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分け入っても 分け入っても

こっちだ、と高尾さんが僕の手を引いた。足場が悪く、そこには大きな石、というか岩があった。もう少し僕が小さければ、高尾さんは僕を下から持ち上げてくれただろう。でも僕はもう10歳だった。高尾さんもそれを知っていた。だから彼は僕に手を伸ばし、僕は彼の手にしっかりつかまった。自分の身体は自分で責任を持つ。全身を硬くし、彼が引き上げやすくする。できるだけ岩に登った状態で、僕は高尾山の手につかまった。
高尾さんは力があった。ぐん、と想像以上の力で岩の上まで持ち上げられた。
よし、うまいぞ
高尾さんは僕の頭を撫でた。
行くぞ
はい

休みの日に山に登る営業職は多い、と高尾さんは話してくれた。
あとは釣りとか。とりあえず、人と話さなくて済むことをしたくなるんだよな
ふうん
そういうものなのか、と思った。高尾さんは人と話すのを楽しんでいるように見えたけれど、本当は嫌いなのだろうか。僕は目がものを言う、とよく言われていた。高尾さんは僕を見て、お前と話すのは全然苦じゃないからな、むしろ癒しだからな、と微笑んだ。
何でもそうだろ? どんな好きなことでも毎日続くと嫌になるんだよ
そうなのだろうか。僕は読書が好きで、本から知識を得ることが好きだった。父と本の知識を元に議論するのも好きだった。それが嫌になることなど無かった。
うーん、そうだな。好きの質が違うというか、仕事だからかな。妥協しなきゃいけない部分があるから、それが積もりに積もって嫌になるっていうことか
妥協するの?
高尾さんは交渉上手な気がしていた。真太郎さんへの頼み事のうまさは、僕の知る範囲では一番うまかった。父など、真太郎さんに頼みごとという形ではなく、半ば命令のような形の依頼に近かった。
するさ。いろんな人と仕事をするっていうのは妥協に妥協を重ね、我慢に我慢を重ね
つまらなそうだね
それがそうでもないんだな、と高尾さんは苦笑する。
妥協したとはいえ、プロジェクトがうまくいくと、こうぱあっと世界が明るくなって、嫌なこと忘れちゃうんだよ
山に行きたくなるのに?
まあね


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