ジャンル:ハイキュー!! 黒大 お題:絶望的な誤解 制限時間:2時間 読者:324 人 文字数:3252字 お気に入り:0人

積み木とお手玉


 道行くカップル、買い物をする夫婦。
 あちこちに広がっている幸せの笑み。
 甘い香りをさせた少年が横を通り過ぎてゆく。
 さあ誰か。
 俺に「運命」を教えてくれ。
 
 今からたった100年前に発見された第二の性、アルファ、ベータ、オメガ。それはそれまでの常識を根本から覆すものだったらしく、今でもその性を認めない層がいる。
 昔は今よりももっと性別の壁が厚くて、女しか子供は産めず、男しか孕ませられない時代だったそうだ。現代っ子の俺には分からないことだが、窮屈な時代だったのだろうと思う。でもそれが常識だったんだから不思議だ。
 今じゃアルファの男女、ベータの男が孕ませられ、オメガの男女とベータの女が子供を産む時代。昔より可能性が広がったと俺は思うし、人間の進化だって見方が一般的だ。
 けれど古い考えの年齢層はそうは思わないらしく、未だに差別意識がある。13歳で受ける第二性別検査で俺がオメガだと発覚した時、祖父母はえらく俺の両親を非難した。俺にはどうしたって理解できない感覚だ。ひけらかすものでもないし、昔よりも自由度が増したのならそれでいいと思うのは、やはり現代っ子だからだろうか。
「大地ってさー」
「んー?」
「『運命のヒト』って、信じるクチ?」
 第二の性、とりわけアルファとオメガを語るのに欠かせないのが「運命」の話。
 ベータ人口が6割を占める現状を鑑みれば、アルファとオメガが物珍しいと思われてしまうのも無理はない。
 田舎だからってのもあるかもしれないけれど、中高でもアルファとオメガは少数派だった。
「『運命』か……どうだろうなァ」
「隣のクラスの子、お相手見つけたみたいで嬉しそうだったからさあ。大地にもそういうのあるのかなって」
『運命』とは、特定のアルファとオメガが出会うとその相手のこと以外考えられなくなるって症状のことだ。子供を産める状態になる発情期、オメガが出すフェロモンは基本的にアルファに項を噛まれることで制御できるようになるが、「運命」の相手とは避妊しなけりゃ百パー妊娠するという。発情期抑制剤や避妊剤を飲んでも、だ。しかしその「運命」の相手を見つけるには出会う外ない。しかも、「会ってビビビとくる相手がその相手」といういい加減な判断の仕方。だから未だにこの症状に「運命」という名前がついている。正確にはちゃんとした名称があるけれど、浸透率は低い。
「どうしたって、会わないことには分かんねえべ」
「だよなあ。でも、大地もあんな風になるのかなって思うと、見てみたい気もする」
「あんな風?」
「隣のクラスの子な、今、きらっきらしてる。この世の春は自分のもの! って言いふらしてるみたいな。いっぱい言い寄られてたのにぜーんぶ断って、その相手に夢中なんだよね。あー! 俺もそんな風に誰かに夢中になりてーよ。いいなあアルファとオメガ」
「これだけ人口が居るんだ、会えるかも分からないんだぞ? それより、俺は会える人と幸せになれる方が良いな。『運命』とやらで不幸になった人の話とかあるだろ」
「そりゃそうだけどさあ……俺だって夢みたいよチクショー……バレーも良いけど恋愛も青春してーよ」
「それは同感だな」
 お互い苦笑いを浮かべたところで本鈴。1時間目から眠い古文の授業だ。この授業を最後まで起きておくためには、7割考え事3割授業という配分が一番いい。
 何だか、見た目も振る舞いもお父さんって言われることが多いから誤解されがちだけど、俺だって恋愛のひとつやふたつしてみたい。こちとら立派な高校生だ。異性に意識が向くのも当然だろう。
 さっきスガに言われた時は誤魔化したけれど、「運命」はある。多分間違いない。何となく感覚で分かってしまうのだ。ひとつのお手玉――手のひらサイズのビーズクッションみたいな、中身が小豆ではないものだ――を何となく持て余しているような、そんな感覚。今までは、人を好きになって恋をして、その時はお手玉のことを忘れていたけれど、失恋した途端にまたそれが手の中にあるような、奇妙な錯覚に陥っていた。今はもう誰も好きではないから、そのお手玉を緩く握っているだけ。俺の場合はお手玉だけど、アルファやオメガの中には似たような感覚を持つ奴が多い。「運命」の相手に出会えばそれがどうにかなることまでは皆教えてくれるけれど、どうなるかまでは教えてくれない。出会ってみれば分かるよと意味深に笑うだけで、誰も何も言わないのが気味悪い。
 お手玉がどうなれば「運命」の相手だと分かるんだろう。お手玉が消える? もうひとつ増える? 布が破けてビーズが辺りに散らばる? 一体何が正解なんだ? てか居場所さえ分かったら見に行けるし実際そういうイメージ持ってて出会えた奴もいたってのに、どうして俺はお手玉なんだ。不便この上ない。俺の「運命」のアルファが会いに来てくれたら話は早いんだが。
 これといったイメージも持つことなく授業終了の本鈴が鳴る。お手玉は手の中。古文のノートは完璧だ。
 
 ピリリ、と体に電気が走る。
 GWの合宿中、ずっとこんな調子だ。
 他のメンバーや監督、先生にはバレてないみたいだけど、スガにはそれとなく注意された。
「らしくないよ。もしかして明日の、緊張してる」
「……かもな」
 スガの言う通りかつての宿敵・音駒との対戦で緊張感が高まっているのかもしれないと思う反面、それだけじゃ説明しきれないもやもやしたものがある。
 落ち着かない時は想像上のお手玉を真上に放っては受け放っては受けと単純な行動で意識を逸らしていくけれど、この合宿中では放ってもうまく受けられず落としてばかり。上手くいかないこの感じには何となく覚えがあるような気がした。
「嵐でも来るかな……」
 風呂上り、窓の外を見てひんやりした廊下を歩きながらひとりごちた。
 
「――……ッ」
 何か来る、来ている、そういう感覚で目を覚まし飛び起きる。神経を尖らせ、辺りを見渡した。誰も起きていない。俺以外は皆夢の中だ。
 心臓がうるさい。胸の辺りを掴んでそっとゆっくり深呼吸しながら、それでも警戒心は解かず、目を瞑る。何か起こるのは明確で、でも正体が分からない。嫌なことではないけれど、危険なことではあると予想してみたが、役に立つかは別だ。随分落ち着いたところで時間を見てみると、予定起床時刻まであと10分を切ったところだった。もう起きていようか。
 胸を掴んでいた手を開くと、お手玉があった。

 5月6日、午前8時50分。
 烏野総合運動公園球戯場。
 因縁校との対面。
 集合と声を掛けたのは俺、並んでいた彼らの前にチームを整列させる。
 俺は、因縁校の主将の前へ。
 長身、変な髪型、細い目、
 ――……俺を見ている、目。
「挨拶!」
 頭を下げて、試合前のそれを行う。
 間違いようのない確証が此処にあった。
 しかしそれでも疑うべきだ、俺は、まだ信じ切らず、余裕のできた試合後にでも話しかけようと思った。
 が。
 「今日は宜しくお願いします」
 「こちらこそ宜しくお願いします」
 主将同士、張り付けた笑みで交わした形式的な握手。
 手を放した時、いつも意識の中に合ったお手玉がつままれ、するりとそのまま奪われて、代わりに木製の小さな円錐が渡されたのを幻視した。
 見上げれば目の前の男が、音駒の主将が、俺のお手玉を掌に乗せ、挑発的でありながら慈しむような、そんな目を向けていた。
 ああ、そうか。
 「分かる」とは、こういうことを言うのか。
 最早間違うことも、疑う余地もなかった。
 今まで誰も干渉できなかったそれに触れ、同じくそうであったろうものを寄越し、熱っぽい目をするなんて、言葉で確認するまでもない。

 とっとと会いに来てくれればいいのに、なんて願いを叶えるためはるばる東京からお越しなすった因縁の相手、その主将こそが、俺の「運命」の相手だ。

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