ジャンル:黒子のバスケ 子ども世代 お題:彼と女の子 制限時間:30分 読者:337 人 文字数:1854字 お気に入り:0人

大局

気が強いんだから、と気が強い母に言われるくらいだったので、足は震えなかった。対峙している男は睨むわけでもない、静かな目で、少し見下したように、私を見ていた。身長差があるから見下しているように見えるのか、そうでないか、そのくらいは分かる。この男は明らかに私を見下していた。
さすが紫原の娘だな
これまでとは聞いたことがない声だった。冷ややかな声。屈服させられそうな眼差し。足はまだ震えない。気力は萎えていない。
何よそれ。そんなことと私自身は関係がない
そうかもしれないな
男はぼやかす。男は私に、自分を呼ぶ時、下の名前で呼ぶのは止した方がいい、と言った。止した方がいい、と言いつつ、それは遠まわしの命令だった。私は命令されるのが嫌いだった。この男以外も、ファーストネームで呼んでいる。しかし、父も私に同じことを言った。赤ちんを呼び捨てにしないように、と。私は父に、嫌、と言った。何の理由もなしに何かを命令されるのは嫌いだった。父はあっさりと引き下がった。そのうち分かるだろう、という表情をして、そう、じゃあいいよ、と言った。父は理由を説明してくれることが多いのに、その件だけは理由を言わなかった。その場に母が居たからだろうか。いつもなら味方をしてくれる母も、その時は父と同じような表情で、父と見合わせて肩を竦めた。
何だというのだ、この男、赤司征十郎が何だ。
気に食わないのは、千明がこの男を好きだということだった。この男よりずっと人間的に優れている男、外見のかっこいい男はいくらでもいる。身長だって、父よりも、千明の父親である真太郎さんよりずっと低い。そんな男の何がいいのだ。この男も千明に好かれているのをわかった上で千明に接しているようで、それがさらに腹が立つ。確かに私が千明に出会う以前から、征十郎は千明と過ごしていた。征十郎の子どもである真隆が、千明のところに預けられることが多かったから、それは仕方のないことだ。付き合いが長ければいいってことなど何も無い。もっと外に目を向ければ良いのに、千明は征十郎が言ったから、とか征十郎が教えてくれたんだけど、とかいう、前置きで話し出すのだ。私と出かけた時の会話のほとんどがそれだった時は、征十郎の名前を出すことを禁止したくらいだった。私といる間は、その名前を絶対に出すな、と。
私だって最初から征十郎が気に食わなかったわけではない。千明から、好きな人話題を振られるまでは。冷静に考えられる時、それほど征十郎が嫌いではない自分を発見することだってあるのだ。征十郎は某会社の社長で、それなりに名を知られていた。身体が資本ということで、トライアスロンに出場して優勝するくらい、体力がある。計画的実行力のある人物、と私もそれなりに評価している、その部分においては。けれど人間、それだけではないのだ。もっとも大切なのは裏の無いこと、それを征十郎はやっていない。そんなことない、と千明は言うけれど、私にはわかるのだ。説明しろ、と言われても、勘のようなもので察知するので、説明できる訳が無い。でも、私には分かった。そして、征十郎が私がそれに勘付いていることも、知っていた。
だから、征十郎は私に、名を呼ぶな、と言ってきた。そうやって、私を組み敷こうとしているのだ。触れてはならないものに触れた者に対する罰のように、彼は冷ややかに言ってきた。私は気が強い。大人しく組み敷かれることなど、まっぴらだった。物理的に技を仕掛けられたら、組み敷かれてしまうかもしれない。征十郎は柔道も空手も合気道も免許を持っている。物理的に適うことは無い。けれど、自分の意思を掛けた戦いなら対等だった。負けるつもりは無い。

彼の婉曲的な命令に背いた。足は震えなかった。震えないように、全力で気を送っていた。言葉を発した瞬間以外は、奥歯を噛み締めていた。
嫌、と答えても征十郎は表情を変えなかった。すでに想定していた答えだったのか、否か。真太郎さんと将棋を指している時の表情も、こんな感じだった。つまり、これは対局と同じ状況、ということだ。真太郎さんは征十郎に将棋で一度もかったことがない。私も将棋なら負けるかもしれない。でも、これは私に分がある勝負だ。私の意志で決めることだ。
『呼び捨てが問題だったのよ』
ずっと後、私が千明と暮らし始めた頃に、母が教えてくれた。
『赤司さんは呼び捨てにされるのが好きではないの』
そんなことは知っていた。だから、絶対に、それ以外で呼ばないと決めていたのだ。

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