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何気ない日常の一コマ。

「……」
「何をしている」
「いやー、これはちょっと可哀想かなと思って」
 そう言って沢渡が示したのは一羽のヒナだった。零児は今気づいたとばかりに視線を向けると、まだ羽も生えそろっていないような小さいヒナだ。おそらく巣から落ちてしまったのだろうと思い、上を向けば木の上に巣が一つあった。沢渡も隣で見つけたようで、あっと声を上げる。
「社長、デュエルディスク持ってる?」
「アクションフィールドを展開できるような施設はここにない」
「あっそ」
 しゃーないな、と言った沢渡は、ジャケットを脱いで零児に渡すと木に足を掛けた。思いのほか器用に登っていく沢渡の姿を見て、榊遊矢だったらもっと簡単にやってしまうのだろうな、と思う。遊矢は運動神経がいいのだ。
「ほい、もう落ちんじゃねーぞ」
 そう言いながら巣の中にヒナを戻してやる沢渡の笑みは優しい。そんな表情もするのか、などと思いながらそんな様子を見ていると、視線に気づいた沢渡が零児に手を振ってきた。
「危ないぞ」
「大丈夫だって」
「そうやってすぐ調子に乗るのが、君の悪い癖だ」
「はいはい」
 聞いているのかいないのか、零児の忠告を受け流しながら行きと同様に降りてきた沢渡は、少し顔をしかめつつも服の汚れを払って手を伸ばした。
「なんだ?」
「ジャケット」
「ああ」
 素直に渡してやるとジャケットを羽織る。そんな沢渡を見て、零児はやはり沢渡には制服姿が似合っている、と思う。言わないだけだが。沢渡は指先を見て顔をしかめている。
「どうした」
「木のカスみたいのがちょっと刺さったみたいで」
 見れば、沢渡の人差し指の先、黒いものが刺さっているのが見えた。小さく黒いものは間違いなく木に登った際に刺さったものだろう。指でつまんで押し出そうとすれば、痛いからと拒否された。
「今のところはそんな痛くないけど、やっぱ刺激を与えると痛いかな。さすがに社長でもトゲ抜き持ってないよね」
「持ち合わせていないな。すぐに帰ろう、家にはある」
「それがいいかな、抜いてくれる?」
「………トゲをだな?」
「なんだと思ったの」
「いや、なにも」
「社長のえっち」
「曲解するな」
 けらけらと笑う沢渡に、零児は誤魔化すようにして眼鏡のブリッジを上げた。ヒナを戻してやる姿を格好良いと思ったなんて、やはりつけあがるから言わないでおこうと決意しながら。

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