ジャンル:黒子のバスケ 火氷 お題:黄色い雪 必須要素:パンツ 制限時間:30分 読者:325 人 文字数:1499字 お気に入り:0人

自慢できない時間

こちらは降らないなぁ、と氷室が言った。吐き出す息は白く、首には分厚いマフラーを巻き、紫原からもらったという耳当てをしていた。クリスマスがあと二週間後に迫ってきているため、町並みはクリスマスリースに緑と赤のイルミネーション、サンタクロースにトナカイで埋め尽くされていた。そんな時期になっても、東京には雪がほとんど積もらない。降ることはあっても、秋田のように自分の身長の高さまで積もることなどなかった。氷室が思い出しているのは、間違いなく秋田の雪だった。
次は俺がそっちへ行くよ、と秦野のアパートから氷室が連絡してきた。たまには都会に行きたいから、と。秦野はバスケやスポーツに集中するにはいい土地だった。USでもそうだけれど、大学が都会ではなく田舎にあるのは、その目的に適っていた。そのおかげか、氷室の通う東海道大学は一部リーグに属しており、一応都会に位置する栄治大学、火神が通う大学のバスケ部は去年、ようやく一部リーグに仲間入りしていた。
氷室が火神の住まう東京へ出てくることは、数ヶ月に一度程度だった。秦野がバスケをする環境が整っており、体育館は元より、公園や河原にすらバスケットゴールが設置されている地域なため、ストバスをするにしても場所に困ることは無かった。氷室が陽泉を卒業して東海道大学に進学してから、火神はほぼ週末ごとに秦野へ通っていた。そのことに不自由を感じたこともなかった。氷室がいる場所へ向かうのは、LAの頃から火神の生活の一部だった。
氷室がこちらへ来るなら、と氷室の申し出があった後、同じ大学に通う黒子やその他の人間にも知らせれば、我も我もと参加者がレスポンスを返してくる。氷室はどこでも人気者だったので、彼が来るとなると、ストバスの参加者は圧倒的に増えた。事前に入っていた用事をキャンセルしてまで参加する者もいた。
試合が始まれば火神はバスケに夢中になるので、氷室が視界の端で、誰かと談笑していてもそれほど気にならなかった。それよりも、黄瀬や青峰など、一部リーグ常連大学に進んだ彼らとやり合うことの方がプライオリティが高かった。負けても勝っても、次々と試合は続き、それは火神にとって楽しい時間であった。気心してた相手の場合、動作の癖なども分かってきてしまう。そのあたりを突くのがうまい黒子は、黄瀬をドライブで抜くことすらあったが、黄瀬は黄瀬で、黒子の技をコピーしてやりかえしたりもする。力の差の無い相手と勝負するのは楽しく、そこに氷室がいれば、楽しいのが2乗になった。氷室と同じチームで組めた時などは5乗くらいになった。
秋田の雪は、あんまり思い出したくねーな
火神が言うと、氷室はふっと笑う。火神はおそらく10回は陽泉へ行っていた。夏ならまだしも秋から冬に掛けての秋田は、その積雪を見た人間は、ここは人間が暮らす土地ではない、と顔をこわばらせるほどの恐怖を見る者に与えた。苦労して寮にたどり着こうとも、玄関先で言い合っている間に足は凍りつかんばかりに冷え、廊下も氷を歩くかのように冷たく、その時期には誰も親族は来ないであろう寮生の親族用に設けられた部屋はいつもほんのり冷たかった。それでも寮母の好意によって、暖房は入れてもらえていたので、風邪をひいて東京に帰ることになったことは一度も無かった。
雪だるまも作らないんだなぁ、東京の子は
一昨年はそれなりに降ったぜ?
タカが知れてるだろうな、となぜか偉そうに氷室は鼻で笑った。
ストバスをした後、こうして氷室と買い物に出かける時間は、火神にとっては誰にも自慢しないけれど、自慢にしたい時間でもあった。自分だけに許されたこの時間。

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