ジャンル:魔法少女育成計画 お題:来年のいたずら 必須要素:ガラパゴス諸島 制限時間:1時間 読者:385 人 文字数:3970字 お気に入り:0人

新春ガラパゴス計画


親に呼ばれて部屋を離れ、三十分ほど手伝いをして戻ってきた時にはベッドにプフレが居た。金髪をベッドにばらまき、眼帯を外し、車椅子を脇に放置し、靴を脱いで護の勉強椅子に置いてあったはずのクッションを腹に抱えて微笑と共に魔法の端末を操作している。
扉の前で固まっている此方を気にも留めない風だったが、扉の向こうから冷風が吹き込んでくるのが不快だったのか、ややあって目を端末から離す。端末を握る手は操作を続けたまま、赤錆びた双眸をぐっと上方に向け、首だけを僅かに巡らせてやや無理やりに目線を合わせてきた。

「気分だよ」
「気分で変身して部屋に居座らないでくださいよ……」

車椅子の下にはきちんと新聞紙が広げてあった。毎度毎度車椅子と靴を適当な場所に放り投げることはかなり腹に据えかねていたので、そこは譲歩してくれたのかもしれない。部屋から出て行ってほしい、ベッドを占領しないでほしいということについては何度も主張しているのだが庚江が聞いてくれた試しはない。


護が最大級の溜息を零しながら部屋に入り、扉を閉めるのを見届けて、プフレは魔法の端末に目を戻した。同時に半身になっていた身体をずりずりと動かし、仰向けになる。中空に端末を差し上げて、相変わらず忙しそうに何かしらの文章を叩き込んでいるらしい。

「お嬢の部屋には端末に接続できるキーボードがあるんだから、部屋で作業をしたほうが効率的でしょうに」
「護は時々よくわからないことを言うね」
「私にとっては、お嬢が突然部屋に現れてることの方がわけがわからないですけど」
「そんなことを言って。護もそこまで驚いていなかっただろうに」
本心を突かれてぐっと詰まった。庚江が護の部屋を唐突に占拠することは今に始まったことではない。小さい頃からずっとそうだった。庚江は我が物顔で護の部屋に入り、ジュースはないのかお菓子はないのかと、客人としてはあるまじき態度で護を苛立たせていた。
今は庚江は庚江ではなく――魔法少女・プフレとしてベッドに比較的ちんまりと寝っ転がっているが、その風体は庚江と何かしら似通った部分がある。つまり、部屋を開ければ庚江、もしくはプフレが居た、というのは、そう驚くような出来事ではないのだ。

驚くことがなくなってきた自分に腹を立てているのだと、言ってもプフレは笑うだけだろう。

「わかってると思いますけど、外には気を付けてて下さいよ、親が入ってくるかもしれませんから」
「私にそんな不注意があるはずもないだろう」

それもそうだ。人小路邸に魔法少女が生息しているというのは誰も知らないことで、護が変身する魔法少女――シャドウゲールよりも、より高い頻度で出没するプフレが、人に見つかることに関して気を配っていない筈がない。

しかし本当に、ここ数週間のプフレの出没具合は恐ろしいものだった。
プフレは最近とても忙しそうにしている。学校をちょくちょく休み、食事をとらず部屋に引きこもり、親の前にも顔を出さないことさえあるのだと言う。まず間違いなく人目を逃れている間は庚江はプフレをしている。それは庚江がここ半年ほどかかりきりになっている「魔法少女」としての仕事が影響しているのだと思う。


職業としての、魔法の国から給金を貰う立場の魔法少女――そんなものが存在したことがまず護にとっては驚きでしかなかったが、こうしてプフレが何かしらの作業に勤しんでいるのにも見馴れてしまってからはそこまでの驚愕でもない。
「プフレ」としての用事で庚江がどこかしらに出張に行くのも見てきたし(お土産だよ、とぶつけられたゴーグルは一体何だったのだろうか)、この人小路邸に魔法少女が訪問してくることさえもあった。

何かしら人小路庚江の頭脳が『魔法の国』で重用されているのだろう。そんなものを使っているといつか内部から食い荒らされるぞと、脳内で『魔法の国』にこっそり警告を送る。


「護はガラパゴスイグアナという生きものを知っているかい」
「は?」

『魔法の国』へ警鐘を打ち鳴らすのに忙しく、最初はプフレの言っている言葉がうまく耳に入ってこなかったのだろうと思った。すみません、と一言詫びてもう一度「ガラパゴスイグアナ」と丁寧に繰り返されてもまだ理解が及ばない。

「ガラパゴスイグアナ?」
「ガラパゴスイグアナ」
「イグアナって、動物園に居た……ようなきがする、あのトカゲみたいな」
「そうだよ。遠足で行った動物園のふれあいコーナーで、護が触ろうとして半泣きになっていた、あのイグアナ」
「……」

余計なことを思い出させるなと振り返ると、プフレの口元が吊り上がっている。そもそもイグアナを触れ触れとけしかけたのは小学校当時の庚江だったはずだ。
こういう話題は乗っかれば乗っかるだけ庚江の得になる。怒りをぐっとこらえ、余計な茶々は無視して問いかけだけに答えようと意識する。こういう時に自分の精神的成長を感じる。

イグアナ。ガラパゴス。その二つの単語は勿論知っていたが、それが合体した生きものが存在しているということは知らなかった。
そもそもガラパゴスという意味さえあまりよくわかっていないのだ。というかプフレは今まで『魔法の国』関連の仕事で忙しくしていたのではなかったのか。それが何故ガラパゴスでイグアナの話を振ってくるのだろう。


わからないことは、聞けば庚江はほとんど必ずと言っていいほど答えてくれるが、その時に必ず多少のからかいや呆れを語調に込めるため腹が立つのであまり問いかけたくはない。
そもそも庚江がもっともらしく告げる内容が本当なのか判別する知識が此方には無いのだからどうしようもない。

「悪戯好き」という言葉では片づけられない程に庚江は周囲の人間に何かしらの悪戯を仕掛ける。小学生の頃からその悪質さは全く変わっていない。
その辺りは成長しないままに目の前のお嬢様は好き放題に手や足をどんどん伸ばし、護の背を当然といった風に追い抜き、気付けば才色兼備で通せる姿になってしまった。一見すれば何の弛みもないような女子高生が、小学生もかくやと言うような子供じみた悪戯を仕掛けてくるのは、腹立たしいを通り越して一種不気味でさえある。

「いや、知らないです」
「ガラパゴスイグアナというのはね」
「あ、自分で調べます。お嬢の口を労させるわけにはいきませんから」
「……」

魔法の端末を取り出し、検索欄にその謎めいた生きものの名前を打ち込む。知らないものは人に聞く。それが出来ないのであれば自分で調べる。庚江に質問をすると大概求めていたものとは異なる返答が来るので極力問いを投げない。

「まあそう冷たくすることもないだろう」
「ぅ」

瞬き一つ。その間にプフレが隣に来て、あ、と思った時には護がそれまで握っていた魔法の端末を奪い取られていた。
「これは没収させてもらうよ」と、何の権利あってかプフレは両目を眇める。赤く塗られた爪でかつかつと画面を叩きながら端末を弄んでいた。
ベッドから降りた音も聞こえなかった。魔法少女としての身体能力の無駄遣いだとしか思えない。
護が取り返そうと伸ばす手を鼻歌交じりと言った調子ですいすいと潜り抜け、無言で睨む此方を相手取ってプフレはにっこりと笑い、魔法の端末を奪ったままベッドに戻っていった。

魔法少女と人間の身体能力差をこれでもかという程に見せつけられて、気分が良い筈もない。魔法少女の中では身体能力に劣るプフレも、人間――それもそう体力に自信のない人間である魚山護を相手にするのなら小指一本ででも片を付けられる。

つくづく化物だと、「魔法少女」らしからぬ恥じらいのなさ、あられもなさでベッドに勢いよく横たわって、ドレスの裾から細い脹脛から太腿にかけてを露出させているプフレをちらりと見遣る。
魔法少女を化物と呼ぶのなら、自分もまあ、化物の一種ではあるのだけれど。


「で、何なんですか。そこまでして説明したいんですか、ガラパゴスイグアナ」
「いや別にそこまでのことでもなかったんだけどね。軽い雑談をしようと思ったんだよ」
「はあ……」

では何故魔法の端末を奪ったんだ。怒りを無視することも億劫になってきたが、どうにかこうにか抑え込む。自分の精神的成長をひしひしと感じた。
プフレは一切頓着しない様子で言葉を続ける。今度はうつ伏せになって魔法の端末を操作していた。

「ガラパゴスイグアナというのは、極めて珍しい生態をしているんだ。ガラパゴス諸島を代表するユニークな生物だと言う者もいるね」
「はあ」
「彼らはリクイグアナでありウミイグアナなんだ。ハイブリットな存在になることで生存競争を勝ち抜いたんだよ。と言っても言葉ほどに簡単なことではなくてだね、彼らは――」

そこで枕もとの端末がちりちりと鳴った。プフレの魔法の端末が立てる入電音だ。
プフレはそれに手を伸ばし、「ああ……、後は調べて」と軽く言い捨てて電話を始める。同時に今まで手元に握っていた魔法の端末を投げて寄越してきた。

「……ん?」

つまりプフレが今まで弄っていた魔法の端末は、プフレのものではない。では誰のものかと言えばシャドウゲールのものだ。

「ちょっ」
「はいもしもし」
「……」

電話が始まってしまえばプフレに文句を言うことはできない。今度こそ堪忍袋の緒が切れたので、電話が終わりしだい部屋から蹴りだそうと意思を高める。とにかく被害状況を確認しようと端末に目を落とすと、カレンダーが開かれていた。護の予定表代わりになっているアプリだ。
開かれているのは来年の一月。一月の二週間ほどを「私とガラパゴス諸島に旅行」というメッセージが占拠していた。

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