ジャンル:ワールドトリガー お題:とびだせ天井 制限時間:4時間 読者:929 人 文字数:1730字 お気に入り:0人

はずかしめ(那須熊)

「ねえ、さっきの話。もいっかい言って」
「やだ」
 断る熊谷に、那須玲は子犬のようにねえねえとじゃれついてせがむ。玲の部屋で二人きりだとしても、くっつきすぎじゃないだろうかと熊谷は少し焦る。
「聞きたいの」
 下から掬い上げるような目線。いたずらっ子のような、弧を描く口元。
 この表情に弱いのだ、と熊谷は溜息をついた。

「はい、それじゃあもう一度。『熊谷先輩、カレシいるんですか?』」
 玲が声の音程を少し上げて、茜の真似をしてみせる。先ほど隊室で行われた会話の再現だ。予想通りではあるが、本気でもう一度最初からやるつもりらしい。
「……一言一句覚えてはいないよ?」
「いいの。ほら」
 うう、と言いよどむ間に、頬が紅潮してくるのが自分でも分かった。この会話が行われた時だって、ひどく顔が熱くなったのだ。
 恥ずかしい。
 恥ずかしい、けれど――玲が見ている。
 玲の腕は細くて、簡単に振りほどけるというのに。その手に力など入っていないのに。その口は何の脅し文句も放ってはいないのに。
 どうしても玲から逃げ出せない、と感じる。圧迫感、ではないが、強いられるというのだろうか。
 いや、自分が言うことをききたくなるのだ。女王様、ご命令を。貴女の意のままに、どうぞ。
 羞恥心と、応えなければという変な切迫感がせめぎ合って、ついに羞恥が膝を折った。玲の目に屈服した。

「いる、よ……」
「『えーっ!? どんな人なんですかー?』」
 玲は茜の真似を続行する。悔しいが、特徴は捉えていてちょっとだけ似ている。テンション高い玲なんて貴重だな、と心の端っこが悠長に思った。
「あ…っと……すごいかっこいい人」
「くまちゃん。こっち向いて」
 恥ずかしさに目をそらすと、玲が言葉だけでそれを正させる。見えない轡を付けられて、鎖を引かれたように、首がぐりんと玲の方を向く。恥ずかしくて見ていられないのに。
「すごく……かっこよくて…」
「それで?」
「強くて、キリッとしてて……目標とか自分の世界とか考えとかすごいしっかりしてる」
「顔は?」
「……キレイ」
 そこで玲が吹き出す。ここで吹き出すのは二回目だ。
「ちょっと、人が褒めてるんだから笑うことないでしょ。もーー……」
 咎めても、くすくすと忍び笑いが収まらない。

 たっぷりと笑って、ようやくおかしさの波が落ち着いたのか、玲が熊谷の腕を開放した。笑いすぎて上がった息を整えながら胸を押さえている。
「大丈夫?」
「うん、だいじょうぶ」
 大丈夫と言いながら若干苦しそうな様子に、熊谷は思わず心配で眉を寄せた。
 その顔を見て、玲がうっそりと微笑む。
「ありがとう、くまちゃん。嬉しい」
 正面切って言われるとまた違う恥ずかしさがある。
「やめてよ」
 と言いながら、照れ隠しに机からマグカップを取り上げた。

「くまちゃん、私を綺麗って思ってるんだ?」
 小首を傾げて訊く様子は実に清楚だ。
「……思ってる」
「うふふ、照れちゃう。――嬉しい」
 そっと近づき、腕を絡め直す。そのまま熊谷に口付けた。
 顔を離した玲の顔は、数秒前と変わらず清楚な雰囲気を漂わせていて、まるで恋なんて知らないようにさえ見えた。

「ねえ、私にも訊いてよ」
「えー……那須先輩はいるんですか?」
 棒読みの質問にまた玲が笑う。
「いるよ。すっごくかわいいの。
 かわいいって言うと、そんなことないって否定するのがまたかわいいの。仕草も中身も、ぜんぶぜんぶ丸ごとかわいいの――」
 かわいい、と玲の唇が囁く度に、脳を溶かされていくような感じを覚える。
「そんなことない」
「あるの。くまちゃんはかわいいよ。
 かわいい私のお姫様よ」
 甘い言葉を吐く唇が、指に、首筋に滑っていく。
「……さっきは、『王子様』って」
「だって茜ちゃんの前だもの……あ、また赤い」
 頬の赤みを指摘されて、気恥ずかしさに天井を仰ぐ。

「わたしのかわいいおひめさま」
「はいはい」
 その言葉も、玲に言われるなら満更でもないなと思いながら、意識が融けていくのを感じていた。


*********
15分に設定し忘れたようだ! (残り203分)
 

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