ジャンル:ゼルダの伝説 お題:朝の傘 制限時間:1時間 読者:469 人 文字数:3164字 お気に入り:0人

魂の在処

 時の勇者とゴーストショップの主人のお話。 
心の赴くままに書いてます。メタいかもしれない。
 相変わらずリンク君は喋らないし、喋っている人も口調が迷子。


 「今日のポウはこれで全部かい?ニイさん」
 黙々とポウの品定めをしていた男は、フードで隠れた頭を少しだけ上げた。顔こそ見えなかったが、その目が自分のことを見つめていることが、リンクには手に取るようにわかった。
 誰が買いに来るのか、このゴーストショップの主人は、リンクが捕まえたポウを買い取ってくれるのだ。仕事につく暇もない彼にとってはありがたい存在だったが、飄々としながらも不気味な雰囲気ただようその男が、リンクはどうも苦手だった。
 リンクの目の前で、主人は3つ目の瓶からポウを取り出す所だ。空中に漂うポウは形を持たないものだが、男の指は器用にそれを瓶から摘み出す。そして、珍しい昆虫か何かのように檻の中に閉じ込めてしまう。隙間のある籠に閉じ込められたポウ達が何故抜け出せないのか、リンクはいつも不思議だった。
「そりゃあ、ニイさん。この檻は特別製だからね。抜け出せないように、格子に呪文が書いてあるのさ」
 男が気味の悪い声で言う。こんなふうに考えていることを当てられるのも、一度や二度ではない。リンクの心を読むことが出来るというのはどうやら本当にらしい。
 「ところで、今日はニイさんに頼みたいことがあるんだが」
 いつもならすぐに代金を渡されておしまいだが、今日は違うようだ。
「大したことじゃないサ。アンタにあった時から、ずっと言いたかった事があってねぇ」
 瓶を手に持ったままリンクは戸惑って首を傾げた。ガノンドロフと繋がっている可能性のあるこの人物には警戒していたが、子供のままの好奇心が頭をもたげた。
「この後、特にやることは無いんだろう?ちょっと付き合ってくれないかい?お茶くらいは出すよ」
 今までに幾度かこの店を利用したが、こんなことは初めてだ。思わぬ誘いにリンクが驚いていると、帽子の中に隠れていたナビィが「Listen!」と小さく叫んだ。
「リンク、気をつけて!悪い人かもしれないヨ!」
 それは小さな、リンクにしか聞こえないほど小さな声だったが、どうやら彼にはわかってしまったらしい。
「アンタの相棒を傷つけるつもりはないよ、妖精の嬢ちゃん」
 驚いたナビィが現れるが、別段驚く様子もなく男は言葉を続けた。
「それに、肝心のニイさんは聞きたくってたまんないって顔してるぜ」
 ニヤニヤ笑いながら男はとひょいとリンクの方へ顎をしゃくる。
 じっさい、その通りだった。頭をもたげた好奇心は、いつの間にか抑えがたいものになっていたのだ。
 武器はいつでも取り出せるようになっているし、出入口も開いている。もし戦う事になっても、きっとやられはしないだろう。
 不安げな相棒を指先で撫でながら、リンクは男の前に立った。
 それを肯定の意と受け取り、男は満足気に笑うと、粗末な椅子をリンクに勧めた。それから、ゆっくりとした動作で、どこからか小さな鍋と焜炉を取り出すと、濃いコーヒーを淹れ始めた。ふつふつと煮たったところに、黒い砂糖を入れる。
「牛乳は無いんだよ。ロンロン牧場の雰囲気がどうも苦手でね」
 マグに注がれたコーヒーをリンクは無言で受け取った。手のひらを伝わる熱と、甘く香ばしい香り。ナビィが何も言わないので、毒が入っているわけではないようだが、口をつける気にはならなかった。
「リンクに言いたかった事って?」
 尋ねるナビィを一瞬だけ見遣り、男は再びリンクを見た。
「ポウは死者の魂だが、ポウを扱っていると、生者の魂にまで興味が向くようになる」
 ゆっくりとそう切り出す。
「ポウを見てもわかるように、生者の胸の中には炎が燃えていて、人間の肉体や、感情や、人生の全てはその炎の経験の為にある。」
 そこで言葉を切って、男はコーヒーに口をつけた。しかし、その目はリンクに注がれている。それも、リンクの胸のちょうど真ん中辺だ。
「何が言いたいのかさっぱりわからないヨ。それがリンクとどんな関係があるの?」
「まだ話は始まったばかりだよ」
 男はリンクの胸を凝視しながら話を続けた。
「……とまぁ、あんたに会うまではそう思っていたわけだ。だけど、あんたが初めてここに来た時、あんたの胸の中にある魂を垣間見て見て驚いたよ。ニイさんの魂は今まで見たことがないくらい、珍しいものだ」
 おもむろに手を伸ばして、男はリンクの胸に触れた。
「ちょっとよく見せてもらうよ」
「っう……」
 男の指が触れた途端、リンクの口から呻き声が漏れた。上着越しであるにも関わらず、その手がとても冷たいと感じたのだ。まるで、男の指先から冷気が出て、リンクの胸の中に染みこんでいくように思えた。
「あぁ……これだ」
 リンクをよそに、男はため息まじりに呟いた。
「ニイさんの魂はまるで2つに引き裂かれているようだ。ニイさんの魂に隣り合って、もうひとつの魂がある。生きているのか死んでいるのかわからないが、強い力を持った魂だねぇ。おや、この世界のものじゃないようだ。まるで……」
 そこまで聞いた時、触れる指の冷たさに耐えかねて、リンクはさっと身を引いた。
 まるで呪縛から解かれたような気分だ。
 そう考えた途端に吐き気に似た感覚がこみ上げて来た。リンクはそれを止めようとして、混乱のまま、咄嗟に持っていたカップの中身を喉に流し込んだ。苦甘い液体が喉を流れていく感覚に冷静さが少しだけ戻ってくる。
 ナビィが彼の名前を繰り返し呼んでいる。見ると、彼女は心配そうな様子で、リンクの周りを飛び回っていた。
「リンク、なんだか苦しそう……大丈夫?」
 尋ねるナビィに頷くと、落ち着いたようで、彼女は再びリンクの肩に落ち着いた。
「リンクに何したの?」
 ナビィが男に怒りの眼差しを向けているのがはっきりとわかった。
「……何もしてないサ。少し覗いただけだ」
 ナビィの質問に答えつつも、男はナビィの方を見ようともしない。
 いつか、男はいつもの飄々とした雰囲気を取り戻していた。
「でも……」
「良いモノを見せてもらったから今日は弾んでやるよ。少しだがね」
 尚も言い及ぶナビィを無視して、男は幾らかのルピーをリンクに投げ渡した。それは確かに、いつもより少しだけ多かった。
「いつかニイさんがポウになったら、あんたの魂を捕まえてとっくりと研究したいもんだ」
 店を出て行くリンクを見送りながら、男はそんな事を言った。

 ゴーストショップを出て、エポナをあてどなく走らせながらリンクは男が言っていたことの意味を考えていた。いや、正確には、男の言葉の意味と、その直後に感じた吐き気の感覚について。
 店を出たからか、気分の悪さは収まっていたが、それが余計にリンクの不安を煽っていた。
「……あんな人の言うこと気にすることないヨ。よく分からなかったけれど、リンクはリンクだもの」
 彼の不安を感じたのだろう。チャットが優しくリンクの頬に触れる。
「それに、ナビィはリンクが死んじゃったりしないように頑張るヨ!だから大丈夫。……それよりも、今日はもう休もう?」
 ナビィの言葉に、リンクが辺りを見回すと、いつの間にか辺りは夕焼けの燃えるような光に満ちていた。西の空を見上げると、もう日が沈もうとしていた。
 リンクは少しだけ躊躇っていたが、やがてエポナをカカリコ村へ走らせた。
 分からない事を考えている時間など、彼にはなかった。彼には救うべきものがあるのだから。
 風を切りながら、リンクはハイラル平原をまっすぐに横切って行く。それを見ていたのは、空にかかり始めた月だけであった。

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