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いちなき・つるなき・三つ巴 ※未完

たとえば一人の人間が、その人にこれ以上なく執着したとしよう。誰にも触れさせたくない、見せたくないと思った時、そのものはなにをするか。答えは簡単だ。見えないところに隠してしまえばいい。けれど人というのは不思議なもので、隠されれば隠されるほど、手が届かないとなればなるほどに、それを欲してしまうのだ。だから、きっと。墓を暴いてまで己を欲してしまったのも、墓にまでしまいこんでいたのも、人の業としては当然なのかもしれない。たとえばそれで、欲されたものの世界が儚くも大きく変容してしまったとしても。それは関係ないのだ。きっと個人の世界とは、ちょっとしたことですぐに変容する弱いものなのだから。

「執着されたくはなかったということですかな?」
「いや? 望まぬ執着よりも、自由な世界が欲しかったといった方が正しいな」
「ふむ……まあ、わからないでもないですね。多少の執着心は心地よいものではございますが……過ぎれば息が詰まることもございましょう」
「そういうことだな」
 縁側でお茶を飲むふたりの元を、風が抜けた。土の下にいた頃には感じられなかったそれは、草木の香りから短刀たちの笑い声、足音、その他五感をくすぐる様々な色を運んでくる。世界は、少しのきっかけによってこんなにも大きく変容するのだ。
「だが、なんの執着もないのもまたさみしいものではあるんだよな」
「なにかおっしゃいましたかな?」
「いや?」
 粟田口の長男役を担うこの太刀は、庭で遊ぶ弟達を眺めては顔をほころばせる。その庭に目を向ければ、彼の弟に混じって白髪の少年がいた。少年の目はずっと、短刀たちを追いかけ、時折こちらに視線を投げては一期一振と視線を合わせて表情を和らげる。粟田口の彼らにとって、粟田口は家族であり、己はそれ以外でしかないのだろう。
「一期。君にとって、鳴狐は……」
「大切な人です。私にとっては、唯一無二の。」
「……君にとっては弟みたいなもんだからな」
「いいえ? 鳴狐は私の」
「一期」
 それまでの和やかさを潜め、眼光鋭くこちらを見遣った一期一振の言葉を遮ったのは話題の鳴狐だった。白い髪からは雫が滴れてきらきらと輝く。まるで水浴びをしたかのようだ。
「どうされたのですか?」
「ああ、厚殿と愛染殿が遊んでいるうちにホースが弾けてしまいまして……我々だけではなく短刀の皆様ずぶ濡れになってしまいましたので一期一振殿にも後処理の手伝いをお願いしたくてですね」
「そういうことですか。弟が世話をかけました。怪我はありませんか?」
「大丈夫。」
「我々が監督していながら申し訳ありません」
「いえ、大事無いのであれば問題ないでしょう。さあ、鳴狐殿もはやく水を拭ってらしてください」
 一期一振は庭へと駆け出す。暴れるホースは誰かが水を止めたのか、もうさほど水は撒き散らしていない。だが、

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