ジャンル:ワールドトリガー お題:死にぞこないの冬 必須要素:ガラパゴス諸島 制限時間:30分 読者:805 人 文字数:3760字 お気に入り:0人

荒村/絶対信者



「自分が自分であることを恨んでいるんだ」

 本部の屋上から見える夕陽はひどく赤く、まるで世界の終わりのようだ、と荒船は思った。ハリウッド映画のラストシーンには最適だろう。けれど残念ながら荒船が今見ているのはハリウッド映画ではなかったし、ここをラストシーンにするには、あまりにも盛り上がりに欠けていた。屋上に冷たい床に腰掛けて膝を抱える村上鋼は映画のヒーローにふさわしいくらい強かったけれど、ヒーローになるにはあまりにも精神が弱かった。まるで生まれたての子どもみたいに。

「は? 言ってる意味がわからん」
「荒船はそうだろう」
「説明しろよ」
「生まれ直したい」
「無理だろ」
「そうだ。そうなんだ」

 才能を。自らの、サイドエフェクトという才能を、村上は恨んでいる。そのことを荒船はとてもよく知っていた。サイドエフェクトなんてものは、ほとんどチートだ。あれば必ず強くなる、くらいに。そして荒船にはその力がなかった。村上にはその力があった。けれど荒船はそれを恨んだことはない。
 才能がない、ということを。恨んだことはない。
 荒船哲次は天才ではない。だから、けれど、それが、いったいどうだというのだ?

「生まれ直して、どうしたいんだ、鋼」
「ふつうの……人に、なる」
「ははっ。思い上がりすぎだろ」
「そうかもしれない」
「なんだ? またくだらねー理由だろう」
「体育の、授業で、小学校の、ときに、オレが入ると必ず強くなるからって理由で、いつも審判しかさせてもらえなかった」
「何の話だよ」
「サッカーの話、あとはバスケ、卓球も、テニスも」
「テニスやる小学校か。かっこいいな」
「さみしい」
「なんで小学校のときの話を今更してんだよ」
「夢に見た」
「はは、おまえは……」

 繊細だな、と、思って、荒船は愉快な気分になった。村上鋼が繊細であればあるほど、おもしろい、と思う。村上鋼は、強い。強いのに、脆くて、弱くて、おもしろい。なにせ自分の強さが理由で荒船が狙撃手に転向したと本気で信じていたほどだ。そんなわけはない。荒船はいつだって荒船自身にしか、依らない。他人がどうあろうと、他人にどう言われようと、自分が信じた道だけを突き進む。それがどれだけ困難な道であろうと、茨にまみれた道であろうと、自分の信じた道だけが、荒船にとっての王道だ。

「小学校のときの話なんか、いまさらさあ……おまえには俺がいるだろ?」
「……いない」
「いるよ」
「荒船が、小学校のときからオレの傍にいてくれたらよかった。そしたら……」
「そしたら?」
「そしたらきっとオレは、さみしくなかった」
「鋼、おまえ、かわいいなあ。ガキかよ」
「ガキだ」
「ずいぶん図体のでけーガキだな」

 冷たい風が吹いて、徐々に夕陽が沈んでいく。荒船は村上の横に腰掛けて、その肩に腕を回した。冷えきった身体だ、と思った。

「身体、冷やすなよ」
「女子じゃないんだから、別に」
「代謝量が落ちる」
「ああ、なるほど……いや、おまえは、なあ……はは」
「面白いか」
「面白いよ。荒船は、いつだって、愉快だ」

 おまえほどじゃない、と思ったけれど、荒船は口には出さない。村上の肩を抱いて、引き寄せて、そして静かに、村上の顔を、見下ろした。黒い瞳がこちらを向いて、荒船は目を眇める。視線を合わせると、村上の瞳が一度、ためらいがちに、斜め下を見て、それからもう一度、荒船を、見た。
 キスをした。
 理由はそれほど存在しなかったし、存在していたとしても、大した理由ではなかった。無理矢理に理由づけをするなら、さみしそうな村上を慰めるために、ぐらいのもので充分だろう。荒船にはよくわからないが、人はどうやら、孤独を恐れる生き物らしい。
 荒船は自分が平均的な人間であることを理解している。凡人と凡人の遺伝子から生まれでた、このうえないほど平均的な凡人だ。凡人だから天賦の才はない。凡人だから、努力をする。凡人と言えど最適な努力をすればそれなりの結果が出てくる。それは、荒船にとって単純に楽しいことだった。誰だってそうだろう。ゲームと同じだ。毎日ログインすればログインボーナスが現れるソシャゲなら、毎日ログインをするだろう。それと同じ。毎日練習をすればそのうちうまくなる。少しずつ練習を重ねて、ある日、うまくなる日が、訪れる。最適な努力は己自身を裏切らない。だから毎日練習をする。だから毎日勉強だってする。とはいえ時折ストレスが溜まる。発散させるために身体を動かす。繰り返し。日々。
 生活とは繰り返すことだ、と荒船は思う。単調な日々を繰り返すこと。あらかじめ決めたとおりに予定をこなすこと。それだけだ。そして、それこそが、生活において何よりも重要だ、とも。

「荒船から生まれたら、きっと、オレは」

 暗闇が満ちてくる。赤く赤く、永遠に輝き続けるような夕陽がゆっくりと彼方に沈んでいって、夜を運んでくる。
 その言葉の先は必要ではなかった。荒船は、村上を生んでやりたくなんか、なかった。自分が村上を生んだのなら、村上は。村上は、――幸せになれた、とでも、言うのか。
 幸福なんて一種のパッケージングにすぎない。恋人がいたら幸せか?天賦の才があれば幸せか?友人が、仲間がいれば幸せか?
 絆は尊いもので、友情はかけがえがなくて、孤独は悪いもの。そんなふうに思うのは、そういう価値観が、植え付けられているからだ。あらゆる情報の渦の中で。
 孤独をこそ、荒船は、何よりも尊いものだと思う。友情が尊いものだとしても、だからといって、孤独が悪いということの証左にはならない。村上鋼は孤独か?いや、そうではないし、仮にそうだとしても、それがいったい、何だというのだろう?

「つよく、ならなければ、よかった」

 静かに、村上が、そう言った。まるで秘密を懺悔するかのように。荒船はそれを聴かないふりをした。
 強くなるとともだちがいなくなるんだ、と、村上は以前、荒船に告げた。荒船はそれを聴いたときに、それはそいつらのせいだろ、と思った。村上のサイドエフェクトにも上限はある。たとえば村上は、どのスポーツの分野においても、世界一のプレイヤーには、今すぐには、なることはできないだろう。村上には、そのための筋肉や運動能が不足しているからだ。彼は、たとえば、校内一のサッカープレイヤーには、なることができる。けれど、世界一のサッカーチーム相手に戦ってから眠ったところで、彼は世界一のプレイヤーにはなれないはずだ。
 サイドエフェクトというのはその程度の才能だ。
 それなのに村上は自分がとても強いと信じている。荒船にはそれは一種の奢りのように思えた。だから荒船は村上が凡人であることを一刻も早く示してやらなくてはいけないのであった。村上の周囲から「ともだち」がいなくなるのは、村上の強さのせいではない。単に、自らの練習不足を、他人(つまり村上だ)の才能のせいにして、その分野から離れていく、怠惰なプレイヤー自身の責任だ。
 怠惰とは弱さである。それは許されることではない。
 人間は進化し続けることのできる生き物だ。最適な努力で、最善の結果を出さなくてはならない。怠惰に日々を生きることは、死んでいることと、どれだけの違いがあるだろう?

「おまえはこれからも強くなる」
「……ああ」
「だいたいなあ、まだ、たかが、攻撃手四位だろ。調子こくんじゃねえ」
「ああ……」
「太刀川さん見てみろよ。あの人が一度だって自分が強くて死にたいなんて言ったか?」
「死にたいなんて、オレは」
「言ってねーよ。言ってねーけどそういうことだろ」
「……そうだな」
「強くて悪いことなんてあるかよ」
「そうだな」
「おい、俺はなにか、間違ってるか?」
「いや」

 荒船はいつだって正しい、と、村上は言った。
 夕陽はもう見えない。
 街が夜に包まれた。
 本部の屋上からは三門市内が一望できて、小さな光がいくつもいくつも、またたいていた。頭上を見上げれば弱々しい星の光と三日月が浮かんでいて、三日月のひかりを見ると、孤独だな、と、荒船はいつも思うのだった。
 孤独であることは、うつくしいことだ。
 満月よりも三日月が好きだ。何もかもを照らしだすことばかりが、いいことだとは、思えない。

「荒船は、いつだって、正しい」

 もう一度、確認するように、村上が、言った。
 進化をし続けるべきだ、と、荒船は思う。万が一それが正しい方向ではなかったのだとしても、正しいとか間違いだとかを決めるのは、誰だ?少なくとも自分ではない、けれど、顔も知らない「誰か」でもない。
 進化と退化は、同一のものだ。
 ここがあらゆる外部から隔絶された島だとして、進化か退化かしらないけれど、その方向に向かって、進み続けることしか、荒船たちにできることは、ない。なぜならここで生きていくしかないからだ。
 生きていく。
 死んでいないので、死にたくはないので、生きていくしかない。それは絶望か?希望ではない。ただの現象にも満たない。
 村上はまるで生まれたてのひよこのようだ。荒船の正しさを、盲目的に。しん

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