ジャンル:血界戦線 お題:何かの命日 制限時間:15分 読者:480 人 文字数:1341字 お気に入り:0人

ザップ・レンフロはどこにもいない


「ザップ・レンフロはどこにもいない」

 てのひらにどろりと流れる赤黒い感触も、踏みつぶした躯の感覚も、スティーブンは決して忘れようとしなかった。目を背けようとしなかった。己の為した所業は全て必要なものだったのだと、頷いて、納得して、そうして全てを甘んじて受け入れるつもりでいた。けれどそれは自己防衛の手段だったのかもしれないと、ふと気がついたのは果たしていつのことだっただろう。もう随分と遠い昔の話だった気もするし、つい最近の話の気もする。けれど確かなのは、スティーブンはある男の言葉に、その存在を救われたということだった。

「スターフェイズさんは、凄いっすね」

 全てを知った男は、眩しい銀色を揺らして笑った。決して綺麗と胸を張って言うことなど出来やしない両手を見て、称賛を送ったのだ。
 
 あんたは凄いですよ。そうやって、今までずっと頑張ってきたんすね。ありがとう、なんて。
 
 スティーブンは、今まで誰かに認められたいと願ったことなど一度もなかった。ただひたすらに影に徹して、世界にとって唯一無二のリーダーを支えられる柱の一つになることが出来ればと考えていたのだ。ライブラのため、世界の均衡を守るため。ただそれだけの目的のために生きてきたスティーブンにとって、男から向けられた言葉はまったくの予想外のものだった。的外れ、と言っても過言ではない。
 凄いなんてことあるもんか。だってこれは、当たり前のことなんだから。
 そう思っていた筈なのに、屈託のない笑みを向けられた瞬間、ふっと心が軽くなるのを感じた。どろどろに濁った胸裏に深く重く沈む鉛玉が、誰かの見えないてのひらで掬い上げられたような心地がした。スティーブンはその時初めて、本当は自分も誰かに支えられたかったのだと知った。
 男の言葉は、優しかった。春のひだまりを思わせるような一言は、いつだってスティーブンの耳朶を撫でてその心を溶かしていった。ぽっかりと空いた空虚が、ひとつ、またひとつと、やさしい銀色で満たされていく。大丈夫、スターフェイズさんは凄いですよ。そう言われるたび、スティーブンの脚は不思議と軽くなるのだった。


 そうして、もう数え切れないくらいの月日が流れて、穏やかな世界が訪れた時。それまで双肩に抱えていた世界の二文字がなくなってしまった時、スティーブンは心の底からほっとしたのだ。もう、終わりだ。全部全部。今までの時間が無駄ではなかったのだと悟った時、感じたことのないようなひどく穏やかな気持ちに包まれて、スティーブンは笑った。胸裏を彩る温もりは確かにそこにあるけれど、     ひとつだけ、埋まらない場所があった。いつだって、やさしい言葉で満たされていた筈の場所。そこに感じる空虚にスティーブンは首を傾げるけれど、違和感の正体など何一つわからず、ただ立ち竦むだけだった。
 記憶を遡ろうと双眸を閉じれば、思い出すのは 眩しい、銀色。

「――――」

 その名前を呼ぼうとして、スティーブンは唇が模る名前を知らぬことに気がついた。あれは、誰だったのだろう。あれは、何だったのだろう。確かにそこにいた誰かのことは、終ぞ思い出すことは出来なかった。

 静かに迎えた、誰かの命日の話だ。

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