ジャンル:テニスの王子様 お題:真実の芸術 制限時間:1時間 読者:636 人 文字数:1869字 お気に入り:0人

【跡忍/社会人パロ】華やかに泡立つ



「……なぁ、こんなとこホンマえぇの?」

「何度も言わせんな。良いに決まってんだろ」


キョロキョロと所在なさげに当たりを見回して不安そうな表情を浮かべる忍足に、半ば呆れて溜め息が漏れた。
テーブルに用意されていたシャンパンの封を切る。
ポンっと弾ける音が部屋に木霊し、ふわりと焼き立てのパンのような香ばしい薫りが鼻腔を擽った。
グラスに注ぐと、華やかな泡立ちが切れることなく踊っている。

この瞬間が、シャンパンを楽しむ上で至高だと個人的に思う。


「ほら、お前も飲め」

「……お酒で誤魔化そうとしても無駄やで」

「これなら口当たり良いし、お前でも飲める」


訝しげに俺を見る忍足が、おずおずとグラスに口を付けた。
口に含んだ瞬間、目を見開いて驚いたのが分かった。

このシャンパンを飲んだ者は、その味わい深さに感激し、驚愕するのだ。
今まで飲んでいたのが、まるで偽物なのかと思わんばかりに。


「おいしい…」

「だろ?」

「……高いん?やっぱ」

「すぐに金と結び付けるのヤメロ」


アルコールが弱い忍足でも、あっという間に飲み干してしまった。
味わい深いのに、飲みやすいのがこの酒の特徴だ。

遠慮がちに座っている忍足の横に、俺も腰掛ける。
柔らかい革のソファは、俺を優しく受け止めてくれた。
このホテルにあるものは、全て最上級の物を取り揃えているから満足するし、不満なんてあるわけがない。
強いて言うのなら、シャワーの水圧が優しすぎることくらいか。


「久々に泊まったけど、やっぱ良いな、ここ」

「……さっき調べたけど、ここ五つ星なんやろ?」

「残念、六つ星だ」

「どっちでもえぇわ!値段調べても出て来んのやけど…」

「当たり前だろ。そう易々と泊まれねーからな」


忍足が胃の辺りを押さえながら唸っている。
別にそんな気にすることでもないのに。
払うのは勿論俺だし、俺の家はここの常連だからわりと待遇良くしてもらえるし。


「絶対場違いやろ、俺…」

「アホ言うな。俺が見染めた人間だぞ。場違いな訳あるか」

「……跡部って、時々妙な爆弾落としていくよな…」


何故か頬を染めた忍足の顔をジッと見つめる。
コイツは時たま、訳の分からないところで照れたり顔を赤くしたりする。
何故かは知らないが、恐らくアルコールだけが原因ではないはずだ。

パタパタと手で顔を仰ぐ忍足を尻目に、俺はグラス二つ分にシャンパンを再び注ぐ。
注ぐ入れる音に、細かな泡の音。
間接証明の淡い光を受け、黄金に輝くグラスとシャンパン。
仄かに漂う、香ばしい匂い。


「乾杯しようぜ?」

「何に?」


グラスを渡すと、忍足の眼鏡に光り輝くシャンパンが反射した。
俺を真っ直ぐ見つめる忍足。
彼もまた間接照明の柔らかい光を浴びている。
何故か知らないが、それが何だかとても愛おしく思えた。
忍足の背後にある大きな一枚ガラスの窓に映る夜景も、彼をより一層魅力的に惹き立てていた。

艶やかなネオンと、淡い光。


「お前に」

「?」

「お前が、綺麗だから」

「は、ちょ、ななな何言ってっ…!」


忍足の顔が先ほどよりも更に真っ赤になった。
一瞬にして茹でタコのようになれるなんて、一種の芸当である。

そうか、コイツは俺の言葉で照れたのか。
さっきも俺の言葉に反応して照れたのだろう。

今の言葉は流石の俺でも自覚するくらい、気障な台詞だ。
照れるのも分かる気がする。

けれど仕方ない。
正直に思ったことを言っただけだ。


未だに照れる忍足を余所に、俺はシャンパンを煽った。
あぁ、やはりこのシャンパンが群を抜いて美味い。


「悪くないな」

「な、なにがっ…」

「お前がいて。お気に入りの部屋で、美味い酒が飲めて」

「……もしかしなくても酔っとるやろ、自分」


そうかもしれない。
この酒は口当たりが良いが、度数も高い。

それに、この雰囲気が、余計に俺を酔わせている。
好きなヤツと、好きな場所で、好きな物を味わっているのだから。


気晴らしにと思って、いつも使っているホテルに入った。
いつもと変わらない部屋だ。
使い勝手も様相も把握し切っている。


それでも、こんなに幸せな気分になるのは。


「お前のお陰だな、きっと」

「も、ホンマ、ちょお黙ってやっ…!」


沸騰しそうな忍足が、何だか無性に可笑しく思い、俺は遠慮なくケラケラ笑った。
楽しい夜は、まだまだ続く。



FIN


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