ジャンル:テニスの王子様 お題:どうあがいても職業 制限時間:1時間 読者:462 人 文字数:1252字 お気に入り:0人

【ちとくら】どうあがこうもあの夏だけは




「ほら千歳、そろそろ閉館時間になるさかい、帰んで」
「あ、うん。ちぃと待ってくれんね、今片付けるけん」

自分たち以外誰もいないというのに、自然と小さく潜められた白石と千歳の囁き声が図書室の一角にある空間を震わせた。閉館時間ギリギリまで勉強するために広げられていたノートや参考書、筆記用具を片付けながら千歳は、同じく目の前で片付けをする白石をそっと盗み見た。


四天宝寺中テニス部の全国大会は惜しくも準決勝敗退という結果で幕を閉じ、彼らの夏はそこで終わった。そしてそれと同時に白石達3年生は事実上の引退となるので、そこで本格的に受験に向けての勉強に集中することとなる。だがどうにも千歳は呑気にしているようで、放っておくと自主的に勉強する様子がまるで無いと見兼ねた白石は、千歳を図書室に引っ張っていき自分と一緒に勉強させるようにしたのだ。それは密かに想いを交わしあった2人にしてみれば、勉強のためとはいえ一緒に時間を過ごすことができる、いわば一石二鳥とも言える時間の過ごし方のはずだったのだが、千歳には気がかりなことがあった。

『もう引退したんやから、テニスやのうて勉強せな高校行かれへんで』

それはよく白石が勉強をサボっている千歳にかける言葉なのだが、千歳はその言葉は白石が自分自身に一生懸命に言い聞かせているように聞こえて仕方がないのだ。




「忘れもん無いなー?ほな行こか」
「ん…あれ?なんか白石んとこの椅子の下、紙ば落ちとうよ」


先に席を立った白石の後に続いてその場から離れようとした千歳は、白石が座っていた椅子が一枚の紙を踏みつけているのを見つけて拾いあげる。手にとったそれは白石がさっきまで使っていたルーズリーフだ。そしておもむろに紙の裏にも目を通すと、そこに書かれていた内容に千歳は目を見開く。


「白石、これ」
「え?……あっ」
「これって…準決勝の結果と、練習メニュー…ばいね…?」
「……せやなぁ」


そこには見慣れた白石の文字で、あの全国大会の試合についての考察のみならず、敗因や次に繋げるためのヒントやアドバイスも事細かに記されていたのだ。それは財前や金ちゃんなどまだ在籍している部員だけではない、謙也に小春ユウジのダブルス、千歳の才気についても書かれていた。だがそのどれよりも何よりも細かく書かれていたのは、不二と対戦したあの試合であり、白石自身の反省点についてであった。


「まぁ、職業病?ちゅーか……ははっなんやまだ部長気分が抜けんくてなぁ…」


そう言ってすこし哀しそうに笑った白石は、だんだんと遠ざかるあの夏にどうしようもなく焦がれているのだろう。
だんだんと秋に移ろう季節の中、千歳はそんな白石の手を強引にでも握り引っ張ってやることしかできない。
完全に陽が落ちて、暗くなった図書室の外の廊下は少し肌寒い。しかしお互いの掌の熱だけはあの夏と変わらぬまま。


テニス、したかねぇ。


その言葉を口にする勇気は、優しすぎる千歳にはまだ無い。

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