ジャンル:ハイキュー!! 黒大 お題:腐った大雪 制限時間:2時間 読者:465 人 文字数:3978字 お気に入り:0人

此処で会ったが百年目 ※未完


 三千世界の烏は鳴いたか

「朝を告げるは烏にあらず、夜を告げるは鶏にあらず」
 腹回りの肉を地面に乗せてでっぷりとした黒猫が寝っころがって頬杖を突き空を見て嗤う。
「アザミが枯れよとのたまうならば朝を迎えてはならぬ。来ぬ朝にあざむは我等か烏か」
 くはっと欠伸を一つ。
「まあ良かろう。眠れるならば夜のままでも」
 黒猫が嘯く。





 独立の槍

 それは唸りをあげるような圧倒的なサーブではなかった。
 攻撃力は乏しく、徹底的にレシーブを鍛え上げている音駒が取れない筈がなかった。
 それでもサーブはてんっと床に触れた。音駒のコート、白線の内側。笛の音を皮切りに咆哮する黒い鳥達。一点取ったにしては大きすぎるそれも、音駒優位の流れを断ち切るには十分すぎる役割があった。
「スマン、今のは俺の判断ミスだ」
「いや、あんなに変化したら初見じゃ無理だろ。切り替え切り替え!」
 取り損ねたサーブに謝罪する黒尾、すかさず夜久がフォローを入れた。
 挑発的なサーブだった。リベロを避けつつ主将の真横に入ったジャンプフローターサーブ。これを決めたピンチサーバーは果たして合同合宿にいただろうか。見違えた相貌に知らず固唾を飲み込んだ。
 依然音駒優位には違いない得点差。夢のオレンジコートでの邂逅を喜んだのは束の間、すぐに相手を叩きのめすことに心血を注ぐ。威嚇のような主将同士の握手は最たるものだった。
 負けてなるものか。
 培った全てで以てここまで来た。互いに楽ではない道のりだった筈だ。ならば敬意を表して全力以上で、それこそ奇跡すら味方につけて相対するのが礼儀だろう。
 勝ちたい。互いの苦楽を知っているからこそ、手の内を知っているからこそ、上回って勝利したい。
 ある程度手の内を知りあっているチームが敵だとより一層燃えるものだ。それが合同合宿や練習試合で長く過ごした相手、宿敵校だとすれば尚更。ただ強い敵と戦うのとは違った快楽が存在する。
 この時が長くあれ。しかし勝利は我等の手に。
 そう思いながら全力を出すことの、なんと面白きことか。
 一点と共に流れを断ち切った一年はまさしくピンチサーバー。烏が喜びの声を上げ反撃をと意気込む反対で、猫は静かに目を光らせている。
 イニシアチブを取り戻したつもりか。
 老齢の猫がベンチで笑う。粘りの音駒の真骨頂はまだ見せていない。試合はまだまだ続くのだ。まだ焦る必要はなかろう。
 烏はようやく雛から子供に。しかし大人には追いつけまい。
「まずは槍を叩き折ろう」
 化け猫のごとくに猫又は告げた。





 襖を閉める猫

「きゃつの恐ろしきはその執念、望みのために寿命を捨てた」
 とっとっと、烏が地面を跳ね歩く。
「捨てたは命の終着点。死ねぬほどの危険を冒して叶えた望みはあまりに滑稽」
 空を眇めて烏は鳴いた。
「アネモネが咲けよとのたまうならば、我等は望みを持たねばならぬ。望みは風に見捨てられるか、我等と猫が先に見捨てられるか」
 仲間の羽を拾った烏が翼を広げて墓場へ向かう。
「まあ良かろう。見捨てた先に誰かがいるなら」
 烏が嘲笑う。






 白い期待

 音駒は敗北した。惜敗を喫した。
 烏野は勝利した。辛くも勝利をもぎ取った。
 さっさと宮城に帰して受験勉強にでも励んでいただきましょうかね、いいえ折角ですから東京の空気を満喫しますよ。
 試合前のやり取りを思い出し、黒尾は笑った。
 負けた。負けてしまった。
 悔しさはある。でもそれ以上にやり切ったと思った。
 これ以上はない。
 やるからにはトップを目指す。表彰台を目指して努力した。まずは全国進出、それからその先へ。
 しかし黒尾は違った。ゴミ捨て場の決戦が実現できるか、そこを重視した。その時点で気持ちとしては負けだったのかもしれない。それに気づくのはしばらく先だが、黒尾は悲願を叶えられて感無量であった。
 食えない男。
 最も地味でぱっとしない男がよもやあれほどの技量を持っていたとは。他の烏が努力をしていないとは言わないが、圧倒的才能がある訳でもなく、ひとえに努力だけでのし上がった主将を尊敬せずにはいられない。
 澤村大地。
 努力は裏切らないなんて嘘だ。それは人生を長い目で見た時のみ言える言葉しnで、その場その場だけで見れば努力は簡単に裏切ってくる。それを知っていると努力そのものが恐ろしく感じるがある。この先に本当に望みが手に入るのか。状況が芳しくなければ不安は殊更大きくなる。それでも努力して結果を引き寄せ掴み取ったのが澤村だと黒尾は認識する。
 ああした大きな器があるから烏は好き勝手に暴れられるんだろう。悠然と構える姿は大自然の大樹を思わせる。
 俺はどうだっただろうか。あんなに堂々と構えている主将ではなかっただろう。どう在れば良かっただろうか。そういったことを黒尾は海に相談したことがあった。副主将にしか言えなかった。
「黒尾は澤村君にはなれないよ。澤村君の堂々とした感じは体つきとかも関係してるし、なれるとしたら俺だろうね」
 でも、と海は言った。
「黒尾は皆を誘導する力はあるよ。例えるなら、澤村君は引率の先生、黒尾はバスガイドさんかな」
「なんだそれ」
 黒尾はその時笑ったが、海の言葉に励まされてはいた。
 しかし今なら分かる。海が語った違いが。
 澤村が与える安心感によってチームメイトは伸び伸びと力を発揮した。黒尾が示す方向が見えていたからチームメイトは誰一人迷わずに来れた。どちらも甲乙つけがたい特色である。隣の庭の芝生は青い。黒尾は自分の庭の芝生もちゃんと青いことを知った。
 それでも尚黒尾は思う。澤村が良いと。他校の誰でもなく澤村大地が良いのだと。
 思い出としてはここで途切れるのが美しい。最高の好敵手と最高の試合をして、それが思い出になり更に美化されて一番の記憶になる。それが最も良いと黒尾は分かっていた。
 そんなことより生身が良い。本物が良い。自分の脳で捏造された澤村大地なんて要らない。
 気付けば走っていた。そこら中を走って、廊下で一人歩く澤村を見つけた。思わず大声で呼んだせいで何人もが黒尾を注視する。辿り着いた黒尾は息も絶え絶えで、澤村が場所を移そうと提案した瞬間に言ったのだ。
「このまま俺は終わりたくない。全部、ここで終わらせるなんて無理だから。終わらせるのはバレーだけでいい。ここでお前とは終わりたくない。お前等がここで勝ってって、全部終わらせたら連絡して。絶対。待ってるから」
 応と答えた澤村に目の前が真っ白になって。






 無縁墓地にて

「あな恐ろし、猫と烏は相対したか」
「我等がここにいるならば、間違いなかろうな」
 黒猫は石畳の上、烏は卒塔婆の上でそれぞれを見つめる。
「何も知らぬ大将らは哀れよのう。これから永久を生きねばならぬ」
「それは貴様のせいだ黒猫」
「是としたは貴様だ烏殿」
 ふはっと嗤いあう。
「誰もそれを伝えぬとはな。悪い大人が多いことよ」
「呪いが発動するのは久々ゆえ、誰も気付かんのだろう。あの猫又が気付かぬなら仕方あるまい」
「ならば誰が大将らを守るのか。我等だけでは生かせられぬぞ」
「同族が感知するだろう。我等もここから離れねば」
「嘘を吐け。此方に引きずり込むのだろう? 我を此処に留めたように」
 黒猫が意地の悪い笑みを浮かべた。
「どちらも同じこと。全ては此処に集まるのだ」
 黒猫の望み通りに。







 棘の守護は少年を傷つけない

 黒尾は相貌が端正ではない。むしろ不細工だと夜久は言う。
 雰囲気イケメンだお前はと言われ、悔しいがその通りだと黒尾は納得したものだ。
 澤村もまた相貌が端正ではない。男前ッス! と後輩は慕った。
 澤村自身イケメンでも男前でもないと思っていたから後輩からの言葉は嬉しかったものだ。
 モテなかったと言い切るには少し人気があり過ぎた。しかしモテたとは言い難い。彼女が出来ればいいなとは思っていたが悲しいほどにバレー一筋だったせいで浮いた噂話は数える程度しかなかった。
 春高が終わり受験が終わり春が来た。黒尾も澤村も実家から通える範囲の大学を受験し、合格した。晴れて大学生である。
 春高での黒尾の懇願から、二人はこまめに連絡を取り合うようにしていた。桜が咲いただとか今日の学食メニューがおかしいとか、他愛ない話ばかり。慣れないスマートフォンのフリック操作、誤送信は飽きるほど送りあった。新生活にドタバタし、大型連休で通学の不便さを再確認して憂鬱になり、それでも気合で登校すればふとしたきっかけで友達が出来た。黒尾も澤村もサークルには所属していなかったせいか大勢と一気に知り合うことはなかったが、講義などを通じて徐々に交友関係を広め、大学が楽しみになる程度には発展していた。
 テストが終わった夏休み。黒尾はバイト代をはたいて宮城に来ていた。
 一人旅をするのが目的で行く先は何処でも良いと言えば澤村が誘ったのだ。宮城に遊びに来いと。それじゃあ一人旅の意味がないと黒尾は不服を申し立てたが澤村の誘い以上に魅力的な旅が出来るとも思わなかったので素直に乗ったのだった。
 久々の邂逅。半年程度の時間を置いた再会なら感動も何も無いだろうと高を括っていた黒尾だが、待ち合わせ場所で澤村を見つけた瞬間それは違うと思い改めた。
 澤村は変わっていなかった。それが黒尾の胸を酷く抉ったのだ。
 意識しなければ容易に人は変わらない。新しい環境になっても大して変わらない人間なんて掃いて捨てる程にいる。しかし澤村のそれは違った。まるで思い出の中に置いてきたかのように。

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