ジャンル:テニスの王子様 お題:運命の使命 制限時間:1時間 読者:759 人 文字数:2345字 お気に入り:0人

運命(跡仁)

人には必ずやり遂げなければいけない使命がある。例えばそれは、家族を支えることであったり、何かで成功することだったり。人によって様々だ。
たまたま俺の使命は家を継ぐことであった。
ただそれだけのことだった。

今までそのことに疑問を持ったことや、不満を持ったことなど一度もなかった。


お前と出会うまでは。


俺がその男と初めてまともな会話をしたのはU-17合宿の時だった。負け組が帰ってきて合流した時、俺になって樺地を従えていた時だ。
あの時は珍しく頭にきて、少々冷静さを掻いていた。仁王王国と書かれた文字を見て、思わず扉を開けて怒鳴り込んだ。まあ、激しくではないが。しかしそれが幸いしたらしく、俺はアイツに気に入られた。
アイツはかなり変わったやつだった。テキトウにことを済ませたかと思うと、今度は非常に熱い表情を見せる。まるで読めない男だった。
俺の部員にも心を閉ざし、思考を読めなくするやつはいたがそうではない。アイツが心を動かす理由もタイミングも何もかも分からなかった。
俺はその新鮮さ故にか、どんどんアイツに引き寄せられていった。

高校生とやりあう時、俺はまっさきにアイツに声をかけた。ダブルスなんて元々する気はなかったのだが、アイツのイリュージョンとアイツ自身に酷く興味を引かれたのだ。何を仕掛けてくるのか、どんな試合をするのか、一番近くで見てみたいと心から思ったのだ。
渋ると思っていた。俺もどう説得するか、それなりの覚悟をしていた。アイツはそもそもダブルスプレーヤーであるし、パートナーもいるのだから。
だから、二つ返事でいいと言われた時は、ひどく驚いた。
怪訝な顔をしていたのだろう。アイツは、ふっと笑って、「俺もおまんがどんな試合をするのか興味があるぜよ。」と言った。

あのダブルスでは、アイツの見たことのない一面を見ることが出来た。普段なら絶対に見せないとても熱い部分だ。俺のために、と全力で戦ってくれるアイツに、俺はそれ以上の熱量で答えたいと思った。
そんなことは初めてだった。
そんなふうに他人のために全力を尽くす日が来るなんて、本当に思っていなかったのだ。

だから。自分にもこんな思いがあったのかと驚いた。それまでの俺はあくまで俺自身を魅せることしか頭になかった。
でも、アイツを見て、初めて守りたいと、支えたいと思ったのだ。


それから、俺はアイツに甘くなった気がする。自覚していたわけではない。ただ、思い返してみれば確かに必要以上に気を使っていたし、構っていたとも思う。あの頃は、周りに「仁王に構いすぎではないか。」「仁王を甘やかしすぎだ。」と言われても理解が出来なかったが。
平等にしているつもりだったのだ。
ほかのヤツらと同じくらい、大切に思っているつもりだったのだ。
傍から見れば一目瞭然だったのだけれど。

暫くして、俺は胸にモヤモヤとするものを感じ始めた。それは仁王に対してのみだった。
仁王がほかのヤツらとつるんでいるのが、ひどく気に入らない。多分おもちゃを取られた子供もああいう気持ちなのだろう、とそう思った。
仁王は俺にとって最高のスパイスなのだから当たり前だとも思っていた。
けれども日に日に増す苛立ちと、独占欲に何かがおかしいことに気がついた。
決して綺麗な感情ではなかった。
いっそ仁王を閉じ込めてしまおうか、とすら思った。
それから長い時間思案をして、ふと思いたった。



ああ、これが恋というものなのか。



忍足が読むような甘ったるい読み物とは全く違う、黒くてドロドロとしたもの。綺麗ではないけれど、一番衝動的な感情。それに気が付いた時、既に俺の頭の中にはアイツを俺の物にすることしかなかった。

アイツの部屋に押しかけて、衝動的に押し倒し、そのまま「好きだ」と声に出した。
アイツはひどく驚いて、言葉を咀嚼した後、顔を真っ赤に染め「馬鹿じゃな」と呟いた。
それが了承であることはなんとなく分かった。唇を押し当てて無理やり舌を突っ込んでめちゃくちゃに貪ったのを今でも覚えている。
アイツは嫌がらずに俺の頭に腕を回していたし、やはり俺のことが好きだったのだろうと思う。
あれからずっと関係は続いている。


現在。俺達は高校生になり、受験もあらかた終わり、卒業を目前としていた。まだまだ寒く、連日、雅治はマフラーやらコートやらで痩躯を膨らませていた。
今日も電車に乗って迎えに行った。少しでも会いたいのだ。
しかし、今日の雅治は少し様子がおかしかった。
話しかけても生返事。普段は嫌がるのに、外で抱き寄せてもおとなしかった。
不思議に思い、顔を覗き込めば泣きはらしたような赤い目でキッと俺を睨みつけて逃げられた。
慌てて追いかけて捕まえると、雅治はひどく興奮した様子で幾度も「離せ」と繰り返した。
公園のベンチに座らせて、自販機で缶コーヒーを買い飲ませると落ち着いたのか、ポツポツと話し始めた。

どうやら大学進学にあたり、俺の将来を考えて勝手に迷惑だと決めつけて暴走していたらしい。
俺の将来は決まっているから、大切だから、と考えたらしい。
それを聞いて、離れなければいけないという可能性に初めて気が付いた。
それで雅治は一度も俺に「好きだ」と言わなかったのだろう。俺の将来を思って離れるつもりだったから。

俺は初めて家が憎い、と思った。
俺は自分にも不運があったのかと思った。
どうしようもない運命を、雅治と歩みたい未来を考えて。








俺はただ寒空を見上げて、ため息をひとつだけ吐いた。


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