ジャンル:ハイキュー!! 黒大 お題:苦し紛れの始まり 制限時間:2時間 読者:382 人 文字数:3765字 お気に入り:0人

かんこれぱろいんくろだい ※未完



 リンゴーン、建物中に広がる大きな鐘の音で一息。ペンを置きぐっと背伸びをすると体中がバキボキと音を立てた。食堂に近付くにつれ強くなるカレーの匂いが食欲をそそる。
「あー、今日金曜か。ほんっと曜日感覚無くなんな」
 そう一人ごちて食堂に入れば既に賑わっていた。今週は確か給仕部門トップの夜久が担当だったはずだ。これは大いに期待できる。
「あっ、しれーかん! ちわーっす!」
「お、おう。チビちゃんか。元気だな」
 オレンジ色の頭が大きく上から下へブンっと下げられて内心ビビりながら挨拶を交わす。見ていて強制的に元気にさせてくるのはそういう艦種だからか、それともチビちゃん特有なのか。
「今日はカレーっす! あとチビじゃなくて日向っす!」
「そういや好きだったな。今来たトコ? 悪いけど研磨連れてきてくんねーか? 通信室で引き籠ってるから」
「オッス!」
 パタパタパタっと廊下を走り抜けるチビちゃんに廊下走んなよと一応声を掛けてから、厨房で忙しく駆け回る夜久に声を掛けた。
 俺が丁度十歳の時、突如現れた謎の生命体・深海棲艦。深海棲艦は瞬く間に制海権を奪い去り、日本を事実上鎖国状態に陥らせた。陸地にいる限りは危険はないけど海に出たら深海棲艦に文字通り食われてしまう状況が三ヶ月続き、当時国内は戦後以来の大危機に陥っていた。だけどそれを打ち破ったのは海軍。詳しくは軍の中でもほんの一握りの人間しか知らないけど、深海棲艦に唯一対抗できる武力、人の体を持った艦船・通称「艦体」ってのが急に出てきて深海棲艦をボコボコ倒し始めた。
 「艦体」で艦隊を編成して深海棲艦を倒し、制海権を完全に取り戻すために日本各所に創設されたのが鎮守府。そのうちの一つがここで、俺はそこの司令官をやっている。艦体たちを管理し、深海棲艦を倒すために指示を出すのが主な仕事。他にも色々雑務があって、というか海軍の中でも鎮守府は異端、司令官なんて異端児も異端児って扱いだから色々押し付けられる。非常に理不尽だ。
「ほい黒尾、今日は牛すじカレーな」
「サンキュー夜久」
 ここにいる「人間」は圧倒的に少ない。夜久は給仕部門、人間のケア係だ。研磨は総帥サマがいらっしゃる鎮守府、いわゆる大本営との連絡や出撃中の艦隊との連絡を取る通信係、今日は出張でいない海と福永は鎮守府の財布と食糧状況を握ってる。他にも何人かいるけど、本当に最低限しかいない上、艦体に関わるような重要な役割は冷たーい大本営所属のエリートサマがやってくださるからここの人間とは言い難い。
 エリートサマは基本この鎮守府の人間とは関わりたがらないからズラして食べにいらっしゃるし、今日はみんな出払っている。少しの寂しさを感じながらカレーを頬張っているとカレーに影が落ちた。
「ここに座っても、司令官殿?」
「どーぞ、大地サン?」
 威圧的にニヤリと笑って許可を求めたのは澤村大地、重巡洋艦だ。昔の本当にあった艦船とは違い、艦体は人の名前を名乗っている。本人がそう言ったからそうなんだー程度。名前は結構どうでも良くて、大事なのは艦種だろう。さっきの日向は駆逐艦だ。食堂の隅で座る月島が航空巡洋艦で、山口が重雷装巡洋艦。艦種はエリートサマが決めてくれるので俺はそれを基に作戦を立てるだけ。
「何だかお疲れのようですねえ」
「ええ、何処かのお偉いサンが馬鹿みたいに出撃してくるもんですから、疲労困憊ですよ。さっき入渠から上がったところです」
「それは大変ですねえ。でもお怪我が治ったなら今度は北方海域にでも行ってもらいましょうかね」
「いい加減休ませてくれ」
 うんざりと言った風に澤村が笑うもんだからぶひゃひゃと笑ってしまった。ただいま澤村クン強化月間なので頑張っていただきたいところなんだけどな。
 澤村がスプーンを使ってカレーを掬う。少しルーが少なめ、福神漬けは無し。くあっと口を開けてカレーを頬張る。咀嚼し、嚥下して、もう一度。
「……そんなに見られたら食べ辛いんですが」
「いつ見てもお前らの体は不思議だな。日向はフシギボディとか言ってたけど」
「おい、まさか俺を馬鹿みたいに出撃させるのは」
「善は急げと言いますし」
「急がば回れだ馬鹿黒尾」
 鎮守府内でも俺を呼び捨てにする輩は少ない。澤村の他には戦艦の東峰と軽空母の菅原くらいか。ああ、木兎も居たっけ。パッと出てくるのはそんだけだ。他にも居たと思うけど出てこない。どれも鎮守府に着任してすぐに艦隊に加わった艦体だ。中でも澤村は最初に手にした艦体であり、鎮守府最古参、一番気心が知れている。
 そんな澤村に着任したてくらいの頃訊いたことがあった、艦体の体はどうなっているのかと。艦体がただの人間じゃないのは明白で、でも誰も何も語ろうとしないし上層部は知らなくていいと圧力をかけてくる始末。得体のしれないものを管理し制御せよって割と無茶振りだ。着任前から抱えていた疑問は着任後艦隊指揮を執るようになってからも纏わりつき、寧ろ大きくなる一方だった。艦体も俺たちと同じように寝て、飯を食って、怪我をする。だけど飯は俺らが食べると死ぬような石油とかボーキサイトとかそういうモンで出来てて、見た目が似ているから誤食して死んだ人間もいたりする。怪我にしたってそうだ、基本的に艦体は深海棲艦との戦闘においてでしか怪我しないし、入渠として風呂何時間か入ってたら治るし、高速修復材という怪しすぎる入浴剤みたいなのを入れれば速攻で傷塞がるし、寧ろ何に疑問を持たないでいたらいいんだってレベルで分からないことだらけ。
 澤村にそれを全部訊いた。お前らの体どうなってんだって、何で出来てるんだって。最古参で付き合い長いし教えてくれるんじゃねーかなって期待を込めながら。じゃあ澤村は言ったんだ。
 
 指輪をくれたらおしえてやるよ。

 艦体が最高練度に達したあと、秘密の配合で作られた金属を飲み込むと艦体の最大能力が飛躍的にアップするという謎仕様がある。本当は小難しい名前があるけど、金属が輪っかになっててまんま指輪の形状だから指輪って呼ばれている。艦体が最高練度になったって書類送れば登録用紙と一対の指輪が送られてくるから、それをつければ晴れて上限解放だ。長らく連れ添った者同士が指輪交換するからケッコンって言われたりするけど、男同士で結婚ってちょっとややこしいし今の法律じゃ無理だから俺はあまりこの呼び方が好きじゃない。
 と、言う訳で、指輪を望んだ澤村を鍛えまくって練度上げてさっさと上限解放してやりたい。上限解放したら教えるって言ったのは澤村だ。俺はここで一番偉いのでやることやってりゃ融通が利きまくる。ずっと旗艦で激戦海域の深海棲艦掃討をさせてたから練度はかなり上がったはず。そして少し前に大本営から出た特別指令(みんなイベントって呼んでる)でも大活躍だったから、上限マックスはもうすぐそこだろう。
「急いてはことをし損じるぞ、俺を殺さないよう気を付けてくれよ」
「そこは細心の注意を払ってる。誰一人轟沈してないだろ」
「まあ、その辺は最低限保証してもらわないと」
「俺は実際に戦わないから、そんくらいしか出来ないで」
「そういう意識がお前にあるだけで俺らはかなり気持ちに余裕出るよ。やっぱりずっと戦場にいるとな」
「……午後から半休にしましょうか」
「いや、大丈夫だ」
 いつもは頼もしい澤村が弱音を吐くとは相当追い詰められているってことだ。少し急ぎすぎたかもしれない。艦体には感情があるのに澤村だから大丈夫だろうと高を括ってた。このまま午後に出撃すれば、良くて中破、不味くて大破、最悪の場合は……。
「駄目だ。お前が疲労感隠せてないって相当だろ。午後から強制半休だ、司令官命令!」
「おい、任務はどうなる!?」
「そうだな、代わりに暇してた木葉にでも行ってもらうか。アイツ暇だ暇だ出撃させろってうるさかったし」
「いいのかそれで」
「いーんですー。そんで午後から買い出しに付き合ってもらいます。俺の」
「それこき使うためだな?」
「リフレッシュのためだって」
 呆れ顔だけど本当に呆れちゃいないのは長い付き合いだから分かることだ。セーラー服から着替えて見た目相応、大体学生くらいの格好をすれば澤村が艦体だなんて誰も気付きやしない。艦体を街に連れ出せるのはここの最高責任者である俺と、俺が許可出した人間だけだ。だから艦体は滅多に外界に出れなくて、時々連れ出せば大喜びする。鎮守府でトップを争う仏頂面組の月島と赤葦もテンションが上がるくらいだ。澤村も現にニヤつきを隠せないようで、誤魔化すようにカレーを掻き込んでいる。
 過酷な出撃ばかりさせていた。功績の労いとリフレッシュのためだからこれは大勢を連れて行くべきじゃないしあまりバレないように出かけないとならない。こっそり二人で抜け出すなんてお忍びデートみたいだなんて思ってしまって、俺も随分浮き足立ってるらしい。世間でいうところの花の金曜日、少しくらい浮かれてもバチは当たらないだろう。脳内で必要なものをリストアップしつつ、艦体が食べても良い人間の食べ物を思い出して何処に寄り道するかを考えていた。



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