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花見を、貴方と。【正臣+臨也】


 薄紅色の花びらが、無機質なコンクリートを埋めている。風に吹かれて隅に追いやられていく花びらは、風の渦に絡まって踊る様に舞っているようだ。
 くるくる、くるくる、と風が吹く度に同じ隅を回っている花びらが、酷く滑稽に思えた。何度も、何度も、同じことの繰り返しては自ら動く術もなく風に絡まって解けることはない。まるで、自分と臨也さんの関係に似ている。自ら動けないと悟った振りをして、動くことを諦めた只の無力な餓鬼に訪れる未来は…。

「ああ、来たのかい。正臣君」
「…お疲れ様です、臨也さん」

 反射的に労いの言葉を掛けることには、慣れてきていた。初めこそ拒絶したい気持ちを抑えていたが、時間の経過と言うのは感情を薄めてくれるらしく、今では抵抗無く言葉が出る様になった。春が近づいているというのに、季節を戻していくような真っ黒なコートも、見慣れてしまった。時折ファーを手で払う仕草も、風景になる程にいつの間にか時間は過ぎているらしい。

「花見でもしたいの?」
「こうして土の栄養になっていく桜の末路を、儚んでいただけですよ」
「感傷的だね。実に人間らしくて好みだよ」
「反吐が出ます」
「代わり映えのない返事には、流石に飽きたけどね」

 殺意を込めて睨んでみせると、浮かべていた笑みを一層深める。押しては引き、引いては押してを繰り返す遊びの様だ。飽きたのはお互いだろうか、それももう考えることすら面倒だ。

「…そうですね」

 何度も繰り返される楽しそうな表情と変わらないやり取りに、胸を焦がしていく憎悪や嫌悪感が、無色になるのを感じる。

(俺も、無色になってしまえば楽になるだろうか)

ふ、と口が綻ぶのを感じると、楽し気な笑みに変化が訪れることに気付く。そうして、ひと際口元が結ばれてこちらの出方を伺うのも見て取れた。それに応えようと、視線だけを向ける。

「いいねぇ…よく似ているよ、紀田正臣君。友達って似るものだとよく聞くけど、正臣君と帝人君は似ていないものだと思っていたんだ。それがどうだ、追い込まれて瀕した時の反応に変化が訪れるときの君の顔!ねぇ、今君はいつかの帝人君の表情に合致していたよ。君は嬉しい?悲しい?それとも、帝人君のように俺を一つの風景にしか捉えなくなったのかなぁ。ねぇ、正臣君」
「…俺の次の仕事はなんですか?臨也さん」

 いつもと違う、表情だった。

 驚きや、好奇心が満たされた時の浮ついた顔つきではなく、ほんの些細な疑問が生じた時の隙間があった顔。そうして、何かが抜け落ちていったのを、俺は確かに目にした気がする。

「今日はもう仕事はないよ。あると言えば、俺を事務所まで送り届けることくらいか」
「分かりました」

 声に喜びすら滲ませる俺に、訝し気な皺が一本生じる。けれど、やはり好奇心だけは消えていない。

(ああ、なんだ。こんなに、変わるものなのか)

「臨也さん、それなら行きたい所があるんですが」
「…どこだい?場所によっては、俺も付いていこうか」

「…さくら。
 桜、一緒に見に行きませんか?きっと、綺麗ですよ」

(提供されると、喜ぶなんて。
 アンタ、以外と分かりやすいんですね)


くるくる、と桜が相変わらず回っている。


(花見をしたら、そのあとに…)




 昔の様に、笑って見せようか。

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