なし離れに入ると、祖父は何もない釜戸をじっと見つめていた。
 夏場にそぐわないひんやりとした空気、土臭さ、何もない釜戸を見つめる老父。
 え、これユーレイじゃないの?
「……お前が孫か」
「えっ?! あ、はいソウデス」
「名前は」
「……てつろう、黒尾鉄朗」
 ユーレイ疑惑を内心で投げかけた瞬間喋り出したから素っ頓狂な声を出してしまったが祖父は見事にスルー。孫かどうかの確認を取って、まあ、そうですね孫ですけどもあなたは祖父ですね。初対面ではないことを俺は母から知らされていますが、ていうかこの名前をつけたのはあなただと伺っているのですが、どうなんでしょう。正しいでしょうか。
「……こっちへ」
 脳内で色々並べた疑問だか何だかを結局口にはせず、祖父の言葉に従う。土間を上がって奥の部屋へ通された。囲炉裏を見て社会見学で見たような構造の家だなあって場違いにも感心してたら座るよう促されて、やはり従い腰かけた。祖父は囲炉裏の向かいだ。
「鉄朗よ。儂が名付けた子だな?」
「そうだ、と、聞いてます」
「お前、母さんの家が何をしているか知っているか」
「……? いえ、知らないです」
「うちはなァ、代々日本刀の研ぎ師をやってるんだ」
「日本刀?」
 廃刀令が下されて久しい日本で、日本刀の研ぎ師なんてやってたのかうちの母の家系は。珍しい職業を生業にしているものだ。でも母の代で男は生まれていないから家を継ぐ話でも始まるのだろうか。父方は別に何もやってないしなあ。今から研ぎ師になって、どうなんだろう。職として成立するのか?
「研ぎ師は、もう儂の代で終いだ。日本刀の研ぎ師なんざ、お払い箱で、今は価値も分からぬまま誰それの家でひっそり鞘に埃を溜めて眠っているんだろうよ。酷く口惜しいが仕方あるまい。そういうご時世だ。刀は最早、最も美しい形ではいられまい」
「最も美しい形って、何」
「あれは、東北の、宮城だったな。儂は美しい刀を見た。刀の美しさってのは、斬った時の斬りやすさが全てだ。柄も鍔も刀身も、どれだけ流麗に拵えたとて斬れなければ単なるナマクラで、価値なんてねェのさ。見目麗しい刀なんてェのは二の次で、どれだけ斬りやすいかが刀の全てだ。強度も必要で、粘度も必要で、鋼は難しい。でもありゃァ、美しかったなァ。あれは刀であって刀でなかった、あれこそ一つの芸術っちゅーもんだ。あの刀以上に美しいもんはこの世にはないなァ。叶うならもう一度見てみたいものだ。さて、鉄朗よ、お前、鉄って名前に入るんなら、刀を一度見ておくべきだ。研ぎ方まではいい、ただ刀の美しさってもんは、知っとかにゃならん」
 いやアンタが名前つけたんだろうよ、とツッコミを入れるべきかは迷ったが、見る限り老い先長くはないだろうと判断できるし、教えてくれるってんなら無理に断る理由もないしなと祖父のレクチャーを受けることになった。
 里帰り一週間でおおよそ刀の美しさってやつを教わって東京に戻ることとなった訳だが、よもや三年後、祖父がしきりに言っていた「あの美しい刀」に出会うことになるとは、想像もしていなかったのである。







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